◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第十九話
「ろ・・・ロッピャクネン?!」
目の玉が飛び出るくらい驚愕しているケルマーンを見て大笑いしているとき、ふと前田の脳裏には、いやな予感がよぎっていた。
「なぁ。弟、探してるって言ってたよな?」
「え?ああ、う、うん。」
ケルマーンは動揺したまま答える。
「あのさ、弟も、象と一緒に消えたのか?その象って・・・
メスだったりしないか?」
前田はケルマーンに会う前に「あの岩」から出てきた「メス象と、その子宮に入った少年」を思い浮かべていたのだ。
「そうだよ、なんで?」
何も知らないケルマーンは、不思議そうな顔で前田を見つめる。
(もし本当にそうだったら・・・相当ショックだろうなぁ・・・)
見せるべきか、やめておくべきか・・・。前田は相当頭を抱えた。相手は少年だから、解剖した象とその中の弟(まだ想像だが)を見て平気だろうか・・・。
しかし、彼は捜しているのだ、弟を。
前田は少し表情を曇らせてはいたが、ケルマーンにこう言った。
「僕は、君の弟を知ってるかもしれない。
こないだね、興味をそそられる岩があったんだ。で、その調査をしていて・・・。
・・・とにかく、見に来ないか?」
「岩?なんで、岩なんかに・・・。
でもいいよ、会いたいよ、ジッグラドとアリー、知ってたんだね!マエダ!!」
ケルマーンの表情は、ぱぁっと明るくなった。
岩といったから、生きていないことを想像してほしかったのだけれど、そうはいかなかったようだ。
伝えないまま会わせることだってできる。
しかしそれは人として、冷酷な気がしてならないし、何の罪もないケルマーンに、そんな残酷なことは・・・・・。前田には、できなかった。
「とにかく、こっちだよ。本当に弟さんかどうか、わかんねぇけど。
・・・でもさ、言いにくいんだけど、生きてないんだ・・・もう既に。」
しばらく沈黙が流れた。砂風が二人を包んでいる。
それに対して、ケルマーンから帰ってきた答えは、意外なものであった。
「・・・わかってるよ。もう、生きてはいないんだろうなって・・・思ってた。
ただ、どんな姿になっていようと・・・会いたいだけ。」
前田の目からは涙がこぼれた。
・・・しかし、ケルマーンは泣いていなかった。
こらえているのかもしれない。悲しいはずはないのだから。
ただ、今のケルマーンのこころを探りたくはなかった。
「こっちさ。」
二人は、研究室にしていた場所へと、歩き始めた・・・。