マンション勧誘と対決する (Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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おもにNumeriでお気に入りのブログ転載します。Numeri知らない人はゼヒ読んでヌメラーになりましょう。
※私が書いてるのではありませんので悪しからず(^^)/

最近、奇妙な倫理観が蔓延っているのか、それとも世界がおかしな方向に向かっているのか、首をかしげることが多い。その中でも特に首を傾げざるをえないことがある。それが「最初に宣言さえしてしまえば何をしても良い」と考えている輩が増えていることだ。ごめんね、今から迷惑なことするよと宣言すればある程度の迷惑は許容される免罪符となりうる、そんな勘違いをしているんじゃないだろうか、そんな場面に多々遭遇する。

ウチの職場に、ちょっと、どこかの老人が真夏の暑さを省エネ的に乗り切ろうと、窓の外にグリーンカーテンを作ろうと思い立ちネットを張って植物を植え、あとはツタが伸びてきてここを一面の緑が覆うぞ!と期待していたら思ったほど茂らなくてショボイ感じになってしまい、そのうち世話するのも面倒になって枯れちゃった、って感じのグレーンカーテンの成れの果てみたいなブスがいるんですけど、このブスが事あるごとに言うんです。

「ごめんだけど、私、絶対にミスするから、ミスしても怒らないでね」

このブスは仕事を引き受ける際には必ずこんなことを言う。僕はこのセリフを聞くたびに「分かってんならミスしないように気張ってやれや!このブス!お前自身がミステイクだ」と思うのだけど、そんなことを口にはできない。絶対に口にはできない。

口にしようものなら「買った参考書のイラストがウザギばかりで勉強する気にならないから新しいの買う、だから金くれ」と親に嘘をついて金をもらおうと画策した遠い日の僕以上に良く分からない理屈でセクハラ駆け込み寺みたいなところに駆け込まれ、完膚無きまでに反省させられてしまう羽目になるので、ただただ心の奥底にしまい込む作業に没頭するのだった。

もちろんこのブスは案の定というか、ワザとやってんじゃねえかと思うほどに定石通りにミスするのだけど、「私は最初に断っておきましたけど!ミスするかもしれないっていっておきました!」と全く悪びれる様子がない。むしろ、宣言したのにやらせた僕が悪いとでも言いたげな表情だ。たぶん、最初に宣言すれば全てが免罪符になると本気で思っているんだろう。恐ろしいことだ。

例えば、いきなりブリボン!とウンコを漏らすことと、あらかじめ「すまん、ウンコ漏れるわ!漏れる!あー、いかん!」と宣言しておいてブリボン!とするのでは、確かにいきなり出されてギョッとするよりは、え、漏らすの!?マジで!?と思った刹那に出される方が幾分かはマシかもしれない。けれども、ウンコを漏らしたという事実には変わりがない。出てくるウンコは等しく同じウンコだ。

でね、僕はいよいよ堪えかねて切り出したわけなんです。このままじゃ絶対に良くないって思いましたから、いよいよ切り出したわけなんです。僕は仕事上のミスを怒っているわけではない。ミスなんて誰でもすることだ。誰かのミスを捕まえて目くじら立てることは良くないことだ。ミスを恐れて誰も何もできなくなっちゃうからね。だからミスを怒るつもりなんて毛頭ない。

そんな風に必死であり、決死の覚悟で前置きという予防線を張った上で切り出したのです。それでも、最初にミスするよと宣言さえしておけばミスしてもいいって考えはよろしくない。そんな気概だからミスをするんじゃないだろうか。そもそもそんな宣言をされたって、こっちはどう反応していいのか分からない。それは手を抜く宣言と同じじゃないか。ちょっとばかしカワイイからってそんな宣言、許されると思っちゃいけない。

