母は歳を重ねるごとに頑固さが増して小さな事でも良く怒っていた。


久しぶりに実家に電話すると、最近の若いもんは、と始まった。

実家の前は袋小路になっていて、一番端の向い側に下の家の車庫があったが、そこに近頃若い子が数人たむろしてうるさいのだそうだ。

おまけに道端にタバコの吸い殻などがポイ捨てされるので、注意したらうるさい!やらクソババァなどと暴言を吐く始末。 こんな田舎でもワルな子は居て、町の高校生のようだ。


歳をとっても母は負けん気があるから

何度も、何度も言い続けていると言っていた。 喫煙してる高校生のたまり場となっていて許せなかっただろうが、私は違う心配をした。イキっている若者がおやじ狩りをしたとか、ニュースでよく耳にしたからだ。

あんまり深入りして暴力振るわれたら

かなり危険だ。

毎回、毎回吸い殻をちりとりに集めて捨てるを繰り返していたようだ。


高校生達はそれでも反省することもなく、毎回怒られても舐め切っていたようだ。クソババァから、昇格して鬼ババァと言われたと言っていた。

まぁ、言い得て妙だが、痩せて眼光鋭い母の顔はクソより鬼の方が似合ってる、とコソッと思ったのは内緒だった。


母も若い時からタバコを吸っていた。

タバコだけが唯一の楽しみだった。

ある時日向ぼっこしながらタバコを吹かせていたら、例の悪ガキ達がやって来た。

ババァも人のこと言えんやろ!タバコ吸ってるやんか!と言われた。

ババァはもうすぐあの世行くから、なんぼ吸ってもいいんや。と言い返してやったそうだ。

まだ、ヤイヤイ言ってる男の子達に、いつものガミガミでは無く、あの目でじっと見据えてから母は、「あんたらは違うやろ?まだこんな子供のうちからニコチン入れて良い事ないで、親兄弟よりも早く死にたいんか?」

いつも怒鳴られてばかりいた男の子達は、ぶつくさと捨て台詞で退散したらしい。 その後、電話口で母が言っていたが、その日を境に吸い殻が減り、翌週にはゴミも吸い殻も落ちてなかったらしい。 へぇー良かったやん、と私は言ったが、心底安心した。変に正義感出してひどい目に合わされたらどうしようと気をもんでいたから、高校生達が居心地悪くなって退散してくれて助かった。


若い時は、悪ぶってみたり、反抗してみたりいろいろだが、ちっこい婆さんが大きな若者にも気負わず立ち向かう姿に説得力があったのかわからないが

その後実家周りには母の好きな静寂が訪れたのだ。