19世紀末から20世紀の初頭にかけて流行したアール・ヌーヴォー（Art nouveau「新しい芸術」）やベル・エポック（Belle Époque「美しい時代」）の文化に心惹かれる私にとって、ジャコモ・プッチーニが生きたその時代に思いを馳せることも『トスカ』を鑑賞する際の醍醐味の一つだ。オペラ『トスカ』をめぐるアートと逸話は世紀転換期の時代の空気を余すことなく伝えてくれるもので、その時代に生きた人々の物語に思いを巡らすひとときは心弾む。

プッチーニの『トスカ』はローマを舞台にナポレオン軍が轟く時代に生きた歌姫と画家の悲恋を描いたオペラで、フランスの劇作家ヴィクトリアン・サルドゥによる戯曲『トスカ(La Tosca)』を題材にプッチーニがオペラ化した作品だ。人口に膾炙している通り、La Toscaはサルドゥがベル・エポックを象徴するフランスの大女優サラ・ベルナールのために書き下した戯曲で、1887年にパリのポルトサンマルタン劇場(Théâtre de la Porte Saint-Martin)でサラ・べルナールによって初演され、大成功を収めた。プッチーニはその2年後にミラノで上演された際にLa Toscaを観劇し、オペラ化を心に決めたという。

こちらは世界初のプロフェッショナルな写真家と言われるナダールによるサラ・べルナールのポートレートだ。ジャン・コクトーから「聖なる怪物« monstres sacrés »」と呼ばれた国際派女優のサラ・ベルナールの数あるポートレートの中でも、憂いを帯びた眼差しと知的な横顔が美しいこの一枚に私はとりわけ心惹かれる。

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そして、『トスカ』を語る上で欠かせないのはサラ・べルナールのLa Toscaのポスターを手掛けたアール・ヌーヴォーの旗手、アルフォンス・ミュシャだ。チェコ・プラハの出身でそれ以前は無名の芸術家であったミュシャは、1895年のサラ主演の『ジスモンダ(Gismonda)』の公演ポスターを手掛けたことで一躍パリで脚光を浴び、その縁で彼女のLa Toscaのポスターも手掛けることとなった。サラがジスモンダの作品をいたく気に入ったことから再びミュシャに依頼したといい、こちらがそのLa Toscaのリトグラフだ。

サラをモデルとしたこの一枚は、花々を腕にかかえてまるで香り立つような気高いトスカが非常に印象的で、大女優として名を馳せたサラ・べルナールにふさわしい品格のある作品だ。

La Tosca, Sarah Bernhardt, and Alphonse Mucha