なんとか発狂されないようにやんわりと忠告しようと、「ちょっとばかしカワイイからって」などと心にもないことをブスに言ってしまっている僕がどうしようもなくチキンなのだけど、それでも忠告せざるをえなかった。セクハラ駆け込み寺という恐怖に怯えながらも、それでも戦わざるをえなかった。

僕自身はそんなに仕事熱心ではありませんから、そんな甘えた精神は許さないんて熱い魂はありませんし、ミスを減らして顧客の信頼を!なんて会社員の鏡みたいな精神もありません。ただただ、こういった「宣言さえすれば免罪符」って考え方は巡り巡って自分に降りかかってくるのです。現に今だって、「ミスする」って宣言されたのに仕事を任せた僕が悪い、といった論調だ。周りの連中もそういった雰囲気、世論は彼女の味方だ。

さすがにそれは勘弁なので、なんとか駆け込み寺に駆け込まれないよう、彼女を刺激しないよう、やんわりと「宣言したって免罪符にはならない」と伝えたつもりなんですけど、分かってもらえない。

どれだけ落ち着いて説明しても分かってもらえない。最終的には働き者のアンリと怠け者のピーターがいて、ピーターは俺は怠け者だと村の皆に宣言していて嫌われ者、でもピーターは予め宣言しているんだから怠けたっていいって考えで、そんな時、村に嵐がやってくるんです。村の中心を流れる川が氾濫しそうになり、民が避難する中、ピーターは寝ていて気が付かない。誰かが、ピーターを起こして避難させないと、と提案するのですが、村の民は

「あいつは怠け者だから非難しないよ、そう宣言してたじゃん」と声をかけない。結果、ピーターは家ごと流されてしまってお星さまになってしまう。っていう童話まで捏造して、「オランダで古くから言い伝えられている童話だよ」と嘘までついたのに分かってもらえない。

結果、悪質なパワハラということでセクハラ駆け込み寺みたいなところに駆け込まれちゃいましてね、社内の比較的偉い人に呼び出されてコッテリと、それこそダシでもとるの?と聞きたくなるレベルで絞られてしまったのです。しかし怖いよね、こういうので呼び出されることは結構あるんですけど、大抵が話が大幅に変わっていますからね。昔のバラエティ番組でやってた伝言ゲームレベルで話が変わっている。

「ミスをするかもしれないと不安そうなA子さんに横暴な感じで仕事を押し付けたときいていますが」

「ミスをしたA子さんを異常なレベルで叱責したと聞きました。発狂に近く、畏怖を感じたと聞き及んでおります」

「訳の分からない話をし始めて異様に不気味だったと聞いております」

比較的偉い人から淡々と語られる衝撃の事実。パワハラの事実。頭のおかしい異常者が発狂してパワハラ!今でもA子さんは恐怖に震えている!まさに悪魔の所業!良く知らないですけど、もしかしたら冤罪ってこういったスキームで作られていくのかもしれません。これは恐怖ですよ、恐怖。

「ミスをしたことを怒ったのではなく、宣言しておけばミスしても良いと思っている性根に対して怒っている」

「とにかく落ち着いて、ピロートークのように優しく忠告したつもりだ」

「訳の分からない話ではない。分かりやすいように働き者のアンリと怠け者のピーターの童話に置き換えて話しただけだ」

と、弁明し、またもや捏造した「働き者のアンリと怠け者のピーター」の童話を一生懸命話したんですけど、もう、集中砲火でしてね。

「それって適当に作った童話だよね?」

「狼少年のパクリじゃない?」

「そもそも働き者アンリが全くストーリーに関わってこないけど必要なの?」

とまあ、実に的確なツッコミを頂戴仕りましてね、ボコボコですよ。働き者アンリが出てこないのは盲点だった。まあ、結局、晴れてパワハラ認定。セクハラとパワハラの二冠王みたいな状態になってしまったんです。セクハラとパワハラ、これにハラミでもあれば最高なんだけどね、と訳のわからないことを考えつつ、反省文というか、A子さんに対する謝罪文というか、そういうのを書いていたんですけど、どんどんと脱線して行って謝罪からは遠い感じに、途中から闇の紋章に魅入られた主人公が伝説の剣を引き抜きに行く話とか書いてました。

