右頬に激痛を覚えた僕はいよいよ我慢ならなくなり、命からがら歯医者のドアを叩いた。清潔に白で統一されたロビーが広がり、奥からは歯医者特有の薬品の臭いが漂ってくる。人影は見当たらない。
「すいませーん」
口を開くだけで振動が患部に伝わり叫びそうな痛みに襲われる。医院の奥からはバタバタと一人の歯科衛生士が駆けてきた。
「あのー、急に奥歯が痛み出しちゃって」
「あらあら、大変ですねー」
「できれば診て欲しいんですが…」
「すいません、あいにく診察時間は終わってしまいまして…今、私しかいないんですよー」
「そうなんですか、弱ったなあ…」
ピンク色の診察服に身を包んだ歯科衛生士は申し訳なさそうに下を向いた。長い髪を後ろで束ね、厚すぎるでもなく薄すぎるでもない程良い化粧をほどこした彼女。溢れんばかりの清潔感だ。それに大きな目がクリクリとしていて若く見える。何ともカワイイ人だな、そう思った。
「そんなに痛みますかー?」
診察時間外でもう彼女の勤務時間も終わったのだろう。少し気が抜けたのか、まるで友人に話しかけるような軽やかな口調で僕の顔を覗き込んだ。
「ええ、もう痛いやら何やら大変な騒ぎで…」
「でももう、先生も帰ってしまいまして…」
こりゃあ仕方がない、もう我慢できないくらい痛いのだけど諦めて他所の歯医者を探すしかない。そう思った時、目の前の彼女が歯の痛みも忘れるくらい衝撃的な言葉を口にした。
「私でよろしかったらなんとかしますけど…」
「え!?」
彼女の突然の申し出に狼狽する僕。そもそも歯科衛生士じゃあ治療することはできないんじゃ…。困惑しつつ促されるままに診察室へと通された。
「はい、ではこちらの診察台に座ってください」
彼女が指し示す先にはコックピットのようなテクニカルな椅子が圧倒的な存在感で佇んでいた。この椅子、怖いんだよな…。幼い頃から歯医者で死ぬほどの目に遭ってきた僕は正直この椅子にあまり良い思い出はない。けれども、この激痛だけは我慢しがたい、まるで電気椅子に座らされるように覚悟して診察台に座った。
「はい、じゃあちょっと口の中見ますねー」
そう言いながら歯科助手は椅子を倒す。僕はまるでバカの子のように大口を開けていた。
「あー、これは痛いですねー」
子供に話しかけるように優しい口調で口を開く歯科衛生士さん。
「はい、もう痛くて痛くて…」
説明しながら目を開けると、歯科衛生士さんのクリクリした瞳と目が合った。彼女は頬を赤らめる。
「やだ、ごめんなさい、忘れてた!」
彼女は慌てて小さなタオルを三角形にして僕の顔の上に置く。これで目が合わないってようにするんだろう。ただ大口を開けている僕は暗闇に包まれた。
「はい、じゃあちょっとよくみせてくださいねー」
歯科衛生士さんは身を乗り出して奥歯を覗き込んでいるようだった。彼女が動くたびに豊満な乳房が僕の頬の辺りを刺激した。
ゆさゆさゆさゆさ
たわわに実ったその両の乳房の感触は、しばし激痛を忘れさせてくれた。できることならこの乳房を揉みたい、このあカワイイ歯科衛生士さんとあんなことやこんなことをしてみたい。悶々と良からぬ考えが頭の中を支配する。
「はい、じゃあ舌を出してください」
え?歯の治療で舌を出す?ハッキリ言って聞いたことがない。なぜ歯の治療で舌を出さなきゃならないのだろうか。奥歯の方だから治療しにくく、舌を突き出させてから治療するのだろうか。変わった治療法だなあ、と納得できないまま遠慮がちに舌を突き出した。
「もっと出してくださいねー」
もっとですか?と訊ねようと思ったが、大口を開けて舌を出している状態では言葉にならない。言われるがままに精一杯舌を突き出した。
「はい、もっと出してください」
「もっとです。もっと」
舌がつりそうになりながら懸命に突き出す。その瞬間、何か温かくて柔らかいものが僕の舌を包んだ。
「はむっ」
「んぐ!?」
顔にかぶせられたタオルを剥ぎ取り目を開く。目の前には歯科衛生士さんのカワイイ顔が間近にあり、彼女はむしゃぶるように僕の舌に舐めついていた。そのままディープキスが始まる。いつのまにか彼女は上半身裸になっており、そのまま椅子の上で熱く交わった。
「あああああああ!」
ジュルジャプディップピチャピチャ!
