故平松元大分県知事がよく日本と比較されるアメリカ合衆国の地方自治の仕組みについて簡単に触れてみたいと思います。

 

 

 アメリカは日本と全く違うシステムをとっています。国の成り立ちが全く違うので仕方がないといえますね。

 アメリカは独立を勝ち得た時には13の州がそれぞれ対外的な主権を持っていました。そのため連邦のひとつになって権限を制約されることに抵抗があったのです。そこで合衆国憲法により、連邦政府の権限は帰化、破産、通貨、度量衡、通称、郵便、著作権、国際法、宣戦、軍の統制規律などに関する事項に限定され、これらのための徴税と借金を行うことのみが認められることになりました。それ以外は州が権限を持つこととされ、連邦国家のもとに州が集まったということです。そのため「州主権」と表現されるような強い権利がそれぞれの州にあります。教育、医療、公共工事といったほとんどの内政の権限は州にあるために、ワシントンまで何度も陳情をするなどということはあまりないようです。

 日本の地方分権が中央の権限を少しだけ与えてあげるという感じではなく、アメリカでは州の権限を連邦に譲ったという全く逆の発想なのです。

 日本では故平松氏いわく、月に3回は東京に行っていて、年間に36回、一泊二日の日程だと考えると72日も東京に知事は滞在することになると記述されていますので、大きな差があるといえます。

 ですので首都ワシントンD.C.は60万人少々の都市で、全米でも24番目の都市にすぎません。日本の様に人・物・金がすべて東京を中心に集まる状況とは大きく異なります。

 

 しかも、税の多くの部分を州税が占めており、州が収税して連邦に収めるものもあるそうです。よって、州の自主財源は75%を持っていて、その下の都市も65%を自主財源であり、30%が州からの補助金、連邦は5%とという構成になっていて、財政的にも地方の独立がある程度担保されています。

 

 アメリカは日本から見ているととてつもない超大国で、連邦政府ばかり注目してしまいますが、州政府もすごい力を持っているのです。

 

 

 今回のトランプ大統領の特定の国からの入国制限の大統領令についてなぜ一時停止が判決で下ったのかを観ると興味深いです。

 今回の裁定では合衆国憲法にたいして大統領令が違憲であったかどうかという判断は下されていないようです。そこではなくて、今回の大統領令が原告であるワシントン州とミネソタ州にとって不利益を与えること、州内の企業や市民にとって不利益であることが認められるので、一時停止が二つの州の公共の利益になると判断されたためだということです。

つまりは、州の不利益になることを行うことは連邦といえども認められないのです。一時停止が合衆国全体の利益になると証明できなければ、州の主張が正しいとされたということです。

 

 余談ですが、ではなぜ2州の訴えが、2つの州にとどまらずに合衆国全体が一時停止になったのか。これは「アメリカの移民法は厳格かつ統一的に適用されるべきだ」という憲法にのっとり、原告である2州だけでなく、アメリカ全土に適用されるとしているのも面白いですね。

 

 この様にアメリカでは市民の生活に関する多くの権限が州にあります。連邦政府は「小さな政府」であることを良しとしているのです。それを支えるために財政や法的な裏付けが独立できるに十分なものであることが重要です。