★「おおすぎないか大学卒」のシリーズ中、今回は逆説的な報告になる。つまり「大学卒が少なすぎる」と言われた時代があった。大学出を、熱烈に欲しがっているある職場から拾い上げたはなしである。

①腹に据えかねた親方。
東京日本橋の繊維卸商のある親方(58歳)は、大手の取引先を、ひどく恨んでいた。相手の納品係の嫌がらせから、将来の片腕と頼む店員を失う羽目になってしまったから怒るのは無理もない。
大学出の納品係は、嫌味な奴だったらしい。高校を出たばかりの若い店員を捕まえて、むやみと横文字を並べ立て、煙に巻く。ドギマギすると、嵩にかかってかい叩く。

ある日。古参の店員が、タンかを切った。
「こちらは、この道12年。生地の良し悪しが、昨日や今日会社勤めを始めたオメエに分かってたまるか!この野郎が!?調子こくな!クソガキが!?」
遠回しに苦情が来た。店員は居づらくなって辞めた。だから親父さんは、腹に据えかねている。

相手が一流大学卒で学をひけらかしたぐらいで、へこたれは行けなかったんだよ。逆にへこましたろうか?英語で太刀打ち出来るような、いい若者が欲しいんだよ。でも、店員が20人たらずの零細企業へ、そんな良いのが来てくれるのだろうか?

「ああ、ウチも大学卒が欲しいわ」が結論であるらしい。

(1977年当時の日本国に於ける学歴社会について。)
前田 直貴