クリームソーダーは替玉で(Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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おもにNumeriでお気に入りのブログ転載します。Numeri知らない人はゼヒ読んでヌメラーになりましょう。
※私が書いてるのではありませんので悪しからず(^^)/

。 ラーメン屋のお姉さんが好きだ。

恋はクリームソーダーのようだと誰かが言った。ソーダのように甘く刺激的で、鮮やかな彩り、小さな泡が現れて消え現れて消え、生まれて消える恋心のよう。上に乗ったアイスクリームに心踊る。恋はクリームソーダ―だ。けれども僕はそうは思わない。

小さな恋の始まりは、まるで化学結合のようだ。男女の繋がりは色々な形態がある。強固な結合もあれば、脆弱な結合もある。まるで偶然の産物のような結合もあれば、そうなるのが必然のように結合するものもある。化学結合はそのまま、男女の繋がりなのだ。

多くの人が勘違いしがちだが、化学反応は決して反応する方向だけに進むのではない。AとBが反応してCができる反応は、Cができる方向だけの反応が進んでいるわけではなく、多くの場合で同時にCがAとBに分かれる反応も起こっている場合がある。C方向に進む反応が多い時、結果的にCができているようにみえるのだ。

男女の関係もまさにそれで、決して男女が結ばれる方向に進むわけではない。いや、むしろ、結ばれる方向の方が少ないだろう。けれども人は恋をするし、つかの間のぬか喜びに浸り、恋に破れ、恋に涙する。それは化合物という化学反応の産物を求めることに他ならない。

この世にある多くの物質は2種類の性質に分けることができる。反応しやすい物質と反応しにくい物質だ。その辺に置いておくだけでガンガン反応し、時には発熱し、発火までする情熱的な物質もあれば、何も反応しない、未来永劫反応しない、生理の上がったお母さんみたいな物質もある。それらもやっぱり恋愛に置き換えることができる。

おそらく、僕は前者だろう。テルミット反応のように燃え上がる僕は、本当に恋に落ちやすい。ほっとけばあちこちで恋をしてやがる。あちこちでガンガン反応、けれどもその反応に失敗し、訳の分からない黒ずんだ何かが生成している、例えるならばそんなイメージだ。

ラーメン屋で恋をした。

ラーメン屋はラーメンを食べる場所だ。決して恋をする場所ではない。ラーメンを注文し、食べてたまにいけるぞ!って時は替玉を注文する。そしてお金を払って帰る場所。それ以上でもそれ以下でもない。けれども、僕の中に存在する恋愛反応ポテンシャルはそれを許さなかった。

相手は厨房の中のお姉さんだ。20代中盤くらいだろうか、化粧っ気のない顔に黒くて長い髪。少し小柄な彼女は厨房の中を元気に走り回り、数多くのオーダーをこなしていた。特に替玉を頼まれた時の「替玉イッチョ!」という掛け声はセクシーで、魅惑的で、琥珀色で、まるで金玉を転がされているような錯覚に陥るほどだった。

僕はこのラーメン屋に通った。ダイエット中のご褒美食として、何でも食べて良いと自分で割り振った食事全てを、このラーメン屋の塩ラーメンに注ぎ込んだ。常連になるほど同じ店に通うのが苦手な僕だが、それでも僕は通い続けた。

ある時、異変に気が付いた。あれは夕立の気配がし、少年時代に感じたプールのような刺激的な塩素みたいな匂いが通りから漂ってくるそんな天気の時だった。自転車を停め、店に入ると、彼女がいなかった。

既に彼女のシフトを完全に掌握していた僕は、彼女がいないことに狼狽した。今時珍しいくらい真面目な彼女はシフトを乱すことなどなかった。その彼女がいないのだ。彼女は辞めてしまったと短絡的な想像を働かせるのは自然な流れだった。

心の中の動揺を抑えつつ、いつもの席に座り、ラーメン屋をやってなかったら絶対に性犯罪に走ってただろうと思われる店主に塩ラーメンをオーダーする。この時、いつもの彼女今日いないけどどうしたの?と軽く聞ける人間ならば苦労しない。これができるのならば、もっと輝かしい人生が待っていたはずだ。

ただただ沈痛に、ラーメンが出来上がるのを待ちながら、なぜ彼女が辞めるに至ったのか思いを馳せた。きっとお金が必要だったのだろう。僕らはどんなに純粋に生きていたってお金の呪縛からは逃れられない。おそらく飲んだくれのお父さんの借金の肩代わりに彼女は…。もっと効率よく稼げる風俗産業に…。目頭が熱くなった。

