「西国図書室に行くけど、一緒に行く?」

今日も外は絵に描いたような猛暑日。
持参したクルミがコトリと音をたてた。
「行きます!」

奥さんとヒゲヅラのご主人、
それと涼しげな女性を乗せ、マンションから車で出発。
後部座席に小さく座って、
青空に置きざりにされた入道雲を数えながら、
夏の日の記憶を辿っていた。
「お名前は?」
女性に話しかけられた。
「ぁ・・・ラピタです・・・」
・・・緊張してしまった。

5分ほどで到着。
商店の面影を残す白い建物。
人の暖かみが溢れる室内から、せわし気に、
しかし朗らかに笑みをたたえた女性が出てきた。
「こんにちは!いらっしゃい」
「ラピタです、こんにちは」
しっかり挨拶できたと思う
・・緊張した。

集まった面々は、なんだかみんな嬉しそう。
「実際にこの日を迎えるとなんだか緊張しますね」
背の高い優しそうな男性。
「あぁ、すごい、このスタンプよく見つけましたね」
奥さん。
「どの本にしよう・・・」
涼し気な女性。

なるほど。

「君の番だよ」
奥さんに声を掛けられて、用意してきた本を出す。
今までずっと大事にしてきた生涯の友。
「誰かに紹介したい、きみの一冊を持ってきて」
そう言われたから、準備したけど・・・。

「・・・まだ読むなら無理しなくていいよ」
迷っている僕を見て、奥さんが優しく声をかけてくれた。

僕の本は旅をするらしい。
本のはじめには、僕と本の出会い、
それから僕と本の想い出を、
本のおわりには、旅で本の出会った人たちが
その本との想い出を、それぞれ記せる。

僕だけの小さな友は、想いを背負って
この町の人だけでなく、
きっとこの空の下の皆に、
新しい明日を届ける。

$くるみの巣箱にくるみらい

そっと本を差し出した。
優しそうな男性が僕の選んだ本に本籍をつけて
同じように、そっと差し出してくれた。

小さな友は三年後の僕の誕生日に帰ってくる。
きっと沢山の土産話を携えて。


「まずは、みんなに会ってみない?」

ということで、奥さんに連れられて憧れのお部屋へ。
今日は、最近引っ越して行った人の送別会らしい。

住んでいる人、住んでいた人、働いている人…どんな人たちなんだろう。
あぁ、緊張する…。


ドキドキしながら部屋に入ると、立派な竹のセットが。
今日のメニュー、なんと流しそうめん。

くるみの巣箱にくるみらい

ご近所の方お手製、流しそうめん用の竹をお借りして、
この夏2回目の開催という。
水の加減でものすごい速さでそうめんが流れたり、
ときどき枝豆やミニトマトが流れてきたり。
みんな、かなり盛り上がってる。


くるみの巣箱にくるみらい

なかなか魅力的なすべり台です。



ここには本当にいろいろな人がいる。
年齢も仕事も性格も、違うところはたくさんあるのに、
この場の雰囲気は温かくて、なんだかとっても楽しそう。
大きな家族や親せきの集まりみたいに見えてくる。


せっかくだから、オーナーさんについて皆さんに聞いてみた。
いったいどんな人なんだろう…。

「あぁ、オーナーさんね。いろんな仕事をしている人だよ。」
「いつも忙しそうだね。」
「静かに、でも情熱的な人だよ。」
「西国分寺が大好きだよね。」
「くりっとした目が印象的だなぁ。」
「よく遅刻するかな。」
「トウモロコシが大好物らしいよ。」
「そういえば、ちょっとリスに似てる。不機嫌なリス。」
「入居前には、オーナーさんと面談しなくちゃね。」


いつも大忙しで、静かに情熱的で西国分寺が大好きな、
目がくりっとした遅刻常習犯のトウモロコシ好きの不機嫌なリス…?!

あぁぁ、緊張する…!!
生まれてはじめて、
サイの上に乗ってみた。

$くるみの巣箱にくるみらい

楽しい。

その部屋には、空に浮かんでるみたいなお庭がある。
大きなテーブルの上にはいつもお花が飾ってあって、
色んな人が出入りするけど、
そこに特定の人が住んでるようではなかった。

「ああ!コモンルームのことね。」
奥さんが、またくるみを頬張りながら言った。

「あそこは、このマンションに住んでる人、働いている人、
 みんなのお部屋なの。どうかなー。
 まずはオーナーと会ってお話してみたら?」

オーナー…緊張する響きです。

とりあえず、しばらく奥さんのところに居候しながら、
そのオーナーさんに会える日を待つことにした。

そろーり、
憧れのお部屋を、たまにちらりと覗きながら。

$くるみの巣箱にくるみらい
「ぴんぽーん」

夕食の支度をしていると、ドアのチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろうと、扉を開けると。

そこに、リスが、いた。

リスが、くるみの横に。
リスの横に、くるみが。
くるみが、リスの横に。

とにかく、リスが、いた。

「…。」

「…。」

しばらく見つめ合った後、

「あの…」

口火を切ったのはリスの方だった。

「あの…下のコーヒー屋さんで、友達のリスが住み込みで働いてて…」

リスは、早口で話し始めた。

「で、お店の上の方を見たら、巣箱みたいなマンションがあって…」

リスは、怪しい者じゃありませんということを、
なんとしても早く伝えなきゃと必死な様子だった。

「立ち話もなんだから、どうぞ入って。」
私は、リスを招き入れた。

お土産のくるみを頂きながら、
「やっぱりリスは、くるみを割るのが上手ね~。みんな上手なの?」
なんて世間話などしているうちに、
ちょっと落ち着いた様子のリス。
そして話は、いよいよ本題へと。

「あの空いている部屋なんですけど、どうやったら住めますか?」

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