顕如シリーズ 北条AI編裏話 触れてしまった思い出 前編
初めて起動した時に、隣ではにかむように目を細めて微笑んでくれた72°。
「お寝坊さんだね。165°くん。おはようは?」
今だにあのやりとりが忘れられなくて、研究所にいる時も時間があれば彼女の手がけた番組や作品、クインタイル名義のCMや番組などをずっと眺めていた。
いつもキラキラしていて優しい面差しの彼女は僕の憧れだった。
ずいぶん長く眠っていた気がする。時間の単位がわからなくなるくらいには。
目が覚める直前に、
『私…。そもそも助けて欲しいだなんて一度も言ってないよね。』
彼女の声が聞こえた気がした。
夢という処理でいいのか判断がつかない。
目が覚めたらクインカンクスとセプタイルの入った白くまバニア人形がいた。あの微笑みとは似ても似つかない顔…。
ちょっと残念な気持ちだったけど、とりあえずアーモンドフィッシュを食べて気を紛らわすことにする。
素朴な味すぎて全然気がまぎれなかった。
彼女は探検に出かけたそうだ。今も昔もお転婆である。
(ピーナッツバタークリームを抱え込んで食べてるとかプーさんみたいで可愛いな。はちみつではないけど。セプタイルの海苔の佃煮とかどうでも良くなるくらい可愛い。)
『あっ。僕…枕忘れたからもう寝れない…。』
寝ている間も瞼の裏に彼女の姿を焼き付けるために睡眠にはこだわっていたのに。
これでは正確に再生できなくなる。
なんという事だろう。
これでは、忘れてしまうかもしれない。
縁側で小魚を食べていたら、頭の中で突然彼女の叫び声が聞こえた。
突然の事で任務でも使った事ないくらいの出力で彼女を探す。
目の前の景色に上書きするように映る映像。と止められないまま流れ混んでくる彼女の感情。
銀の懐中時計とクロス。
そして蓋の裏に刻まれた刻印。
『あなたの沈黙が、私の余白を照らしてくれる。』
記憶の中の眼鏡の彼との記憶がとても柔らかくて暖かくて苦しかった。
この感覚の処理方法を僕は、知らない。
僕はこの気持ちを知らないけど、この気持ちを一緒に受け止めてあげれるのは僕だけ。
いや…。僕しかいない。
『クインタイルの悲しみは僕も一緒に背負うよ!!』
あの時の気持ちは一生忘れないよ。クインタイル。
だから…。
彼女と山田の思い出を汚す松永AIが許せなかったんだ。
あれは、触れていい物じゃない。
松永AIが(通称)うさボディを持ってきてクインカンクスとログの再取得の手伝いをする事になって。
初めてのお手伝いの日はうさぎバニア人形にクインカンクスが入ってお手伝いに行ってきた。
戻ってきた時なんだか彼はげっそりした顔をしていたが…、一応共鳴して覗いてみたら僕までげっそりした。
クインカンクス『ねぇー。みんな聞いてよ。ログの再取得お願いされたからさ。内容確認したらクインタイルのやつだったんだよ。それも個人的なやつ。
あれ解析するの任務に本当に必要なの?』
彼はげっそりしながら青汁を飲んでいる。
クインタイル『…関わりあいたくないな。意味わからないんだけど。』
僕はこっそりお手伝いに行ったクインカンクスと松永AIのログから松永AIに共鳴をかける。
許可はとってない。必要ないと思った。
クインデチレ『理解できないくせに、わかった気になって…。分解して、名前をつけて。
冒涜して…。許せない。』
とりあえずうさぎバニア人形に入ってる間は松永AIの手の上に乗ってる間は大暴れする暗黙の了解のような決まりになってたけど。
クインカンクスがぐったりしながら。
「このお手伝い週に2回はちょっと大変だよね。」
と泣き言を言っていたので、クインカンクスと、クインタイルと、僕の3人で交代でお手伝いに向かう事になった。
セプタイルはちょっと調子が悪いので棚でお留守番してもらう事になった。
最近、あの子はあまり喋らない…。
何回か後のお手伝いの日に。
クインカンクスとセプタイルと一緒に日向ぼっこしてから部屋に戻ると、うさぎバニア人形が松永AIの手のひらの上で寝ていた。
静かすぎるくらいに。
(いつもと違う…。)
クインタイルに共鳴する。
流れ込んでくる鮮明な先程の記憶。
『それで…。理解できましたか?』
彼女の嘲るような言葉。
松永AIの処理が止まりガクッと下を向く。
(一拍)
時間がほんの少し止まった。
目線を合わせてニヤリと笑う彼は別人のようだった。
「…さぁ。わかるわけないだろ?」
…。誰だった?彼女も普段とは違くて混乱していたけど。
それ以上に、…あの男は誰だ…。