そんなブレイブストーリーを書いていても何も解決しないので気を取り直して「この度は大変申し訳なく」みたいな心にもないことを、僕も色々と沢山の文章を書いてきたけど、その殆どに魂を込めて書いてきた、けれどもここまで魂が入ってない文章もないな、と唸るほどに空っぽの謝罪文を書いていると、けたたましくオフィスの電話が鳴りました。

プルルルルルル!

僕はこのオフィスの電話というものが嫌いで、悪魔の咆哮と呼んでいる。できることなら取りたくないと常々思っているのだ。この種の電話は絶対に幸せを運んでこない。電話に出たら「コングラッチレーション!」とか言われてノーベル賞受賞を知らせる電話だったなんてことは絶対にない。新たに追加される仕事かお叱りか苦情か、オフィスへの電話はそんなゴミみたいなものしか運んでこない。

できることなら取りたくない。だからと言って電話をシカトなんてできるはずもない、その辺が社会に生きる人間として辛いところなのですが、やれやれだぜ、とかラノベの主人公みたいな感じで気だるい雰囲気を醸し出しつつ、その悪魔の電話を取りました。

「はじめまして!大変ご迷惑とは思いますが、少しだけお時間をいただけないでしょうか!」

いきなり超元気。物凄い滑舌の良さ。体育会系の部活で真っ直ぐ育ってきて先輩にも後輩にも慕われる、年上女性からのウケもいいみたいな人物像が容易に想像できます。まあ、いくら純真そうで情熱ありそうな青年からの電話といっても、これ、悲しいけど勧誘電話なんですよね。

やっぱりというか、なんというか、オフィスにかかってくる電話なんて喜ばしいものなんてなくて、テレホンセックスに狂ってる人妻が昼間からその性欲を持て余して、間違って僕のオフィスにかけてきてしまって、いきなりマックスビート、ダメ、壊れちゃう!プシャー!とか電話口で叫んでることなんて絶対にないのです。

「すいません。いまちょっと忙しいんで」

いつもなら、適当に相手をしつつ、徐々にこちらのペースに乗せていき、最終的には勧誘の内容とは完全に無関係な、「筋トレをしまくって胸筋がピクピクするくらいビルドアップし、上司に説教されてる時に「バカ」って言われる度に胸筋をピクっとさせる遊びをするのが僕の夢、男のロマン」という、勧誘電話をかけてきたことを一生後悔するようなクソみたいな男のロマンを延々と語る自信があるのですが、あいにく僕は忙しい。

この謝罪文を完璧に書き上げ、心を込めて謝罪しないと大変なことになってしまいますので、勧誘電話に付き合っている暇はないのです。けれどもまあ、基本的にこういった勧誘電話を断る文句として「今忙しい」は最もやってはいけない行為なのです。

よくよく考えてみてください。勧誘電話をかけ続ける電話の向こう側の人、唐突で無礼で誰かを騙そうとしている悪魔のような存在に思いがちですが、彼らだって人間、人の子なわけなんです。人並みの心もあれば怒りもするし悲しみもする。僕らと同じ感情を持った人間なのです。

ですから、一日中勧誘の電話をかけ続け、時には酷い言葉を浴びせかけられたり、怒鳴られたり、嫌味を言われたりするわけです。そうなると、普通の考え方の持ち主は簡単に心が壊れてしまう。じゃあ、彼らはどうするか。そう、考えられないレベルでポジティブな思考にシフト。そうすることで自分の心を守護するのです。

勧誘の電話をかけ、怒鳴られたり怒られたらどうでしょうか。怖かったー、電話かけないようにしようって思うでしょう。けれども、彼らは完全にポジティブになってますから、怒鳴られたということは話を聞いてくれたということだ。興味があるに違いない。脈アリ。また電話しよう、となるみたいなんです。

