一つは、幹部候補生の謎の飛び降り自殺。有名高校から東京大学、上級職国家公務員試験の最短距離を突っ走り、ニューヨーク駐在副領事のポストから帰国して間もない若者だった。かお

今一つは、管理職コースに乗っていた若手が、庁内広報紙に風変わりな随想を寄せた事件。幹部の間で「近頃のエリートはねえ?」と、ひとしきり議論を巻き起こしたばかりでなく、国会でも取り上げて大問題になった。

題して、「霞ヶ関三丁目の大蔵官僚はメガネをかけたドブネズミと言われる挫折感に悩む物凄いエリート達。」と皮肉なタッチで、国会の下らない質問に足止めをされる愚を嘆く。その裏では、超エリート集団の優越感をちらつかせている。

省内で問題になったのは、文中に紹介された、その年の新人幹部候補生の25人の言動であった。

大学が「仕事を能率的に片付けて自由時間をもらいたい」と望む。全員が週休2日を即時に実施をして欲しいと考え、2人を除いて「週のうちの半分ぐらいは定時に退庁したい。」と言う。

「大蔵省に勤めるなんて、恥ずかしくて世間に話すことが出来ない。誇りも持てない。」と漏らす者までいた。だから、硬派は「ここまで来たか。サラリーマン化が!」と概嘆する。

「いや、自由な時間をたっぷり持ち、個性を豊かにするのが、新しいエリート。当然の欲求だ。」と支持派もいた程だ。

しかし幹部達は、国政を預かるエリートの気概が、紛れもなく薄れていく予感に改めてギクリとする。当然なことであった。

(1977年当時の日本国の学歴社会について。)

前田 直貴