小説NO.84 「さようなら、ルース」 ~旅立ちのとき~
シュリと朱音はしばらく抱きしめあっていた。
特に言葉はなかったが、これが最後の抱擁になるかもしれないということを、
ふたりとも分かっていた。
ルースは、というと、部屋にこもって何やら作業をしていた。
今の彼は、竜の姿。光を放ったり、気を込めたりと、必死になっていた。
しばらくすると、彼は人間の姿に戻った。全身汗だく。
「何か」を手の中に握りしめ、ゆっくりと深呼吸をし、
「行くか・・・」
そう呟くと、ドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを回して扉を開けた。部屋から一歩踏み出すと、彼は振り返り、
自分の部屋を眺めた。
「ありがとう。俺の思い出の部屋・・・(^-^)」
あえて悲しい顔はせず、微笑んで部屋に別れを告げたルース。
扉を閉めなければ、前に進めなそうだったので、彼はピシャリとドアを閉めた。
下の階にいたシュリと朱音がその音にびっくりしたほどに・・・。
カッカッカッ・・・
足早にルースは階段を降り、何も考えないようにして、朱音の部屋の扉を開けた。
ごちゃごちゃ考えていたら色んな感情が押し寄せ、それに負けてしまうだろう、ということを、彼は
分かっていたのだった。
「おう!待たせたな('-^*)/!頼むよ、朱音。俺は旅立つぜ!!」
ルースは心配させたくない気持ちから、明るくふたりの前に現れた。ふたりはその気持ちに気づいて
いたが、特に気づかないように、振る舞った。
「ルース、準備、できたのね?じゃ、じゃあ・・・私も今体調もいいし、
・・・送り出すわね(ノ▽’、)。。?」
(ついに、この時が来てしまたんだわ・・・)
朱音、正直辛かった。シュリもそれは同じである。しかしみんなで決めたこと。後悔は、ない。
さっそく朱音は、朱鳳凰をかざそうとした。
いつの間にか、朱音のお腹はふっくらと膨らんできている。お腹の子も、成長をしているのだ。
そのとき、ルースは朱鳳凰をかざそうとする朱音に待ったをかけた。
「ちょっと、待って。行く前に、シュリに渡したいものが・・・あるからさ(o^-')b」
ルースは握りこぶしをシュリの前に差し出し、その手をそっと開いた。
その手の平には・・・
何やら中から緑色の光を放つ、白濁した、ビー玉のようなものが乗っていた。
「これ、俺の竜の「気」だよ。魂込めたら、使えなくなると思って、気だけ、
爪から作った玉に、詰め込んだんだ。俺にはもう、竜の力は必要ない。
火なんて噴く必要ないだろ?
でもさ、これがシュリの力になっていれば、この先も使えるじゃないか。
この世界を創りなおすとき、ちょっとでも役に立てるかもしれない。
シュリがこれを呑み込んでくれたら、その気はもう、俺のじゃなくて、シュリ
の力になるように、してあるから。大丈夫だよ、腹壊したり、しないからさ。
結構大変だったんだぜ(笑)?・・・受け取ってくれよ(*^-^)b」
シュリは驚いた。この世界を去る悲しみを抱えつつも、ルースがこんなに大変な作業を、部屋でして
いたとは・・・。
「ありがとう、ルース。君の優しさを、無駄にはしないよ。」
そう言ってシュリはルースからその玉を受け取ると、すぐに体に取り込んだ。
緑色の光が、シュリの体のなかで、一瞬光った。
「もうそれで、大丈夫。実感わかないと思うけど、いざって時になれば、気の強さが変わって
いるのに気づくよ。俺は、これでもう何も残すものはない。
朱音、頼む。ちょっくら死界の様子、楽しんでくるさ!
ちゃんと頭輪のおっちゃんの手伝いすっからさ!みんなもがんばれ(^^)!」
朱音もシュリも、うんうん、と頷き、ふたりでルースを抱きしめた。
「早くしろよ~、行きたくなくなるだろA=´、`=)ゞ」
照れるルース。しかしこの言葉は、本音だった。
「そうね・・・。じゃあ、やるわ。ありがとう、さよなら・・・ルース!!
またいつの日か、どこかの世界で逢いましょう!!!」
「僕も、またルース、君と会える日を待ってるよ!
忘れるなよ、ずっと、仲間だってことを!」
「・・・ああ。すぐ、あえるさ。大丈夫ってことよ(´□`。)!じゃあな!!」
三人がこの世界で交わした、最後の言葉だった。
朱音は朱鳳凰に死界への扉を開くよう、念を込めると
「ルースを死界へ!」
そう叫んだ。
朱鳳凰は悲しげに声を上げると、ルースを包み込んだ。朱鳳凰の羽ばたき
がおさまったとき、そこにもう、ルースの姿はなかった。
死界へと、ルースは飛び立ったのだ・・・。