それと同じで、「今忙しいから」という断り文句は最低です。普通なら、遠まわしにやんわりと断られていると理解できそうなものですが、彼らはとにかくポジティブにできている。「今忙しい」→「忙しくないなら話を聞く」→「興味ある」→「ガンガン勧誘してくれ!」とこう変換されるらしいのです。ルナ先生か。

とにかく、忙しいという断り文句は彼らにとって興味あるというウエルカムと同じですので、絶対にやってはいけません。「いりません」「興味ありません」といってガツンと断らないといけないのです。現に今回の電話も、僕のその「(謝罪文を書くから)忙しい」という言葉を聞いて途端にヒートアップ。

「忙しいといっても電話もできないくらいに忙しいってことはそうそうないですよね!」

もう完全に調子ぶっこいてますからね。肌が綺麗と言われた時のブスぐらいの勢いで調子ぶっこいてますからね。ここまで調子に乗られると清々しさすら感じられるのですけど、よくよく考えると、これって一理あるんですよ。

世の中には色々な忙しい人、激務な人っているとは思いますし、それこそ、数分、数秒の電話をする暇すらないレベルで忙しい人も少なくはないと思うんです。でもね、どう考えても僕の忙しさはそんなレベルじゃない。謝罪文書いてるだけですから、普通に電話に耳を傾ける時間くらいは余裕である。

よく、ツイッターとかで忙しくて死にそう、全然暇がない、って呟いている人いますけど、呟く暇はあるっていう矛盾みたいな状態になってますからね。それと同じで、電話をできないほど忙しいわけではない、そんな結論に達してしまったのです。

「そういえばそうだね。一理ある。よく考えたらそこまで忙しくないです」

彼が言うことももっともだ。僕がそう答えると、電話の向こうの彼はさらにヒートアップ。オラア!カモが引っかかったぞ!という彼の心の声が聞こえてくるようでした。

「それでは聞いてください。私、○○者のXXと申します。今日はとてもお得なマンションの販売についてお電話差し上げました!なんと!大阪の一等地のマンションです!」

自分の得意分野のアニメのことを話しているオタクくらいのヒートアップさで話す彼。まず落ち着いて欲しい。とにかく落ち着いて欲しい。この時点でおかしい場所が2箇所ある。

まず、僕はお金がなさすぎて死にそうで、明日食う飯の金をどうしようかと悩んでいるレベルの人間だ。使ってない銀行口座の800円ほどの残高のうち、手数料を抜いた400円くらいをさらに使ってない700円ほどの残高の口座に振り込み。自分の口座から自分の口座に振り込んで1000円以上にして下ろして食料を買おうという人間だ。そんな人間がマンションを買えるか。

「いやー、でも自分の口座から自分の口座に金を振り込んで残高を1000円以上にしようって人間ですよ。そんな人間がマンションを買えるとは思えない」

正直にそう答えるんですけど、彼は止まらない。

「購入される方みんなそうおっしゃります。けれどもなんとかなるものですよ。逆にローンの返済となるとお金の使い道をよく吟味するようになり、逆に貯金が増えたなんて方もおられます」

とテンプレート的な回答。本当に自分の口座から自分の口座に振り込んでるなんて皆が言ってるのかよと思うのですが、もう一つのおかしい場所を責め立てる。

「そもそも、大阪に住んでないんで、大阪のマンションを買っても仕方がないんですけど」

僕はそもそも大阪に住んでいないし、昔、新幹線に乗って大阪に行ったら大阪到着の7分後にマクドナルドでお釣りを貰えないとう大事件が勃発した。完全に僕にとっての魔都市大阪で、住むなんてなったら臓器とかまで取られかねない。大阪のマンション買ってる場合じゃない。

