「……そういえば。巻ちゃんの説明では、飲んでから5分ぐらいだと……」

「もうとっくに5分以上たってるぜ」

「みんな、体調は?」

 

 

誰もなんともなかった。

 

 

「福ちゃんは異常が発生してても気付かねェんじゃ?」

「いや、心拍数も変わりないし、身体が熱いとかも無い」

「……」

「……」

 

 

 

「……不発?」

 

東堂がショックを受ける。

 

 

「な、なんだァ。やっぱインチキだったんじゃねェか」

 

荒北はホッと胸を撫で下ろした。

 

「うーん。拍子抜けだなぁ。スリルあって楽しみだったのに」

 

新開は残念そうだ。

 

「うム。オレもどうなるのか興味はあった」

「福ちゃん!」

 

荒北が福富を睨み付ける。

 

 

 

「巻ちゃん……これはただのラムネか何かだったのかい。オレはからかわれたのか……」

 

東堂はわかりやすく落胆している。

その姿を見ると、なんだか哀れに思えてくる。

 

 

 

「……オレぁ帰ンぜ。今日は解散だ」

 

荒北は部屋を出ていく。

 

「あ、待ってくれよ靖友、オレも一緒に帰る。またな、尽八、寿一」

 

新開も一緒に出て行った。

 

 

 

部屋に残った東堂はしょんぼりしている。

 

 

「……とりあえずコース料理は全部食べたいんだが」

 

福富が声を掛けると、東堂はゆっくり笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

駅に向かって新開と荒北は歩いている。

 

 

「ちっ……東堂のヤツ」

 

荒北がこう言う時は、言い過ぎたと結構後悔しているのだと、新開は知っていた。

 

「大丈夫だよ寿一もいるし。明日にはケロッとしてるさ。それに……靖友のそのクソ真面目なとこ、オレは好きだよ」

 

新開は笑いながら答える。

 

 

「なぁ靖友、ホントにもう帰るのか?まだ早いからもう一軒行こうよ」

 

 

「……」

「靖友?」

 

 

荒北の歩みが止まり黙っているので、不思議に思い顔を覗き込むと、荒北は口を手で押さえて眉間に皺を寄せていた。

 

 

「……どうした?気分悪いのか?」

 

荒北は冷や汗のようなものがどんどん額をつたうのがわかった。

 

「悪り……ちょっと休む」

 

 

 

側の公園のベンチに座る荒北。

新開が水道でハンカチを濡らしてきて、荒北の額と首の汗を拭う。

 

「今になって酔いが回ってきたんだな。尽八んとこの新酒、失敗じゃないか?」

「……」

 

 

違う……。

荒北にはわかっていた。

これは……。

 

 

 

「オレやっぱ帰る!」

 

荒北はベンチを立ち上がるが、すぐに立ち眩みがして崩れ落ちた。

 

「なに言ってんだ、そんな状態で。暫く休んでなきゃダメだ。吐くか?」

 

新開が背中をさすってくれる。

しかし、それが荒北をゾクゾクとさせた。

体温と血圧がカ~ッと上昇し、呼吸が粗くなってきた。

心臓の鼓動が激しくなる。

 

 

「新開……」

「靖友?」

 

目が虚ろになり、トロンとした瞳で新開を見つめる荒北。

 

 

しかし、ハッと正気に戻り、

 

「オレから離れろ新開!」

 

と辛うじて言った。

 

 

「え?どうしたんだ?」

 

当然ながら新開には意味がわからない。

 

 

「離れろってェ!何が起こっても知らねェぞ!」

 

荒北は叫ぶが、新開は余計に心配して荒北の肩を引き寄せる。

 

 

 

ダメだ!

そんなにくっついたら!

オレ……もう制御が……!

 

 

 

荒北は両手で新開の頭を掴んで唇に思い切り吸い付いた。

 

「……!」






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【主な登場人物】
新開······大学2年生。イケメン。天然。
荒北······大学2年生。元ヤン。ツンデレ。
東堂······大学2年生。高飛車。ナルシスト。
福富······大学2年生。真面目。堅物。
巻島······大学2年生。イギリス留学中。