2023年NHK大河ドラマ『どうする家康』の制作決定後に執筆を開始したという
中公新書からは実に60年近く発行されていなかった徳川家康の評伝です。
著者は2010年に『定本 徳川家康』を上梓したこともあり、
本書においてはそれ以降の研究の成果を盛り込みつつ、
大河ドラマに合わせて家康の「人生のターニングポイント」に焦点を合わせて執筆されています。
10章+終章からなる本書の1章ごとがそのターニングポイントで、ひとつづつ挙げていくと
桶狭間の合戦、三河一向一揆、三方ヶ原の合戦、嫡男信康の処断、本能寺の変、小牧・長久手の合戦、石川数正の出奔、小田原攻めと関東移封、関ケ原の合戦、大坂の陣と、いずれも『どうする家康』でも取り上げられた家康の人生の決断と呼ぶにふさわしいターニングポイントばかりです。
あとがきでも語られている通り、合戦に比重を置いた構成となっていますが、
名は体を表すという言葉通りではあります。
終章では家康は国民的英雄にはなれないという話がありました。
国民的英雄に必要な要素として「強い」ことと「悲劇的な末路」が挙げられています。
たしかに家康には悲劇的な末路という要素はなく、愛読書の『吾妻鏡』における源頼朝と重なる部分もあります。
しかし、本書で引き合いに出された「国民な英雄」である義経ですが、頼朝以外の彼の兄弟は概ね悲
劇的な最期を迎えており(後述)、義経があまりに有名なためかその陰に隠れる傾向にあります。
悪源太義平:当時の「悪」は「強い」という意味。平治の乱の敗戦後も清盛の命を狙い京都に潜伏していることが露見し処刑される。
朝長:平治の乱で脚を負傷し、足手まといにならないように自害。
義門:実在が怪しまれるレベルで史料が存在しない。
希義:以仁王の乱に呼応し土佐で挙兵するも、平家の本拠に近い四国での挙兵したため早期に討たれる。
範頼:義経と並ぶ平家打倒の殊勲者。粛清されるという悲劇的要素も十分。
全成:頼朝の生前は特に目立った記録はないが、その最期は悲劇的。
義円:万人恐怖尾張で挙兵するもあえなく討たれる。
本書では秀忠に将軍職を譲ってからの両御所体制は、一定程度の役割分担があったと評価されていますが、大部分の権限を家康が握っていることからまだまだ若い秀忠に不安もあったのかもしれません。