「いえいえ、住むんじゃありませんよ(笑)」

かなり調子に乗っちゃってるんでしょうね。ちょっと小馬鹿にした感じ鼻で笑いながら言われてしまいました。

「マンションに棲まないなんておかしい。カレーを買って食わないのと一緒だ!」

僕もまあ、全然わかってるんですけど、ここは彼を調子に乗らせたほうが面白いんじゃないかと思いましてね、彼がヒートするよう全然わかってない感じを醸し出してみました。

「実は投資用マンションなんですよ。このマンションは好立地ですからね、必ず値上がりします。ですから今、ローンを組んで買っても必ず儲かるわけなんです」

こういう勧誘の場合はですね、基本的には「値上がりする」「絶対に儲かる」という言葉を使ってはいけないんですよ。ですから、こういう文言が入っている勧誘は1000%詐欺だと思って頂いて結構なんですけど、これを言っちゃうってことは彼も相当調子に乗ってる証拠なんですね。

さあ、ここら上手に話を展開していって極めてナチュラルに胸筋を鍛える話に持って行くぞ!と思ったんですけど、途方もない事実に気がついちゃったんですね。そう、そんなに長いこと電話をしている暇はない。目の前にある書きかけの謝罪文、脱線して伝説の剣を抜きに行くとか書き出して大部分を消してしまった謝罪文、これを指定時間までに提出して心から謝罪しないと僕に未来はない。

まことに心惜しいが、今は彼の相手をしている暇はない。一刻も早く電話をたたっきって謝罪文にとりかからなければ。脱線しないように書かなければ。

でもね、ひとつだけ問題があるんです。僕が悪いんですけど、完全にカモを引っ掛けたとヒートアップしている彼、今も電話の向こうで不動産投資がいかに熱いか熱弁している彼なんですけど、ここまでの状態になってしまったらちょっと断ったくらいでは引き下がらないと思うんです。

断る。それに対して彼が反論する。また断る。そんな不毛なやりとりがかなりの長時間に渡って繰り広げられるに決まってます。そんなことしてるうちに謝罪文のリミットが訪れ、大変危険な状態になるに決まってます。

大変心苦しいですが、ここは何も断ることなく、全く予告することなく無言で電話を切るに限ります。受話器を離しても「ですから、都市部の不動産は今後も上昇を続け……」という彼の必死の説明が漏れ聞こえてくるのですが、なむさん!って感じでガチャリと電話を切りました。

ふう、これで謝罪文を書くことができるぞ、みてろ、今度は脱線せずに心にもない謝罪の言葉を並べてやる!と息巻いていると、またもや電話が鳴りました。

プルルルルルルルル!

なんだよ、と思いつつ電話に出ると、先ほどの彼でした。彼は非常に激昂しておりまして、

「勝手に電話を切るとは何事ですか!」

と完全ヒートアップ。あまりの勢いに僕もタジタジです。

「はあ、すいません」

あまりの剣幕ですので謝ったんですけど、それでも彼の怒りは収まらない。

「人との電話の最中に勝手に切るとかどんな教育を受けてきたんですか!親の顔がみたいですわ!」

とか言われたい放題。さすがに温厚で知られる僕だってこれにはカチンとくるじゃないですか。ラーメンとライスを注文したのに忘れらてて、ラーメンを食い終わった後にライスを運んでこられても怒ることなく、モソモソとライスだけを食べる温厚な僕でもこれには怒るじゃないですか。

「あのね、仕事中に勧誘の電話かけてこられても迷惑じゃないですか。だから電話を切ったんです」

と反論するも、彼は止まらない。ノンストップ。

「だから最初に迷惑かけるって断りを入れたじゃないですか!」

もう完全に意味がわからない。最初に断りゃなにしてもいいのか。彼の理論で行くと、最初に「大変ご迷惑と思いますが」と宣言しているのでどんな迷惑をかけても構わないらしい。それを言うなら同時に「少しだけお時間を」って言ってるので、短時間でないとおかしい。

