◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第二十三話
「それでいいんだ。さっさと準備しな。」
ボスの指先は、いつの間にやら元通りになっている。
(この男、いったい何者なのだろうか・・・)
リナを含め、この組織の何パーセントの者が、ボスの実態を知っているのであろう。
そして、どれだけの者が、好きでここに居るのだろう・・・。
この組織は謎に包まれている。
ただ皆が知っているのは、ボスの周りに「重役」とされる人物が存在していることだけであった。
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「・・・。間違い・・・ないよ。ジッグラドと、アリーだ。」
研究室でむごい姿になってしまったアリーと弟を目にしても、ケルマーンの声のトーンは冷静だった。
(平気なのか?こいつ・・・。俺が飼い象をこんなにしちまったってのに。。。)
自分に少年が逆上するか、または泣きつくのではないか・・・とおもっていた前田は、意表を突かれたような気分であった。
しかし・・・
そっとケルマーンの表情を覗きこんで、ハッとした。
ケルマーンは、しゃくることもなく、あくまで冷静なままでままではあるが・・・
泣いていたのだ。
真っすぐな少年の瞳からは、頬をつたって雫がこぼれていた。少年は涙をふくことさえ忘れているのだ。
「あ、あれ。なんか泣いてるや、僕。
父さんが死んだとき・・・そう言えばワンワンないてたっけな・・・
あっはは・・・。」
やっとケルマーンは自分の涙に気づいたようだ。無理やり笑って、涙を隠そうとする。
前田はいてもたってもいられなくなって、彼を強く抱きしめた。
「恥ずかしいことじゃない。泣けばいい。
そっか。オヤジがいないんだな・・・」
胸に抱かれたケルマーンは、これまでの冷静さの糸が切れたかのように、ワァワァと声を上げて泣き出した。
こころの氷が解けたかのように・・・。