翌日。

 

  

「靖友くん。昼メシ、一緒に食おうよ」

  

新開の方から誘ってくれた。

荒北が断る理由は無かった。

 

 

 

  

二人は校舎の屋上で、フェンス元の段差に座って昼食をとっている。

 

 

新開が、荒北の髪を眺めながら言った。

 

「もうリーゼントにしないのかい?」

「するわけねェだろ」

 

  

新開は手を伸ばし、荒北の髪に触れた。

 

「!」

 

ドキッとする荒北。

 

 

「自分でハサミで切ったんだって?」

「……あァ」

 

心臓の鼓動が速まる。

 

  

「かなり刈ったね。もう少し伸びたら、馴染んでちょうど良い感じになるな」

 

荒北の髪をつまんで毛先を見ている新開。

 

 

 

「お、オメーだって……」

 

荒北はドキドキを誤魔化すように新開の方に話題を振った。

 

 

「その赤毛……」

 

荒北は新開の赤毛に触れる。

 

 

思っていたよりサラサラでフワフワで驚く。

 

 

「そんなマジメスタイルじゃなくて、もっと伸ばせば……」

「ん?」

 

  

もっと伸ばせば、もっと甘い感じに……。

と言いかけてやめる。

 

 

新開は、髪に触れてもらっているのが気持ち良いのか、目を閉じている。

 

 

「もっと……耳が隠れるぐらい……」

「靖友くんがそう言うなら、伸ばそうかな」

 

 

荒北はそのまま顔を近付けていき──。

 

 

 

新開の唇に自分の唇を重ねた。

 

 

 

「!!」

 

新開は驚いて目を開けた。

 

 

  

唇を離した荒北も、自分の行動に驚いて目を見開いている。

 

 

お互い真っ赤になって見合う二人。

 

 

 

「靖……」

 

「お、オレ……悪りィ!」

 

 

荒北はあたふたとして、謝りながら立ち上がろうとする。

 

しかし新開は荒北の腕を掴み、引き留めた。

 

 

「靖友くん」

 

  

その腕を引き寄せ、もう一方の手を荒北の首に回し、今度は新開の方から口づけた。

 

 

「ン……ッ」

 

 

激しく荒北の唇を吸う新開。

 

戸惑う荒北。

 

 

すぐに唇を離して、新開は言った。

 

「口、開けて」

「エ?」

 

すかさず荒北の口の隙間に舌をねじ込む新開。

 

 

「ウ……!」

 

 

何が起こっているのか、わけがわからない荒北。

 

  

最初にキスをしたのは確かに自分からなのだが、いつの間にか床に押し倒されている。

 

新開は息を荒くして荒北の首筋を舐めまくり、シャツの裾から手を入れて胸を撫で回している。

 

 

「アッ、ア……」

 

頭がボーッとしてくる荒北。

 

 

 

新開は荒北のベルトを外し、トランクスの中へ手を入れようとしている。

 

「!!」

 

 

さすがにこれはマズイ。

キスはともかく、こんなことまでは全く考えていなかった。

それに屋上とはいえ校内だ。

 

しかし押さえつける新開の力は想像以上に強く、身動きが取れない。

 

そうこうしているうちに荒北自身は新開に捕らえられてしまった。

 

  

「アアッ!アーーー!」

 

 

  

二人はそのまま午後の授業には出て来なかった──。

 

 

 

 









「靖友。今日の周回メニュー、一緒に行こうぜ」

「オレ、ローラーやんねェと」

「いいだろ後で。オレ引いてやるから」

「ンな勝手に……」

 

  

強引に部室から荒北を連れ出す新開を見て、福富が首を傾げる。

 

「あの二人、いつの間に仲良くなったんだ」

 

「あの新入りを下の名前呼び捨てにしているぞ」

 

東堂も不思議がる。

 

 

 

「新開が爆笑している」

 

窓の外を見て驚く福富。

 

「なぬ?オレが練りに練った渾身のジョークを披露してもクスリともしなかったというのにか!」

 

悔しがる東堂。

 

  

「……まあ、新開が明るくなったのは喜ばしい」

「おのれ、あの新入り。オレは認めん!認めんぞ!」

 

 



 

誰も知らない、二人の蒼い頃のエピソード ──。

 

 


 

おしまい






【主な登場人物】
新開······箱学1年生。イケメン。天然。
荒北······箱学1年生。元ヤン。ツンデレ。
東堂······箱学1年生。高飛車。ナルシスト。
福富······箱学1年生。チャリ部主将。堅物。
ウサ吉······新開が学校で飼っているウサギ。