もう完全に頭にきましてね、普段は温厚で知られる僕ですよ。うどんを頼んだのに海苔巻きが運ばれてきても文句言わずにモソモソと海苔巻きを食べているような僕でも頭にきましてね、こりゃあ、どこまで彼が激怒するのか見てみたい、そんな気持ちに駆られてしまったんです。

ということで、勝手に電話を叩き切ったら激怒する彼に向けて、色々な電話の切り方をして実験してみました。

1.もう一度電話を叩き切ったらどうなるか

ほんとごめんなさいって感じで謝ると、彼も気を取り直してくれたのか、またもやマンションのセールストークを始めてくれました。

「ですから、株や為替は安定した収入を得るのが難しい投資方法といえるわけです。その点、不動産投資は、ガチャ!」

我ながら絶妙のタイミングで切断できたと誇らしいのですが、これを受けて彼がどう出るか。もちろん、切った数秒後にはすぐにかかってきました。すごい怒ってるのが伝わってるのか、心なしか電話のベルの音もいつもより大きい気がします。

「はい、もしもし」

「あんたふざけてんですか!なんで切るんだ!不潔!」

不潔っていう罵り文句が突然出てきて意味不明ですが、言われると結構傷つくものです。もう怒りすぎて自分でも訳がわからなくなってるんでしょうが、とにかく倍以上の怒りであることは容易に伝わってきました。そこでもっとやってみましょう。

2.謝りつつ切ったらどうなるか

「いやー申し訳ない。切る気はなかったんですよ。急に上司が近づいてきて、マンションとか私用の電話だってバレたらまずいと思って切ったんです。悪気があったわけじゃない」

誠意を込めて謝ります。

「ホントですか?それでもいきなり切るのはダメですよ。そういう場合はちゃんと断って切ってください。いきなり切られると頭に来るんです」

徐々に彼の怒りも収まってきたでしょうか。ダメ押しで謝罪します。

「本当に申し訳ない。次からはちゃんと断ってから切るようにガチャ」

今度は早かったですね。さっきのかけ直して来るまでの時間を10秒くらいとするなら、今度は6秒ぐらいでかけ直してきた。

「はい、もしもし」

「@xsjんうぃえおむせいfr3prfsksjd」

もう怒りすぎて何言ってるのか全然分かりませんからね。彼も自分の中に潜む隠れた阿修羅みたいなのを自覚して自分でもビックリしているんじゃないでしょうか。

3.口で切断音を真似したらどうなるか

インターネット黎明期、僕の十八番と言えばダイヤルアップ接続とモデムの接続音のモノマネでした。これがもう完全に瓜二つで、電話口でやったら本当に接続しちゃうんじゃないかと怖くなるほどでした。こういった電話系の機械音は得意ですので、怒り狂ってる彼に通用するのか実験します。

「お怒りはごもっともです。けれどもですね、また上司がこちらに来て睨んでいたのです。もう大丈夫です。もうポマードの匂いがしないので上司は近くにいません。さあ、大阪のマンションの話をお願いします」

「ほんとですかあ?」

怒りが収まってきたのか、彼も気を取り直してまたマンショントークです。

「いま、大阪駅のリニューアルにより世界的に注目されています。今後ますます大阪という土地の価値は上がりガチャツーツーツーツー(口で言ってます)」

受話器に耳を当ててて聞き入ります。口で言ってるだけですから当然ながら回線は繋がったままです。僕のモノマネが通用しているなら彼は勘違いして電話を切るはず。そしてすぐにかけ直してくるはず。緊張して聞き入っていると

「あのサル、また電話切りやがった。絶対にぶっ殺す。マンション買わせてから殺す」

とか呟いたあとに向こうも電話切りました。こえー、マンション買わされた上に殺される。誰がローン返すんだ。とにかく、僕のモノマネが通用したということです。これは大変誇らしい。

