私は、酔いしれた。
それは、酔うというよりは狂っていた。
ただただ、自分の持つべき時間と金をジーナに費やした。
ジーナの為なら仕事も家庭も顧(カエリ)みず、ただひたすらに彼女とその妖艶な雰囲気に酔いしれたのである。
気がつけば、イラクではサダム・フセインの銅像が倒され、日本では18年ぶりに阪神タイガースがセリーグ優勝していた。

もう、ジーナと知り合って2年目が経過しようとしていた。
ジーナのお陰といってもよいのだろうか?
私の体系は20代の時のようにスリムなマッチョ、洋服も若返り、何より自慢の歌にも磨きがかかり、気がつけばタレントの大好物となっていた。
しかし、その半面、多額な授業料を払ったのも言うまでもない。東京の環七圏内で車庫付きの建売が1~2戸、買えただろうか。

そして、今やジーナは居ない。
もう彼女に会う事もないだろう。
数ヶ月前に目が覚めてみれば、これまで彼女の行動には不審な点は多々あった。
しかし、彼女に対して盲目であった私にはまったく見えなかった。
いや、見ようとしなかったのだ。

あれから2ケ月。
今、私の横には一人のタレントが寝ている。
ジーナとは風貌がまったく違うPinaである。
彼女が私の目を覚ました。
いや、覚ましてくれたのだ。
この2年間、ジーナが来日すると半年1セットで私はPPへ入り浸っていた。
日数にすれば、500日以上。
半年も前から、人伝えに、このマリテスが私に気がある事は聞いていた。
しかし、ジーナと同じ店、同年代、二人はファーストタイマーから一緒の仲。
とてもではないが、マリテスのアプローチには、嬉しくはあっても、応えられる状況にはなかった。

でも、あの日が来た。
私の目が覚める時が来たのだ。
あれは、あと1ケ月もすればジーナが帰国するという日であった。
ヘルプで初めてマリテスが私の席についた。
今考えれば、この紹介事態が不自然だった。
新人を常連客に紹介する事はあっても、マリテスのようなベテランを私に紹介するなんて、店側の策略だったに違いない。
いつも遠巻きに私を見ているのは意識していたが、こんなに近くでは互いに意識しすぎてギクシャクしていた。

1週間ほど前には、彼女が帰国するブンソのビデオ撮りを頼まれた撮影中に、私のカラオケが入った。
ステージで歌う私を隠れながらに撮影しているのに私は気づいた。
歌い終わっても、ファインダーで追いかける彼女に私が投げキッスをすると、ビックリした彼女はビデオを放り投げて、そのテーブルは大騒ぎ。(;^_^A
こんな一場面もあった。
私は彼女の気持ちは十分すぎるほどに知っていた。

しばらくは、私がリードして、たあいない話をもちかけリラックスさせた。
彼女は、そのうちに自分の生い立ちや、これまでの経歴を話し始め、フィリピン人との間に12歳になる女の子が1人居ることや、その亭主とは若い頃に別れたこと、6年間はフィリピンで靴を作って子育てをしていたことなどを話してくれた。
マリテスは自分の事を話し終えたあとにこう言った。
『イカウハ ジーナ ノコト アイシテルナノ?』
『うん。そうだなぁ。』
その頃、ジーナの気持ちがわからなくなってきた私としては、あまりにも直球な質問にためらいがあった。
『モウ フタリハ ナガイデショ。ケッコン スルノ?』
『(;^_^A 結婚は出来ないんだ。俺、日本で結婚して子供もいるから。 』
『イツモ オミセニ イルケド ファミリーハ ドウシテルノ?』
『そうだね。サラリーだけあげて、ぜんぜん帰ってないな。悪いなアコ。』
『ンゥ~ン。ソンナコトナイデス。ミンナ イロイロ デスカラ・・・・・
ナンデ ジーナト イッショ クラサナイノ?』
今考えれば、この言葉が彼女の最大の気遣いだったのだ。
しかし、その時の私にはまったく、そのシグナルが見えなかった。
『だって、一緒には暮らせないでしょう。イカウたちは、お店のバハイがあるでしょ。』
『・・・・・・・・・・・・・』
この時のマリテスは、今だから言えるが、とても意味ありげで、つぶらな瞳を私に向けて私にシグナルを送っていた。
そして、次の瞬間 マリテスは去り、ジーナが戻ってきた。
席に戻るとジーナはしきりとマリテスとの会話を聞きだそうと質問攻めだったのを今でも覚えている。

そして、その日の終業後にマリテスは意を決してジーナに迫った。
明け方のバハイでは、一歩間違えれば流血の惨事という緊迫した状況があったのだ。
当時そんな事も知らない私は、暢気(ノンキ)にも翌日これまでと同じようにジーナに電話をしていた。
しかし、彼女はいつもの希少時間になっても出ない。こんな事は、はじめてだった。
心配になった私は、3時頃から彼女たちのバハイ近くで、ジーナに電話をしていた。
早起きのタレントが私を見つけるなり近づいてきて来て言った。
『クヤァ~ モテル ハ タイヘンナァ~。。。』
最初、私は彼女の言っている意味がわからなかった。
『・・・・・・・・』
しかし、知らないと言うと彼女たちは貝になるので、知っているふりをして誘導尋問して聞き出した。

今朝方の出来事を聞いてビックリするとともに、ジーナがバハイに居ない事実も知りショックが倍増。。。。。。
心に風穴が開き、足の力が抜けてゆくのを感じた。
ジーナがバハイに居ないのは、今に始まった事ではないようだ。
そのタレントは、私とジーナが同棲していて、昨日のマリテスとの関係修復に早い時間から私がマリテスを待っていると思ったらしい。
でも、その時の私にはジーナの行き先は皆目見当がつかなかった。

私は、想像する他の男の横で寝ているジーナに、これ以上電話をする勇気もなく。
かわりに彼女たちのバハイの公衆電話を鳴らしてみた。
タイマーらしいタレントが電話にでる。
『モシモォ~シ。ダレデスカァ~?』
『ヘロー!シー タク。アテ・マリテス いますか?』
『サンダリーラン ポー(チョット待ってください。)』
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくするとマリテスが出た。
『・・・・・・・・・・・・・モシモシ。。。』
『おう、タクです。わかる?』
『ハイ。ワカリマス。』
『これから会えないかなぁ。』
『ゴメンナサイ。キノウノコトデスカ?』
『いいや、、、、ヒンディ。君に会って話がしたい。今日は同伴あるの?』
『Wala(ありません)』
『じゃあ、これから会って話ができないかな?』
『・・・・・・・・』
『大丈夫!昨日の事はアコのためディバ?だから怒ってない。マリテスにあって話がしたいだけ。』
本音は、詳しいところを聞きたかった。
『ジャァ ハナシダケネ。DUHANハ コマリマス。』
『わかった。何時にしようか?』
普通は、早くても1時間が相場なのに対し彼女の返答には驚いた。
『5フン シタラ マツザカヤ ノ マエ ニ イキマス。』
私は、了解して待ち合わせ場所へ行った。