小説NO.96 「 ドクター、田辺 」
「あ、あの…」
朱音は口を開いた。
田辺の目をみないままで。看護婦の目も、みない。
…見ない、と言うよりも、怖いという気持ちがまとわりついて、みれなかったのだ。
「なんだい?」(田辺)
(やっぱり怖いよ・・・(ノω・、) 怖い。なぜ…)
それがなぜなのかは、朱音にも分からなかった。
「あれ?朱音さん?」(田辺)
(私ったら…なんだかおかしい。この世界の人間なのに…帰ってきたはず
なのに、ここが自分の居場所じゃないみたい。
空気が、音が…すべてが冷たい波のように押し寄せるわ。)
「朱音さん?落ち着いて。」(田辺)
自分の手を見た朱音は驚いた。
カタカタと震えている。
(これじゃ、敵に負けてしまうわ…。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。)
「オイオーイ。
あ、朱音さん(^_^;)?」
田辺は思った。
(あれれ。4回目だぞ?
自分が声をかけられているのに気付いていないんだな。
これは相当嫌な夢でもみていたか・・・。長い目でケアが必要、かな。)
そう。
実際、田辺は敵でも何でもないのである。
朱音を心から心配し、できるだけのケアをしたいと願っている、やさしい医者。
自分の手がけた患者は退院できるまで、または最後の時を迎えるまで、しっかりと面倒を
みるタイプ。
いま、朱音は様々なショックで混乱状態にあるのだ。
田辺はそれに気付いていたため、こうした形で、カウンセリングをしようと決めたのだった。
朱音の状態をみたら、そのまま精神科に送ることだってできる。
結局・・・。朱音が呼ばれていることに気付いたのは、
6回目に自分の名前を呼ばれてからであった。
(ああ(;^_^Aそうだわ。私は自分から話し始めていたんだったわ…)
朱音は思い切って話しかけることにした。敵かもしれないと思っている、
田辺に・・・。
「ええと。た、田辺さん。あなたは…本当に、医者?私を・・・
マインドコントロールしようとしているとか・・・じゃ、ないですよね?」
カウンセリング最初の言葉がこれ。
・・・その言葉に、田辺はふと、以前、自分が診た患者を、思い出していた。