豊臣政権及びその頂点に立つ関白(のちに甥の秀次に関白職を譲り「太閤」と呼ばれる)秀吉は一般に戦国乱世を終わらせ、天下統一を成し遂げたと評されています。

 

初期の仮名草子作者として知られる三浦浄心の著作『慶長見聞集』や

太田牛一による秀吉の伝記『大かうさまくんきのうち』では

昔は長者・有徳人しか持っていなかった金を民百姓が持つまでに栄えた「弥勒の世」であるとか、

秀吉の「ご慈悲」「御威光」による「ありがたき御代」と評していますが

早くも京都ではその崩壊の兆しとも呼べる不穏な事件が起き、

不均衡な経済政策による社会不安が発生し、

政権トップに位置づけられる秀吉の後継者問題や天変地異も相まって政権は動揺し、

後継者と位置付けた秀次やその一族の粛清に奔ります。

 

こうした事例は、政権の崩壊はその絶頂期から始まっているという好例であり、

社会の闇に目を向ける事から見えてくることがあるという事です。

 

「ならかし」と呼ばれる経済政策もその一つで、

奈良の住人に強制的に割り付けて貸し付け、その利息を銀子で収めさせるというもので、

町人の今井与助が一家心中した上に家に火をかけるという社会問題化し、

秀吉によって徳政令まで出ています。

 

金銀が庶民にまで広まったのは事実でも、それは秀吉の「金くばり」と称する

諸大名や公家衆に対する形見分け(返礼の必要がない)によるもので、

その目的が貨幣の流通にあったと考えられます。

 

首都京都では関白秀次の家臣同士での喧嘩が起きたり、

辻斬り強盗が跋扈し、その中で捕らえられた盗賊団の頭目がかの石川五右衛門でした。

 

また、秀吉が大陸への出兵を試みて、肥前名護屋へ大名を集結させた結果、

その留守を守る女房衆に不行跡が見られたのか、声聞師と呼ばれる民間の陰陽師(被差別民の散所に属し、芸能にも携わっていた)が追放され、豊後に送られた声聞師たちは農民として働かせ、同時期に尾張に流された声聞師たちは荒れ地の開墾をさせられたという記録が残っています。

 

さらに、宇喜多秀家夫人(前田利家の娘で秀吉の養女となった豪姫)が狐憑きになり、

秀吉の命令で狐狩りが行われるなど、政権は混迷を極めていました。

 

そんな状況で秀吉に実子・拾丸(後の秀頼)が生まれ、関白秀次に謀反の疑いがかかり

秀次本人は切腹し、その妻子は粛清粛清されたのです。

さらに政権中枢であった伏見城が地震で倒壊するという天変地異まで起きるのですから、

「天道は秀吉を見放した」などという考えが出ても不思議ではありません。

 

さて、2026年のNHK大河ドラマは秀長を主役に据えた『豊臣兄弟!』であると発表されました。

現時点で発表されている範囲で推察すると、ドラマは秀吉・秀長兄弟のコンビが立身出世を果たしていくバディものと思われます。

 

 

『真田丸』以降の大河ドラマでは、秀吉やその周囲の人物が主人公ではない

(『麒麟がくる』では同僚ではあるがライバル的なポジションにある明智光秀、

『どうする家康』に至っては対峙する立場の徳川家康が主人公)ということもあってか

ダークな側面を強調した秀吉像を描かれる傾向にありました。

 

秀長が主役、秀吉が準主役で登場させるのであれば

往年の明るい人たらしな秀吉が復活し、本書で語られる「ならかし」をはじめとした

兄弟のダークサイドは封印されてしまうのでしょうか?

 

現時点では何とも言えませんが、秀吉の配役である程度予想できる部分もあるでしょうし、

続報を待ちたいと思います。

少なくとも大河で奈良県が舞台となる(大河ドラマ館もできる?)

のであれば地元にとっても悪い話ではないでしょう。