日蓮を「全方位に向けて喧嘩を売る過激思想の仏教者」という印象を持っている人は僕を含めて少なくないと思います。

確かに日蓮といえば「念仏無間、全天魔、真言亡国、律国賊」という「四箇格言」が有名ですが、日蓮が立宗した当初は法然率いる念仏集団のみを批判していました。

 

有名な『立正安国論』にしても、鎌倉大仏(阿弥陀如来像)建立をはじめとする念仏勢力への寄進の中止を求めるもので、「法華経のみが正しい!法華経を信仰しないと国が亡びる!」レベルの主張を鎌倉幕府の実質的な最高権力者である北条時頼に提出したわけではありません。

 

のちに日蓮は律宗(真言律宗とも)の忍性を激しく批判しますが、

彼の生い立ちからそこに至る日蓮の思想を様々な書簡から解き明かし、日蓮の実像に迫っていくのが本書の目的です。

 

日蓮の手紙や著述には写本しか残されていないものも少なくなく、

真蹟(確実な自筆)以外は信ぴょう性なしとして論じる際使用されない傾向がありました。

本書ではそれらをできる限り使用して、真蹟であっても鵜吞みにせず批判的に使用することで当時の歴史状況を明らかにしていくというスタンスを取っています。

 

また、自身を最澄の門人と自認しているのも、日蓮の時代の延暦寺の衰退(あくまで日蓮の認識ですが)を嘆くとともに持論の正しさに対する自信の現れでしょうか。

 

特に日蓮と他宗派(認証)の関係からも見ることで、日蓮を相対化するという試みがなされていることは重要です。

 

いずれにせよ、日蓮教団が現代に至るまで存続し、

中世の京都においても天分法華の乱と呼ばれる一揆を起こす事が可能な信者集団を持ち、

織田信長が最後に宿泊した本能寺も日蓮教団の寺であることから、

決して弱小ではない勢力を感じることが出来ます。