僕は彼女に何をしてあげられるだろう。お金ならあるだけあげたっていい。なんなら通帳ごとあげたっていい。どうかこのラーメン屋に戻ってきてほしい。切に願った。隣でデブが汗をだらだら垂らしながら替玉を頼んでいた。

その瞬間だった。カウンター席から垣間見える無骨な裏口ドアが開き、颯爽と彼女が出勤してきたのだ。「おくれてごめんなさい」行ってたんですよ。彼女は息を弾ませながら性犯罪者の店主にそう告げる。流れ落ちる汗すらかわいくて、彼女辞めたわけでも風俗に行ったわけでも、暴力を振るう酒乱の父なんていなかったことに安堵した。

厨房の奥に消え、すぐに店のTシャツに着替えて厨房に現れる彼女。やはり華がある。このクソみたいに脂ぎった店が嘘のように華やいだ。僕はこのままこうして彼女を眺めながら塩ラーメンを食べてるだけでいいのかのしれない。そんな考えがよぎった時、事件は起こった。

「どうしたの?遅刻なんて珍しいじゃん!」

呆然と彼女を眺めていたので、誰が発した言葉なのか分からなかったけど、ものすごいイケメンな声で馴れ馴れしい言葉が聞こえてきた。

「ちょっとポンプ買いにいってたんですよ。急に壊れちゃって」

彼女は驚愕するほどカワイイ笑顔で声の主に答えた。恐る恐る彼女の視線の先を見てみると、そこには替玉のデブが、驚愕するほどネットリとした、煮たての替玉みたいな笑顔で微笑んでいた。

「あー、焦るよね、ちゃんと予備を用意しておかないと」

「そうなんですよー、もう焦っちゃって」

物凄く親しげに会話する彼女と替玉デブ。なぜこんなにも親しげなのだろうか。それよりこの会話の内容はなんなんだろうか。彼女が焦って買いに行ったというポンプとは何なんだろうか。色々なことがグルグルと頭の中を駆け巡り、塩ラーメンの味なんて分かったもんじゃなかった。

とにかく心を落ち着け、伸びかかったラーメンをゆっくりと口に運びながら考えを巡らせる。どうも会話の内容を聞いていると、彼女と替玉デブ、熱帯魚か何かを飼育するという共通の趣味を持ってるみたいだった。それならばポンプってのも何となく理解できる。

替玉デブはなんかすげえ男前の顔をしながら魚の話を延々としていた。それは男の僕から見ても、デブな彼を差し引いても、彼が少しハゲていることを差し引いても、なんだかとてもかっこ良かった。何かに夢中で少年のような瞳をしている男ってのは、全てを超越してカッコイイものなのだ。

「今度うちに観においでよ」

「えー、ホントにいいんですか?」

デブはやる気だ。熱帯魚にかこつけて彼女を家におびき寄せ、ネオンテトラみたいな生殖器を見せつける気だ。今はまだ彼女も適当にあしらって社交辞令的に返しているだけだろうが、替玉デブの魅力に負けて、ネオンテトラを入れられるのは時間の問題だ。

僕も何か魚を飼おう。

塩ラーメンの汁を飲みながら決意した。達観した。まずは替玉デブと同じ土俵に立ち、それから魚の話をしつつ彼女と親交を深めていく。そいでもって家に呼び寄せて僕のグッピーみたいな生殖器を見せつける。この作戦で行こうと思った。

いろいろと調べて見た結果、どうやらミドリフグってのが飼いやすく、かわいくて女の子に人気らしく、入門編としてこいつから始めてみることにした。

一万円を握りしめて熱帯屋にいき、入門セットみたいな水槽セットを購入。あまりの重たさに腕がちぎれそうな思いをしながら帰宅、ミドリフグはまだ買わなかった。

色々と調べているうちに分かったことなのだけど、いきなり買ってきた水槽に水をぶちこんで魚を入れても、ほとんどの魚は死んでしまうらしい。水槽の立ち上げという儀式を経てからでないと、飼ってはいけないそうだ。

なんでも、僕らを含めて生きてる個体ってのは、排泄なりなんなり、体に不要なものを体外に排出する。それにはアンモニアが含まれていて、ウンコが臭かったり、おしっこが臭かったりするわけなんだけど、水槽の中の生物はそれが深刻に効いてくるらしいのだ。

そりゃそうで、周りが水の中でウンコやおしっこをするんだから、僕らで言うと、ウンコをした瞬間、部屋中がウンコで満たされるような状態。ちょっと想像するとメルヘンチック愉快なのだけど、やっぱりウンコ臭いのとか何やらで大変なことになりそうだ。

魚の場合は、その排泄物に含まれるアンモニアが大変有害で、あまりに濃度が高くなりすぎると死に至る。通常はそのアンモニアを亜硝酸、硝酸塩と微毒なものに分解してくれるバクテリアが存在し、事なきを得ているが、最初に準備した水槽にはそのバクテリアが存在しない。

