安心している時間が何万回あったとしてもたった一秒間の不安が的中することだってあるんだ。
確かそんなことをマッキンリー博士は言いながら分厚い本をぼくに指し示した。本の題名は「惑星の襲来」と書かれていて表紙に真っ赤な球体の絵が載っていた。
何度か読む機会をつくろうと思いながら結局一ページも開くことができずそのままになっていたがある日コージがやってきて「昨夜変なことがあってさあ」とそのいきさつを語り始めたときふとぼくはその本のことを思い出した。
コージがいうには麻布の居酒屋でスペインのある画家の話をしてたときその作品のなかで「太陽の燃え尽きたかけら」という抽象画の概念はどこからきたものかということになりいろいろ議論したらしい。ところが妙なことにその話を隣で聞いていた女がいて「私知っている」と言ったというのだ。
「彼女は自分が惑星から来たといい、宇宙人とも言った」
コージはまじめな顔をしていた。
「酔っているんじゃない?」
「最初はオレも思ったさ。ところが普通なんだよなあ、なんていうか人をからかうような眼もしていなかったし」
「それで?」
ぼくは気になっていた「惑星の襲来」という本の名前をよぎらせながら次を聞いた。
「何もないさ…それだけさ」
コージはあっさり答えた。
「惑星から来たと言ったんだろう?」
「そうさ宇宙人とも…」
「おかしいだろう?麻布の居酒屋にそんなやつが現われるなんて」
「おかしいよ、だから変なことがあったって言ってんじゃん」
ぼくはマッキンリー博士から借りたその本をいよいよ読む気になっていた。コージにはそのことを秘密にしておこうと思った。