あなたの眠る海が
光を生みながら打ち寄せる
砂にあがった 小さな桜色の貝殻を
数分毎に揺らしながら
潮騒は 風にうたう
風は 地を渡ってゆく
高い防潮堤に遮られても
もういちど 逢いたい

PHOTO 山本てつや
☆ 2026年3月11日、祈りの日を迎えました。
今年も この詩群を投稿いたします。
あの日から15年を迎えた被災地に思いを馳せる14時46分18秒。
あなたと心合わせてお祈り出来たら幸いです。
逢いたくても もう逢えない人を想う多くの心たちに
深い深い慰めがありますように。
2026年3月11日 スノウ
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【 あなたを忘れない 】
遠く あの海のうえを過ぎた風は
潮の匂いを含んだまま
いま私にふく
遠く あの木々の間を吹き抜けた風は
針葉樹のアロマを含んだまま
いま私にふく
遠く あの頬をそっと撫でた風は
あなたの涙を含んだまま
いま私にふく
いま 私にふく

2012年 いわき市浜通りにて PHOTO HIDE
*その時、この堤防の上には異様な引き波を見る多くの人々が立っていらしたそうです。
その殆どの命が失われたとお聞きしました。
春まだ浅い あなたの海に
それでも 凍った光の結晶は躍り
水底から運ばれてきた貝殻たちが
小さく はしゃぎ声をたてている
三月の海は 哀しいけれど
あの人は今日も 店先に魚と烏賊ゲソを干し
売れた干物よりも多い数のゲソをおまけに付けて
照れくさそうに笑うだろう
受難節の三月十一日
城壁のような堤防に狭められてゆく海岸線の手前
本当に欲しいのは 思い出よりも今なんだと
ルフランする あなたの声
2012年 浜風商店街にて PHOTO HIDE
【 初めての被災地 いわき市訪問 】
仮設住宅集会所、ふれあい交流の場「ほっこりカフェ」で
そこに住むご婦人方20名ほどとお茶をいただきながら過ごした。
「あんたはどこから来たの?」
テーブル向かいの方が声をかけてくださる。
「世田谷のサザエさん美術館がある街からです。駅前にサザエさん一家の銅像が建ってるんですよ。」と答える。
「波平さんの大事な一本毛が盗まれただろ? 前にTVで騒いでたっけ。見たよ。」
「そう、そう」と頷くみなさんの笑顔。
「あの毛、何十年かすれば、いい値がつくお宝になるべなぁ~。」
すかさず入ったジョークに爆笑。
新来の私たちを和ませようと配慮してくださるお気持ちが温かい。
前日から福島入りしていたミュージシャンの渡辺さんが
「今日も歌わせてもらおうかなぁ~。」と立ち上がってギターを持つ。
向かいのご婦人が私に言う。
「すごくいい歌でさ、感動するよ。昨日、私ら、泣いちゃったもんなぁ。」
カフェを運営しておられる牧師先生方が大きく頷きながら
おどけた身振りで涙拭き用ティッシュの大箱を各テーブルに配り始めるので
また大爆笑。
渡辺さんのギターの弦が弾かれた途端、皆の心がしんとする。
≪父の日 母の日≫
お母さん有難う 尊い命を
お父さん有難う 大きな愛を
私を父と母の子供にしたのは神さまです
お母さん 言うこと聞かずにごめんね
お父さん 生意気ばかりでした
お母さん ガミガミ小言がうるさい
お父さん 少しは分かって欲しい
それでも 父と母の子供にしたのは神さまです
お母さん どんなに心配かけたろう
お父さん たくさん叱られました
お母さん有難う もう一度言います
お父さん有難う 言葉にできない
曲が終わった。
最初に涙拭き用ティッシュの箱に手を伸ばしたのは私だった。
皆さんがそれを見て大きく泣き笑いする。
「ほら、やっぱり泣いたな~」
向かいのご婦人が潤んだ温かい目で私をからかう。
私はもう我慢できずに隣のご婦人の肩に顔をつけておいおい泣いてしまう。
「な、泣いてしまうだろ?この歌聞いたとき、
私は嫁にいく時に送り出してくれた母さんのこと思い出すよ。」
母と同世代であろうその方はそう言いながら、
まるで子どもにするように優しく私の頭を撫でてくださった。
それからしばらくの間、その方と話す。
お嫁に来た時の話やら、お義母さまとの事、初めて夫婦喧嘩した話やら。
失った家での幾つもの思い出を語ってくださるままにお聞きした。
「あんた、結婚してるの? そう、子どももいるの?
結婚はいいことばかりじゃないけどねえ。我慢するも、我慢しないも大事さ。」
私たちは頷き合いながら大笑いする。
でも…
私たちは話題の中心になっていたご主人が無事かどうかには触れない。
震災を生き抜いて一緒にこの仮設で暮らしておられるのかどうか。
私たちはそれには一切触れずに笑い合った…。
それが、私たちが出逢った初めての日。

仮設住宅からの帰路に高速から見た夕日 PHOTO HIDE
瓦礫に凛と立つ 祈る葦たち
あの人は彼らをそう呼んだ
祈る葦たちは日々を生きる
仕入れた秋刀魚を開き
味醂に漬けて一夜を待つ
一夜を待ち一日を生きる
冷えはじめた夕暮れ頃
葦たちは店を閉め
住家となった仮設住宅に戻る
仮設に戻った葦たちは
温かい魚汁をこさえてすすり
不器用な仕草で愛し合うだろう
とっぷり暮れた秋の夜
濃藍にうかぶ山並みのシルエット
その向こうの海の上には
まるい まるい お月様

PHOTO 山本てつや