アメリカのインターンシップについて 

~米国社会に組み込まれたインターンシップの現在
 

ドラマ映画『マイ・インターン』での普段のインターンシップ風景

 アメリカのコメディドラマ映画『マイ・インターン』をご覧になられましたでしょうか? 今日は、閑話休題。少しだけアメリカのインターンシップの様子をお話したく思います。
 この映画では、ロバート・デ・ニーロ扮する70歳のベン・ウィテカーがニューヨークにあるファッションのeコマース新興企業に、若者4人とともにインターンシップとして採用されたことから始まるドラマです。そこでは、人生経験豊かなベンがアン・ハサウェイ扮する若き女性CEOの悩みを聞いて助けてゆく主題ですが、他方、そこで共に働く若きインターンたち・学生インターンたちがそれぞれ失敗をしたり、また懸命にスキルを身に着けようとして奮闘する、よくあるシーンが実にうまく描かれています。


社会に組み込まれているインターンシップの状況
 アメリカのインターンシップは、日本のインターンシップとは異なって相当、社会に組み込まれている様子です。1960年頃インターンシップ制度が現れて、特に1970年代後半から80年代一杯に、各大学でインターンシップに関する科目、また課外実習と学内科目受講を組み合わせたコーオプ教育といった職業体験教育を花開かせました(具体的には、1970年代初頭には200校しかインターンシップ制度がなかったのに対して、1980年代後半にはインターンシップ校は、1000校へと拡大しました)。
 

インターンシップ参加者は、フルタイムの仕事を見つけやすく、給与も高くなる。
 米国でのインターンシップの状況について、概要を少しだけご紹介しておきたく思います。インターンシップは夏季に数週間から複数月にわかって実施されることが多いものですが、2022年には417万人の学生がインターンシップを経験しました。このうち、3人に2人以上(66.4%)がインターンシップ後にフルタイムの仕事を見つけ、その給与はインターンシップ未経験者よりも平均で15,000ドル高いことが分かりました(図)。

           

            (典拠:Andrew Fennell,Internship Statistics U.S.2023, Standout CV)


 インターン参加者のうち31%は、フルタイムの就職前に複数のインターンシップを経験しています。特筆すべきは、女性の複数のインターンシップ参加率が男性の3倍であるということです。(また、有給のインターンシップ(60%)だけではなく、無給のインターンシップがあり(40%)、公平性などの点で問題が指摘されていたり、裁判が起こされたこともあります。)
 今や、就職前に複数のインターンシップに参加することが日常の風景となっているということになります。

 そして、こうしたことのベースとして、なぜこれだけ、インターンシップが社会に織り込まれるように発展してきたかというと、学生にとっても、企業にとっても、数週間、あるいは数か月、ともに働いて、気質、技能、将来の展望などがおのずと分かり合ったところで、採用にいたる(あるいはお断りする)ということが、企業組織の経営と運営にとって極めて有効だからということが大きくあります。



体系的就労支援体制(ワークフォース開発)と連動したインターンシップ
 ところで、インターンシップの位置づけについて少しだけ触れておきたく思います。エルトン・ゲイトウッド博士(元タコマ市の幹部であり元全米コミュニティ協議会会長)という方で、就労支援の開発に深くかかわった方ですが、米国のコンセプトを体験的に教えてくれました。
 包括的雇用訓練法(CETA:1973年)というものが制定されて以来、労働市場に、「技能・基盤を備えた、働く人たち」(ワークフォース)を本格的な職業教育・職業訓練を通じて用意するといことことが提起されました。労働市場、求職者(若者)、企業のすべてに良い形になるWin-Winの視点が重視されました。そして、そこで職業教育・職業訓練の提供することミッションとするコミュニティカレッジが中核となって、授業への産業界の視点と指導の導入、学外授業による実質的インターンシップといったもの大切にされてきたとのことです。私も、さる11月(2023年)にシアトルのノースシアトルコミュニティカレッジを訪問してきましたが、コミュニティカレッジという大学と産業企業とが密着して協働して、学生の支援とインターンシップをすすめていることが印象的でした。

         (ノースシアトルコミュニティカレッジでのワークフォース開発(就労人材開発)部署)
 
 
(インターンシップに連結した、時計職人クラス(North Seattle college Rolex Class))

 つまり、米国でのインターンシップというものは、単なるパーソナルな参加、ということではなく、その人を育て、企業に育ってもらい、地域産業全体を底上げするという、地域を大切にする体系的な就労支援の推進だということです。(ゲイトウッド博士に、日本の一日で実施する「ワンデイインターンシップ」について話したところ、「それはインターンシップの概念ではないね」と大笑いしていました。)

インターンシップ体験からビッグになった人たち
 最後に、インターンシップ体験から有名になった方をご紹介しておきたく思います。
 ビル ゲイツはかつてワシントン州の州議会、また連邦議会下院のインターンシップをしたことが、ステップアップの始まりだったと述べています(Mejia 2018)。
今や全米屈指の司会タレントオプラ・ウィンフリーは大学時代に CBS 系列局で働いたことから、それを土台に全米屈指の存在へと成長しました。
 米国では、このようにインターンシップが通常の風景となり、社会に組み込まれていること、社会全体で求職者(学生・若者)と企業との、効果的なマッチングが行われていることが見えてまいりました。国も、企業も、じっくりと時間をかけて、本気で求職者と企業とのマッチングに向かい合おうとする姿勢、大きく学ぶところが多いと感じさせられます。

 今日はまずは、ここまで。引き続きよろしくお願いいたします。感謝 前山(s-maeyama@fcu.ac.jp)


<参考文献>
○Zameena Mejia, How Bill Gates’summer internships shaped his career, CNBC Makeit(Jul 23, 2018);(https://www.cnbc.com/2018/07/19/how-being-a-summer-intern-in-government-shaped-bill-gates-career.html)
○ Andrew Fennell,Internship Statistics U.S.2023, Standout CV(https://standout-cv.com/usa/internship-statistics)