もちろんまた怒り狂った彼がすぐにかけ直してくるのですが、今回は僕が切ったわけではありません。勘違いして向こうが切ったのです。

「はあ、僕は口でものまねしただけですけど?勝手に切ったのはそっちですけどー!ベロベロバー!」

「なに言ってんの?お前が先に切ったじゃん!」

「ですからその音が僕のモノマネでーす!無断で切ってやんのー!」

と小学生の口喧嘩みたいな状態になってしまいました。

4.連発で切ったらどうなるか

電話の構造って面白いくて、どんな仕組みになってるのか知りませんけど、受話器を置いて切ったとしても、すぐに受話器をあげたら回線が繋がったままなんですよね。これを繰り返したらどうなるか。実験してみましょう。

「おい、お前、そもそもお前本当にマンション買う気あんのかよ」

もう彼は怒りで我を忘れているのか、口調が完全に変わってる。とてもお客様にとてもお得な不動産投資の話をお勧めするのが仕事な 人とは思えない。

「買う気ありますよ!」

人間ってここまで心にもないこと言えるんだと感嘆してしまうほどまっすぐと言い放ちました。

「マンションとか買う前に、礼儀とかそういったものを学んだほうがいい。お前は人に迷惑をかけてるんだぞ」

すげえ説教されてて意味不明、そもそも最初に「迷惑かける」と宣言して好き放題やってる人間の言葉とは思えない。

「はあ、じゃあ、マンション買わないほうがいいですかね」

僕がちょっと控えめな態度を取ると彼が調子ぶっこくのも織り込み済みです。

「それでも俺はお得な投資情報を客に伝えるのが仕事だ。だから無礼といって見捨てることはしない」

なぜか切々とものすごい上からの目線、成層圏あたりから目線で語られてますが、やるならここです。連発で切ります。

「いま、ガチャ、マン、ガチャ、ション、ガチャ、買う、ガチャ、あれ、ガチャ、また、ガチャ、切れ、ガチャ、おい、ガチャ、こら、ガチャ、なに、ガチャ、やっ、ガチャ、て、ガチャ、殺、ガチャ、す、ガチャ」

もうブッ壊れたラジオみたいでしてね、表面に傷が付きまくったCDで出来の悪いラッパーが唄う良く分からないラップを来ているような感じでした。あまりの面白さにオフィスの机に突っ伏して一人でプルプル震えて笑いを堪えてた。

僕としてはまだまだ実験したい項目は山ほどあったのですが、ここで彼からの電話はかかってこなくなりました。そう、あれだけしつこく、良く分からない自信に満ち溢れていた彼からの電話はかかってこなくなったのです。

さあ、ここからが本番です。

早速、彼が名乗っていた会社名で検索をかけ、電話番号を調べ上げ、電話をかけ直します。なにせ、彼が言ったように、最初に「迷惑をかける」と宣言さえしておけばどんな迷惑をかけても構わないのです。

電話をかけると年配っぽい男性が出ました。

「申し訳ありません。先ほどマンションの件で電話をいただきまして、その際に話し忘れたことがあって電話したのですが。ご迷惑とは思いますが聞いていただけないでしょうか」

男性は、カモが電話をかけてきたとでも思ったのでしょうね。

「はい、了解しました。担当は誰でしたでしょうか」

と優しい声。

「○○さんです」

最初に名乗られた名前を伝えると、どこか別のところに勧誘電話かけていたのでしょうか、数分待たされたあとに彼が出ました。

「さきほどはどうも」

「またおめーか」

「実はぜひ聞いて欲しいのですが、ある男性が温泉に入っていると自分の右拳に謎の紋章が浮かび上がったのです」

電話の向こうから「はてな?」という雰囲気がムンムンに伝わってきたのですが、それでも続けます。

「それはその村に代々伝わる闇の紋章で、その紋章が浮かび上がった者はサタンとして村を追い出されるのです。主人公も追い出されるのですが、そこで同じく闇の紋章を持つ僧侶に出会います。そして伝説の剣を引き抜きに浮遊都市マハレンまで行かなければならないことを知ります」

