フレデリック・バック展を観て
おびただしい数の展示作品には、戦争や人種・貧富の差別、自然破壊に対するバックの無言の怒りが、また平和な人間の営みや身近な動植物に対する暖かくて深い愛情が、共に作品の端はしに込められていてたいへん感動した。
また、水彩画やイラストレーションやアニメーションなど多種多様な作風と共に、大事に保管してあったスケッチ帳や下書き用紙などを添えて、習作過程がわかるように解説・展示してあり、わたしは、絵を描く上での興味を深めることができた。
「木を植えた男」
ジャン・ジオノ原作
フレデリックバック作(寺岡 訳) あすなろ書房
作者のJ.ジオノはフランスに生まれ、その後はカナダに住んだ。画家のF,バックとの合作「木を植えた男」のアニメーション映画を作った。原画は色鉛筆で描かれており、線による描法を用い、物語のもつ静寂さと暖かさを良く表現している。
なお、画家のバックは、その後、単独で絵本「大いなる河の流れ」(あすなろ出版)を出している。
この本では、カナダ・セントローレンス湾と河に、交易と植民地支配を目論み進出したフランス・イギリスの資本家たちによる、すさまじい略奪と自然破壊の様子・・・原住アメリカインデアンの暮らしと、絶滅の危機に瀕した陸上・海棲動物たちの悲鳴が、鮮やかな色彩で表現されている。
画家のF.バックはカナダ在住のアニメーション作家(1924年生まれ、健在)。J.ジオノ(1895―1970)の短編小説に感動して、この作品を完成させたとのこと。2万枚に及ぶ莫大なセル画のすべてを一枚一枚描き上げ、それがもとで失明したと伝えられている。
「木を植えた男」は1987年度の第60回アカデミー賞短篇賞(アニメーション)。アヌシー国際アニメーション・フェスティバル・グランプリ受賞。第2回アニメーション・フェスティバル広島大会グランプリなど各国から35以上の受賞。
新年が明けた1月3日の朝日新聞「天声人語」に、「木を植えた男」に関する文章(添付)が載った。