小説NO.85  「 朱音、この世界での想い 」 | もうすぐって…いつ?

小説NO.85  「 朱音、この世界での想い 」

「行っちゃったね・・・、ルース(ノ_・。)」


朱音は、さっきまでそこにいたルースが居ない現実を、なかなか受け止められないでいた。

このせりふ自体も、自分で自分に言い聞かせているようなものであった。


「まあ、な。でも、これで良かったんだよ。」


シュリも少し哀しげではあったが、自分で提案した意向だということもあり、それ以上は何も・・・、

口にしなかった。


朱音の腹は、もう臨月ではないか、というくらいに大きくなっている。それはつまり、朱音が

この世界との別れを告げるときが、近づいているというサインである。

シュリはゆっくりと呼吸をすると、朱音に向かってこう言った。


「まだ、何も終わっていない。まだやることは沢山ある。そうだろ?

朱音、腹の中の赤ん坊、思った以上に成長が早いみたいだね。

そろそろ、朱音も・・・帰る段取りに入らなきゃいけないんじゃないかな?


「・・・。」


朱音は自分の腹をさすった。中から赤ん坊が腹を蹴っているのがわかる。


いつの間に、こんなに成長したのだろうか。

最初はつわりで気づいた妊娠。魔術をかけることによって、成長を早めたため、朱音はすぐに安定

期に入り、気持ちが悪くなることもなくなっていた。

しかし、いざここまで赤ん坊が成長してくると、逆にこの世界に居られる時間が、どんどんと

短くなっていくのがわかって、何とも言えない気持ちになるのだ。

赤ん坊が産まれることは、嬉しいはずなのに・・・。

まるで砂時計でここにいられる時間を計られているかのように、感じてしまうのだった。


しかし、それは仕方がないこと。もう決めたこと。だからルースも旅立ったのだ。



「そうね。私が現世に帰るときに、この世界から「あなたと、この子、そして、

この世界自体の命・・・」それ以外の生命をすべて死界に送るように準備す

るわ。朱鳳凰の準備ができたら、すぐ。始めるわね。

今、「」を溜めているところだから・・・。」


朱音は朱鳳凰をちらっと見てから、シュリにそう言った。


朱鳳凰は、ルースを死界に送ったことで、少しエネルギーを消費している。今度は朱鳳凰の最後の

大仕事だ。完全に気が回復してからでないと、危険が伴う。


(朱鳳凰、これがあなたの最後の仕事だからね。これが済んだら、あなたも

この剣から解放されるのよ。

最後だからね、お願い・・・私の力とあなたの力を合わせて、この世界を、

シュリに託しましょう?)


朱音は朱鳳凰にこころの中で、話しかけた。話しかけながらも、じわりじわりと剣に気を注ぎ込む。


(最後の仕事か。かなりの大仕事ですね。

しかし、任せてください。あなたの想いは私の思いでも、ある。

今はまだ、あなたが私の主人なのだから。安心してください。ただし、あなたも

相当「」を使いますからね、今回。それだけは、覚悟を・・・。)


(もちろん。覚悟は・・・できているわ。)


朱鳳凰と、朱音の会話はぴったりと呼吸が合っていた。

この世界で共に戦い、知らぬ間にお互いを一番よく知っているのかもしれない。


朱鳳凰もまた、この「大仕事」が終わったら、魂は死界へと旅立つのだ。そして、他の魂と共に、

あたらしい命へと、生まれ変わる。


「本当にこの世界では、色んなこと・・・。そう、かけがえのないことを、山

ほど学んだわ。」


朱音は誰に言うでもなく、ひとり、呟いた。


シュリは、朱音の呟きに、深くうなずいた。彼自身も、そう思っていたのだ。


朱音が、この世界の廃墟にやってきた日のこと。そう、今は亡き「王」の陰謀で・・・。

その時のことを、朱音はもう思い出せなかった。思い出そうとすると、記憶にロックがかかって

しまう感じがするのだ。それほどに酷かった。醜い世界だった・・・。


しかしそこに現れた一人の青年、シュリのおかげで、朱音は180度変化できたと感じていた。

そして、仲間になったルースサラそして、父親の健司・・・。


悔いがないかと言われたら、なかなか「YES」とはいえない。それでも、「もうできる限りのことは

したと、この世界に、胸を張って言える自信」、朱音にはそれがあった。



その時、朱鳳凰が口を開いた。その声は、朱音だけではなく、シュリにも

聞こえた。


「私はもう、いつでも大丈夫ですよ。」