ヨーロッパのクリスマスは、家族同士がなごやかに静かに楽しむが、ドイツも例外ではなかった。家族といっても、アマーリアとローレとわたしの3人だから、こじんまりとホームパーテイを開くことになった。二人とも忙しくしていたから、チーズフォンデュがメインになった。
フォンデュの鍋をセットして、ローレがエメンタールチーズとグリュイエールチーズをせっせとすりおろし、アマーリアは鍋の内側ににんにくをこすりつけ、白ワインをどぼどぼ注いだ。わたしは、パンをちぎったり、ソーセージを袋からだしたりした。
アマーリアは、ついでに白ワインを自分のグラスに注いで、ほんのり赤くなっていた。そして、ロ-レがレタスやクレソンやトマトなどで山盛りのサラダを作っておいたのを手でつまんで食べていた。
白ワインが温まったころ、チーズを入れて、焦げないように気をつけながら、かき混ぜた。ソーセージやジャガイモはゆがいておいた。
忙しく立ち働いていたロ-レもテーブルについて、パンをフォークにさしてとろとろクリーム状になったチーズをかき混ぜるようにたっぷりつけて食べた。おいしい。
ワインもチーズも良質なのか、無理なくどんどんお腹に入っていった。
バっ!とアマーリアが立ち上がって、居間に走りこんだ。なんだろうと見ていると、
〔ツリーが燃えるんじゃあないかと心配してるのよ〕
とローレが言った。
大きすぎるクリスマスツリーの先は天井に届いて、少し曲がっていた。赤や金などの色とりどりのオーナメント、リボンや、雪のモチーフ、ライトがピカピカ光っていたが、ろうそくもたくさん飾ってあって、アマーリアはそれに火をつけたのだが、元気いっぱいに葉を茂らせたツリーにたくさんのデコレーション、それにろうそくの火がつかないか心配で、2~3分毎に食堂から走り出していた。
〔ろうそくの火を消したら〕とローレが言っても、
〔だめ!ろうそくの火がきれいなんだから〕とアマーリアは知らん顔だ。
アマーリアが何度目かにろうそくの見張りに立ったとき、ローレに、
〔アマーリアはboyfriendはいないの〕と聞くと、
〔いたけど、結婚しているお医者なの。彼の妻に離婚の意思がないので、結局別れたのよ。でもアマーリアは、いつでも男性を見つける人だから。もっといい男性が現れるはず〕
と教えてくれた。
アマーリアの寝室に二人の写真があったが、アマーリアの彼は、がっしりした野性味あふれた男性で、診察室にばかりいる医者のイメージがあまりなく、アマーリアが好意をもったのはうなずけた。そして、ローレの前のboyfriendを嫌ったのも。
3人だけの晩餐を終えて、後片付けも済ませ、居間でローレと静かな音楽を聞いていると、と、ローレが小さな声で、
〔ねえ、彼-ハインリヒだけど、今幸福だと思う?あんな結婚をして〕
とぽそっと言った。
わからない、でもわたしもそれまで、いくつかの経験をしてきた。運命なのか、意図しないままに押しやられる生き方、どちらか決めかねているのに、選ばざるを得ない運命を見聞きし、自分自身も経験していたから、
〔それなりに幸福だと思うよ。だって嫌いならデートしなかったし、赤ちゃんもできなかったんじゃあない。それなりに幸福で暮らしてると思う〕
と言いすぎかな、と思いながらも、ローレがストレートな言い方をほしがっているように思えたし、もうハインリヒのことは過去のこと、早く忘れてほしい、とも思ってこう答えた。ロレは
〔そうね、そうね、幸福なのよね・・・それなりに、それなりに〕と繰り返してうつむいた。
しあわせにも火事にもならず、翌朝になった。ツリーの下に沢山おいてあった箱から、ローレが
〔これがあなたによ〕と、5つくらいの大小の箱を選んでくれた。開けると、黒いエナメルのバッグや、皮の手袋やネグリジェが次々現れた。
わたしからの二人へのクリスマスプレゼントは、ローレには、金のイヤリング、アマーリアには、ちょっとイメージがわかなかったので、イギリスのwoolで編んだ、白、紫、ピンクを混ぜたショールで、これはひざ掛けにもなるほど相当大きく作っておいた。
アマーリアはこれを見ると、一瞬どう対応していいかわからなかったようだが、わたしをがっかりさせまいとだろう、すぐ笑顔を作って、ショールを肩にかけ、
〔ほら、見て。ううん、気に入ったわ、どうもありがとう〕とくるりと回って見せた。
体格のいいアマーリアにはこのサイズでも両肩をおおえなかった。
それに、それまで出かけるときは、アマーリアは、ミンクやチンチラの長い毛皮のコ-トを肩からかけていたから、わたしのプレゼントはいかにも不似合いだった。
ローレは、わたしが傷ついたのではないか、と気をもんでいる様子だったが、わたしはけろりとしていた。学生のわたしとしては、これが精一杯で、30才の、成功して、これからも将来性のある実業家と比較しても仕方がないからだ。
そのときわたしはイギリスのデパートで買ったモスグリーンのコートしかもっていなかったが、誰も何も言わなかったし、わたしは、胸を張って歩いていた。着るものでとやかく言われたくない、物欲が希薄なわたしはなにも気にしなかった。
アマーリアは、いつも熱気がほとばしっているように体温が高いので、わたしのプレゼントは、ひざ掛けにもならず多分、母親か叔母さんかにこっそり手渡されるだろう、それでもいいや、とわたしは思った。とにかく、クリスマスプレゼントは渡したんだから。
クリスマスから数日後、ロ - レが、なんだかうきうきしていた。疲れて、哀しそうなのに、自分を浮き立たせるように、ふわふわしていた。ローレが近くに来たとき、いい匂いがした。
〔新しい香水よ。すてきでしょ、この香り〕と話しかけたきたので、、
〔うん、なんて香り〕と聞くと、
〔Je reviens(わたしは戻ってくる)よ〕とさらりと答えた。
わたしは立ち止まって、近くにいたアマーリアと顔を見合わせた。