某月某日、晴天。
少女の足取りは軽かった。
まるで夢を見ているかの様な軽やかな足取りに、口元には薄らと笑みを浮かべて屋上の扉を開けた。
風に長い栗色の髪を遊ばせたまま、ふらりふらり、フェンスの前まで足を進める。
銀色のそれに両手を掛け、フェンスの外側へと躍り出る。
何処までも広い空に、何処までもちっぽけな地上。
風が少女の身を叩くが、それさえも愛おしいとでも言うように彼女は微笑んだ。
ちっぽけな地上に呑み込まれるのが嫌だった。
だから空を飛べたら自由になれると思った。
唯それだけの理由の為に少女は生を繋ぎ止める両の手から力を抜いた。
彼女は一瞬浮いた後、真っ逆様に地へと墜ちていった。
ああ、今日は肉料理にしよう。
足元に転がる"それ"を見て青年は今日の晩御飯の献立を考える。
肉料理が好きなあの子はきっと喜んでくれるだろう。
唯それだけでは栄養のバランスを崩してしまうからサラダ等のサイドメニューも付けなくては。
冬も近付き寒い日が続いているからスープもいいかもしれない。
拉げて原型も留めていない肉塊を踏み付けて青年は愛おしい家族が待つ家へと帰って行った。
広がる赤に、少女は眉根に皺を寄せた。
次々と溢れ出てくる涙を拭おうとはせず、片付けられていく死体を見て少女は泣いた。
緑の瞳から溢れる雫はさながら宝石の様に美しく、野次馬の視線は惨状から彼女の涙へと移っていった。
だが少女はそんな視線に気付くことも無く、唯々消えた命の灯に涙した。
青年は届いた電子新聞に目を通す。
口に銜えたままの食パンをうまく咀嚼しながら、彼は内心で大きな溜め息を吐いた。
今月に入ってもう何人目だろうか。
頻発する自殺に違和感を持った警備隊がこの屋敷を訪れたのは丁度今から一週間前だったか。
生憎何の解決策も見出せないまま自殺者は続出するばかり。
こちらとしても正直わけの解らない事件に青年は電子新聞を閉じた。
銀色の青年は酷く不機嫌だった。
自分の大切な睡眠時間を自殺者多発の事件で起こされるなんて以ての外だった。
大体、何故死んだ人間の所為で此方が被害を被らねばならない。
青年の世界は何処までも自分中心であった。
それは生まれ持っての性格でもあり、育った環境の所為でもある。
彼の家族は仲は良いが皆自分中心の人間だった。
青年は起こしに来た家族に文句を吐き出すと、壁に掛けてあるセーターに腕を通す。
今日もいつも通りの一日を送るのだろう。
序章-終-