結局、そこに魚を入れてもアンモニアが分解されず、すぐに魚が死んでしまうというわけ。つまり、そのバクテリアを十分に繁殖させることが「水槽の立ち上げ」であり、これをしてからでないと魚を入れちゃいけないそうだ。

ということで、買ってきた水槽や周辺機器を設置し、水を入れて魚が全く入ってない状態で動かしてみたのだけど、やはりというかなんというか、空っぽの水槽はどうにもこうにも物寂しい。バクテリアが繁殖するまで何日もこのままとか、眺めてるだけで涙が出てきそうだ。

それよりも、こうやってボケーッと待っている間に、替玉がデブがお姉さんにネオンテトラを挿入してしまうかもしれないじゃないですか。それだけは許せないし、我慢できないし、お姉さんのアンモニアは僕のものだ、と訳の分からない決意を燃やすまでに至ってしまったのです。

で、スピーディーに水槽を立ち上げる方法を調べた結果、至極単純な方法を見つけたのです。普通に待っててもなかなかバクテリアは繁殖してくれないのですが、バクテリアはアンモニアを分解するということは、アンモニアが主食ということ。

つまり意図的に水槽の中にアンモニアを発生させてやれば自ずとバクテリアが繁殖すると言うわけなのです。これだな、そう思いましたね。「普通は立ち上げに何日もかかるんだけど、俺はこんな方法でバクテリアを繁殖させたぜ!」「素敵」ブシャー!アヒャー!これしかないと思いましたね。

意図的にアンモニアを発生させる方法、それはヒメダカなどの丈夫な魚を買ってきて、ある程度生活させてアンモニアを排泄させる方法。これはちょっと時間がかかりそうですし、なにより、そのあとのヒメダカの処理に困りそうです。

次に、刺身の切り身とか、なんでもいいのでナマの物を水槽の中に入れておく方法。次第にその刺身が腐っていってアンモニアが発生するというやり口です。これは楽そうだなって思ったのですが、ただでさえ何も入ってない水槽が寂しくて泣きそうなのに、そのに刺身だけがポツンと沈んでる絵図を想像すると泣きそうになります。

ということで、これらの方法はちょっと採用できそうにないので、そこで考えます。結局、水槽の中にアンモニアを入れればいい。今ここでこれを読んでいて、patoのやつ水槽の中に自分のウンコ入れて溢れて大変なことになるんだぜ!とか思った人は反省してください。

いやいや、どこの世界に買ってきた水槽、ポンプとか動いてる水槽にウンコするバカがいますか。そんなの要介護レベルです。いるなら連れてきて欲しい。そんなキチガイじみた行動をとるはずがない。ありえない。「出会って2.5秒で合体 やまぐちりこ」が全然出会って2.5秒で合体じゃなかったくらいありえない。測ってみたら72秒だったくらいありえない。

とにかく、そんなクレイジーゴナクレイジーな行動はとらず、っていうか、人間のウンコにはそんなにアンモニア含まれてませんから、極めて理知的そして合理的な手法を考えたのです。簡単な話です。アンモニアを買ってくればいいのです。薬品としてアンモニアを買ってくればいい。

アンモニア水なんてのは古くから虫刺されなどの薬として用いられておりまして、普通に薬局などで買えますし、下手するとamazonで買えちゃったり します。

「いやね、僕らマニアは水槽の立ち上げで困るでしょ」

「うん、困っちゃう」

「でも、僕は薬品を使って一発さ!」

「素敵!」

「ネオンテトラ!」

こうなるのは分かりきってます。ならないのなら水槽にウンコしてもいい、それくらいの確信があった。いける、今回はいける、水槽を立ち上げ、魚を買って彼女を誘う。彼女うっとり。ネオンテトラ。ぶしゃー、あひぃー。薬局に向かう道中、顔がにやけて仕方なかった。

まあ、アンモニア水をそんなに買っても仕方ないので、一番小さい100mlのものを購入。ちょっと蓋を開けて臭ってみると、糞尿みたいな物凄い臭いがしました。こりゃバクテリアが繁殖しそうだぜ。

こんなもん振り回して帰ってたら、蓋がポンッととんでアンモニアが女性にかかり、最高裁まで争う羽目になりかねませんから、しっかりとカバンに入れて持ち帰ります。すると、道中に件のラーメン屋が。

まだウチの水槽は立ち上げも終わってなくて未完成、とても彼女を誘える状態にはないのですが、まあちょっと小腹も空いてますし、彼女の顔も見ておきたいじゃないですか。迷うことなく店内に入りましたよ。