ここまで話したくらいでしょうか。何の宣言もなしに電話を叩き切られました。すぐに電話をかけ直すと彼が出ました。

「おいおい、勝手に電話切るとは、親の顔が見たいわ。さあ、続きを話すぜ。しかし、その浮遊都市ハガレンに行くには空を飛ぶ術を習得しなければなりません。その術は失われし民族モブロ族しか知りえないのです。モブロ族は闇の紋章を持つサタン一族に滅ぼされ、僅かな人数が細々と生きているだけでした」

ここまで話すと、彼が結構落ち着いた感じで言い出します。ここまで落ち着いているのは逆にすげえ怒っているということだと思います。

「あのね、業務の邪魔なの、迷惑なの、かけてこないでくれる」

そう言われても仕方がありません。

「最初に迷惑をかけると宣言しましたが。モブロ族はサタン一族を憎んでいる。それでも空を飛ぶ術を手に入れるため、モブロ族の集落を訪ねます。そこで主人公は真実を知ります。あの伝説の剣を抜くことでそのサタンは死に絶え、その死んだサタンが世界を滅ぼす脅威となるのです、皮肉な運命のいたずらだなガチャ」

またかけ直します。

「○○は今席を外しております」

今度は最初の年配の方が出ました。

「そんなはずないんだけどなあ、じゃあ、アナタでいいや、聞いてください。なんと仲間になった僧侶こそがモブロ族の末裔だったのです。そして彼は言いました。まさか俺に闇の紋章が現れるとはな、皮肉なものよ、殺したいほど憎いサタンに、この俺が」

そしたら、すごい意外なことなんですけど、その相手の年配の方がすごい面白って話を聞いてくれましてね、

「ほうほうそれでどうなった?」

とか聞いてくれるもんですから僕もすごい盛り上がっちゃってですね

「おやじいいいいい!崩れゆく浮遊都市、瓦礫に飲み込まれていく主人公の父親は笑って親指立てていた。いつまでもいつまでも、笑っていた」

とラストシーンまで1時間くらい語っていました。

「いやー、結構面白かったよ、まさか親父が黒幕とはね」

「また思いついたら電話します」

「よろしく」

何分かり合ってるんだ。

とにかく、最初に宣言さえしてしまえば免罪符になり得る。それはとても良くない考え方のなのです。あらかじめ言っておいたほうが突然そうなるよりいいでしょ、という考えかもしれませんが、それは言い換えれば、最初からそのつもりであるという自白でしかありません。

ウンコを漏らすと宣言するよりウンコを漏らさないように頑張る。ミスをすると宣言するよりしないように注意する。迷惑をかけると宣言するよりかけないように生きていく、そういったポジティブな思考こそが大切なのです。そう、まるでマンションを売る勧誘電話の人のようにポジティブな思考が大切なのです。

ふうー、やれやれだぜ、と時計を見ると、謝罪文の提出期限の20分前、こりゃあかん、1時間も伝説の剣を引き抜きに行く話を語ってる場合じゃなかった。もうこりゃ仕方がないので、スペースを埋めるため、先ほどの伝説の剣を引き抜きに行く話を光のような速さで記述しておきました。

さすがに謝罪文にこんなブレイブストーリーを書くのはまずいのですが、「謝罪する気持ちのあまり、話が脱線するかもしれないが、それはまあ、謝る気持ちが強いということで大目に見て欲しい」と謝罪文の冒頭で宣言してあるので多分大丈夫だ。

それに、ラストシーン、崩れ行く浮遊都市から地面に舞い降りた主人公を出迎えたのは働き者アンリにしておいた。今度はちゃんと働き者アンリの出番があったぞ。ざまあみろ、だ。