◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第七話 | もうすぐって…いつ?

◆小説◆「Elephant Signs(エレファント・サインズ)」第七話

「象・・・?!」

それが象だと思ったのは、象独特の、あの「長い鼻」にノミが突き刺さったから。
思わずその「良すぎる鮮度」に、彼の鼓動は、高鳴った。少し、気味が悪い。
見てはいけないものを見てしまったのか、それともこれ以上見ない方がいいものなのか・・・。
どちらにせよ、奇妙すぎるものなのは確かだ。歴史上のこと、とか、化学変化、とか、そういう類のものではないように思える。

これ以上その日、作業をやる気にはなれなかった彼は、無言のまましばらくそこに、立ち尽くしていた・・・。


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「じいちゃん、じいちゃん!ね、じいちゃんってば!!」

ひとりの少年が、うつらうつらと眠っている翁の腕をゆすった。
さきほど象にまたがっていた少年と同じ顔をしているが、少し声のトーンが低い・・・ようにも思える。


「うにゃ、めしかぇ?」
「何言ってんだよ、さっき食べたばっかりじゃないか・・・もぅ。
あのね、まだ帰ってこないんだよ、ジッグラドのやつ。絶対おかしいよ。」
「あ?お前、そこにいるじゃねぇか・・・」
「僕はケルマーンだよ!双子だからって、見分けてくれよ~。」

(だめだ・・・じいちゃん、寝起きはボケてるや。)

彼の名は、ケルマーン。
象にまたがっていた少年、「ジッグラド」の、双子の兄なのだ。彼の家は代々象使いをしており、今は祖父と兄弟の3人暮しであった。彼の父は、2年前、行方不明になっていたが、去年見つかった時には、すでに帰らぬものとなっていたのだ。

彼の住んでいるイラン高原では、戦(いくさ)には象を使うことが少なくなく、そのための「戦象」
※注1
を育てているのだ。先日も約20頭の象を、涙ながらに売却したばかりであった。
彼らにとって、象との別れはいつもつらかったが、・・・暮らしのためである。そう思うことにしていた。


そんな少年、ケルマーンは、がっくりと肩を落とし一人で歩き出すと、何やら動物のにおいが漂う小屋に向かった。
そこには2匹のオス象と、1匹のメス象が仲良く肩を並べていた。これらの象たちは、戦象としてではなく、象使いとしての訓練や移動手段に使う象として、ケルマーンの家で飼われているのである。

それにしても、この象たち・・・。3匹ともなんだか、落ち着きがない。
いつも帰っているはずのもう一匹がまだ帰ってこないのが、気がかりなのだろうか・・・。


「なぁ、ジッグラドが帰ってこないよ。アリーも。
・・・まさか、こないだ拾ってきた変な首飾りの呪い?!・・・そんなはずないよね。
僕、探しに行こうかな?」

パォン・・・




アリーの旦那さんであるファイが、ケルマーンの意向を悟ったのか、彼にすり寄ってきた。

「お前、一緒に行ってくれるのかい?」
もちろん、と言わんばかりに、ファイはケルマーンの足元で、体制を低くした。

戦象

(ムガル帝国のアクバルが率いた軍の絵画)

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~脚注~
※注1・・・戦象

(せんぞう)とは軍事用に使われた象のことである。主にインド、東南アジアや古代地中海世界で用いられ、突撃で敵を踏み潰すか、あるいは敵戦列を破砕することを主目的とした。象の社会は血縁のある雌の群れを基礎とした母系社会であり、それが原因で雌象は他の雌象へ向かって行く傾向があったため、軍用には雄の象が用いられた。

 戦象は軍事的に多くの役割を担っていた。その巨躯と力は輸送を任せると非常に有効であり、武器や兵糧の運搬から、軍楽隊の大太鼓、大砲の牽引まで幅広く用いられた。王侯や指揮官は背中に豪奢な輿を載せることもあった。

普通、戦象の背には1人の象使いと、他に1~3人の弓兵や槍兵が騎乗した。見晴らしの良い高所にあるため、弓兵を乗せると特に威力を発揮した。戦場では、戦象はおおむね中央の列に配置され、可能になると突撃した。戦象の突撃は時速30kmに達し、騎兵と違って歩兵の槍で防ぐことは困難だった。巨躯から来る威圧感は大きな恐怖心を呼び起こし、訓練されていない軍隊ならば容易に壊走させることができた。

戦象にはいくつかの致命的な弱点があった。その性質上、前進以外の戦術行動は不可能であり、方向転換や急停止は至難の業だった。ザマの戦いで大スキピオはその性質を利用した。また、高所に位置するために、騎乗するものが狙われやすく、象使いが殺されると戦象は制御を失って暴走した。また、銃声や鉦のような大音響にも弱かった。ただし、これは訓練である程度克服することが可能だった。ムガル帝国では、火器の発する轟音に慣らすため、幼い頃から耳元で銃声を聞かせる訓練が施された。このため、ムガル軍では戦象に銃兵を乗せることも可能だった。

また、象の皮膚は一般に分厚いため原始的な矢や鉄砲などの飛び道具に強かったが、一方で足の付け根などの皮膚の柔らかい部分が弱点となることが多かった。そのため東南アジアなどでは象の足下に護衛用の兵を置くこともあった。

また象の調教・維持には多くの時間と金がかかるという欠点もある。

◆歴史◆
象を家畜化する試みは、4000年前のインダス川流域で始められた。しかし、低 い繁殖力と成長の遅さ、飼育下の群での繁殖の困難さ、妊娠期間の長さのために、おそらく大半は、そして現代に至るまでケッダなどと呼ばれる追い込み罠で野 生の象を捕まえて飼いならしていた。初期の象の利用は、強い力を生かした農耕の補助にあった。軍用の起源は紀元前1100年ごろで、その活躍をたたえるサ ンスクリット語の賛歌が複数残っている。

その後、戦象の運用はインド亜大陸に隣接したイラン高原を通じて西方へ伝播し た。紀元前331年のガウガメラの戦いで、ペルシアのダレイオス3世はアレクサンドロス大王率いるギリシャ軍に対して戦象を運用した。また、アレクサンド ロスがインドに侵入した際、ヒュダスペス川の戦いで、パンジャブ王国側は200頭の戦象を運用した。アレクサンドロス死後のディアドコイ戦争では、戦象は より積極的かつ大規模に用いられた。紀元前301年のイプソスの戦いでは、両軍合わせて500頭近くの戦象が運用された。この頃までに用いられていたのは 主にインドゾウだったが、入手が困難な地中海世界ではアフリカゾウの亜種マルミミゾウを戦象化する試みが進められ、エジプトやカルタゴが育成に成功した。


( WIKIPEDIA より 部分抜粋 )