凱旋 | 益田郁弥の無灯火の術

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『宇部岬叙景』


勝比古は思った、やっと一人前の男になったと。



駅近くの「ミートデリカ山下」という築年数のえげつない精肉店の前に勝比古は佇んでいた。


そのお店は焼き鳥もやっていて、初めて親に連れられて焼き鳥を店先で食べたとき、衝撃が走った。

勝比古「…美味すぎる!」

勝比古はいつかお金を貯めて焼き鳥を食べたい、そう思った。

しかし、勝比古にはおこずかいというものが存在しない。

勝比古「どうしよう……そうだ、お手伝いでお金を稼ごう!」

勝比古の家にはルールがある。お風呂掃除をすると一回につき五円が母親から支給される。

勝比古「鶏皮が一本60円だから、12日お手伝いをすれば買える!」

しかし勝比古は悩んでいた。
その焼き鳥の中で一番高い豚バラ串が売っていた。それをいつか絶対食べたいと思っていた。

勝比古「鶏皮と豚バラを一度に両方買ってやるぞ!!豚バラが一本80円だから合わせて140円、28日で隔週に一回休みを入れてちょうど1ヶ月お手伝いすれば買える!!」

もはや決心したわりにきっちり休みを設けることや豚バラ串は焼き鳥ではないことなど勝比古とってはどうでもよかった。



そして時は来た。

店の前で凛とした表情で佇む勝比古。
青空を突き抜けるような声でこう叫んだ。

勝比古「おじちゃん!鶏皮と豚バラ一本ずつ!」

おじちゃん「あいよ!140円ね!ちょっと焼くから待っててね。」

五円ばかりで渡した為、店のひとに嫌な顔をされたが、そんなことは勝比古にとっては全く関係なかった。

そこへ同じクラスの丸岡くんがやって来た。

勝比古「丸ちゃんも買いに来たの?」

丸岡「うん。ちょっと小腹空いたから」

勝比古「そうなんだ。」

丸岡「じゃー豚バラ11本!」

勝比古「……11本!?」

おじちゃん「11本!?…あいよ」

勝比古は何がなんだか分からない、異次元に放り込まれた感覚に陥った。






焼き鳥の味が一切しなかった。