店の中は、昼の時間をちょっと過ぎていたので数人の客が間隔をあけてカウンターに座るのみ。もちろん、彼女も元気いっぱいに接客していました。これは僕の勘違いかもしれないですけど、なんかちょっと、僕を見た瞬間、彼女が嬉しそうに笑ったような気がした。

他の客と距離をとりつつ席に座る。空いてるし、ピークタイムじゃないから大丈夫だろうと、カバンを隣の空き座席に置いた。

「塩ラーメン」

いつものように注文する。彼女はいつものように笑顔で答えた。今はまだこの距離感でいい、この素っ気ない感じでいい。水槽さえ立ち上がり、魚を入れたら彼女を誘えばいいのだ。

ガタっ!

丸椅子の上に置かれたカバンがずれ落ちた。まいったまいったと思いながら身を屈めカバンを拾う。何か嫌な予感がした。凄く嫌な予感がした。得体のしれない胸騒ぎがした。

恐怖で見たくもないのだけど、色々な責任があるので見なければいけない、そう思った僕はソーッとカバンを開いた。

アンモニア水、こぼれてた。

さっき開けた時にちゃんと閉まってなかったのか、落とした拍子にこぼれたのか分からないけど、とにかく、カバンの中がアンモニア臭かった。

急いでチャックを閉じる。ブルブル震えながら、カバンの外周をクンクン臭ってみる。大丈夫、外には漏れてきていない。おそらく、もともと低濃度のアンモニア水だったことと、もれたのが少量だったのだろう。カバンの外までは漏れてきていなかった。

しかしながら、濃度が高ければ中毒を引き起こす危険もあるし、なにより臭い。飲食店でこの匂いが充満するのは色々と問題がある。カバンの外に溢れてくる前に何とかしなければならない。

この世に神なんていない。よしんばいたとしても、それは僕とは無関係の神だ。職場の飲み会くらい僕とは無関係のところで展開される神に違いない。とにかくなんとかしなければ。導き出した結論は、帰る、だった。

まだ注文したラーメンもきてないのに、

「すいません、お勘定で」

とか言ってた。腫れ物でも扱うかのようにソーッとカバンを持ち、レジまで行く。

「え?」

彼女は驚いた顔をしていた。そりゃそうだ。やって来て塩ラーメンを注文した客が、すぐに帰るというのだ。自分達の接客に何か失礼があり、怒って帰ろうとしてるんじゃないか、そんな不安な表情が読み取れた。

「いえ、あの、その、違うんです、あの、その」

もう何をしてるのだか分からない。

「あの、粗相とかそういう、まあ、粗相かな、ちがう!とにかく料金は払いますんで」

焦れば焦るほど何を言ってるのか分からない。

急がねばならない。このメロスは、アンモニア臭がカバンから漏れ出すまでに店を出なければならないのだ。

「何か失礼ありましたでしょうか…」

しょんぼりする彼女に心が痛んだ。

「いえ、その!アンモ!いや、その、バクテリアが!」

狼狽する僕。どれくらい狼狽してたかというと、この店、レジのところに銀河鉄道の夜をイメージしたイラストが飾ってるんですけど、それを見て、銀河鉄道の冒頭でジョバンニとカムパネルラがアナルファックしてた!序盤だけに!とかとんでもないこと考え出すくらい狼狽していた。

彼女が悪いんじゃない。全て僕が悪い。そいでもって、もしアンモニア臭が漏れだしたとしても、それは全部僕が悪い。とにかく、匂いが漏れる前に店を出る。でも彼女は悪くない。色々な考えが駆け巡り、しかも、万が一アンモニア臭が漏れ出した時に辻褄が合うようにとんでもないことを半笑いで口走ってました。

「すいません、ウンコ漏れちゃって!帰りますわ!フヒヒヒ!」

この瞬間、思いましたね。ああ、この恋終わったな、と。僕も長いことウンコ漏らしてますけど、漏らしてないのに漏らしたと言わなければならない涙のカミングアウト。正義のヒーローが子供を人質にとられてしまい、なす術がない状態に似ています。

結局、ラーメン代を置いて、逃げるように逃走。しばらく走ったあとにカバンを臭いましたが、まだ漏れてきてなかったので、ラーメン屋は守られた。彼女の笑顔も守られたのだ、と安堵したのでした。

チャックを開けるとアンモニア臭いカバンを片手に二度とあの店にはいけねえな、と涙するのでした。

僕の恋は反応することはなかったけど、僕のしょっぱい涙と、カバンの中のアンモニア、きっと反応してソルベー法によって炭酸ソーダができているに違いない。恋はソーダとはよく言ったものだ。