いつもは歯を削るドリルの無機質な機械音が鳴り響く診察室に、いつまでもいつまでも、互いの粘膜が淫靡に絡み合う卑猥な音が鳴り響いていた…。これが彼女なりの治療…。
っていうエロビデオをこの間借りましてね、まあ、あまりこういうこと言いたくないんですけど赤裸々に白状してしまうと、物凄く興奮して何度も見てしまった、7泊8日レンタルなのに延滞するほどの体たらく。まあ、久々にスマッシュヒットするエロビデオだったわけなんですよ。
そうなるとね、やっぱ僕も歯科衛生士さんのことが気になるじゃないですか。そりゃ僕だって今年で31歳になる立派な大人ですからね、上記のような話はエロビデオの中だけのお話、現実にはありえない御伽噺だってのはわかってますよ、でもね、そこまではいかなくても、こう、ささやかなる庶民の夢を叶える程度にヴィクトリーが存在すると思ってるんですよ。歯科衛生士さんにおけるヴィクトリー。恋のヴィクトリー。
「よろしくおねがいします」
「はい、じゃあ口を開けてくださいね」(まあ!素敵な殿方!)
「はい」
「あー、けっこう虫歯ですねー痛かったら右手を上げてください」
ツンツンと痛い場所を突いてくる歯科衛生士さん。しかし僕は激痛に悶えながらも頑なに右手を挙げない。
「痛かったら遠慮なくあげてくださいね」(あーん、素敵な殿方が耐え忍んでる姿ってセクシーだわ、濡れちゃう!)
さらに患部を突く歯科衛生士さん。しかし、僕は弱いところを見せるべきではないと思ってるので絶対に右手を上げない。
「ホントに痛かったら上げてくださいね!ホントに!」
それでも僕は右手を挙げない。頑なに上げない。
「痛かったら上げてください!」
あまりに上げない僕に腹が立ったのか、彼女はムキになりはじめた。
「もう!痛くなくても上げてみてください!」
なんだそりゃ、と心の中で思いつつも、少し意地悪したくなった僕は右手を上げなかった。
「意地悪!あげてよ!」
あまりの彼女の反応が可愛く、僕は大口を開けたままクスクスと笑った。
「もう、じゃあ…」
彼女は少しためらい、まるで何かを決意したかのように言った。
「じゃあ…私のこと好きなら右手を上げてください」
顔を真っ赤にする彼女。僕はユックリと右手を上げた。
「バカ…もう!バカ!」
「いつまで右手を上げておけばいいのかな?」
「あ、ごめん、下ろしていいですよ。それと、口も閉じてください」
「口を?もう診察しないの?」
「うん、だってそのままじゃキスできないでしょ、それともそのままがお望みかしら?」
「芳江…」
清潔に磨かれた真っ白な床に落ちる2つの影が重なる。二人の心が虫歯のように欠けてしまわないように、彼女を幸せにすると堅く決意するのだった。
もうね、これくらいのことを望んだってバチは当たらないよ。こっから盛り上がって、診察台の上でジュルジャプディップピチャピチャ!唾液吸うヤツでクリトリス吸ったりとか大騒ぎ!エスカレートしてドリルとか入れちゃう!とか、それくらい庶民のささやかな夢として胸に抱きしめてもいいと思うんですよね。
でまあ、最近の僕はもっぱら歯科衛生士さんをモノにすることしか考えてないわけで、いち早くあの唾液を吸うヤツでクリトリスを吸いたい!と思ってるわけなんですが、ここでね一つの大きな問題点が巻き起こってくるわけなんですよ。普通に考えて歯科衛生士さんと知り合う可能性が皆無という大いなる大問題が。
これは由々しき問題ですよ。歯科衛生士さんと知り合ってクリトリス吸いたいのに知り合う機会がない。お父さんが蒸発してしまって、お母さんの細腕だけで立派に育てられていた細川君が、七夕のお願いで「お父さんのチンゲを見たいです」とか願ってた時くらい不可能な話ですよ。
でまあ、歯科衛生士さんと知り合うなら直球勝負で歯医者に行けばいいじゃんって思うんですけど、そんなもん、歯が痛くもないのに歯医者に行くなんてバカの子じゃないですか。骨も折れてないのに折れましたーとか病院行ったら別の鉄格子つきの病院に入れられます。
世の中には、歯が痛くもないのに歯医者に行って歯石除去とかやる人がいると風の噂で伝え聞いたのですけど、そういうのはセレブがやること、僕のような、給料明細を見るたびに支給額に0を付け足して一人で満足しているような人間には縁のないお話なんですよ。
とにかく、合法的に歯科衛生士さんと知り合うには虫歯になるしかない。苦しいけどそれしか道は残されてないんですよね。でまあ、なんとか熱烈に虫歯にならないかと、普段は食べない甘いものを食べたりして日々の生活を営んでおったわけなんです。
しかしながら、虫歯ってホントうざったいんですけど、望んでる時に痛まなくて望んでない時に熱烈に痛むんですよね。僕、昔、好きだった女の子と初デートの時に熱烈に虫歯が痛み、もう痛くて痛くてデートどころの騒ぎじゃない。その時は水族館に行ったんですけど、もう、ラッコとか見てても楽しめませんでしたからね。ジンベイザメとか見てるだけでムカついてきますからね。で、そのうち酒を飲んで酔っ払えば痛みが麻痺するに違いない、さすれば虫歯を気にせずおセックスまで持ち込めるに違いない、と確信して真昼間からビールがぶ飲みですよ。
あのね、あんたが女性だとしようじゃないですか。で、初デート、相手はブサイクだけどしつこいからデートするじゃないですか。で、その相手が真昼間からビールがぶのみですよ。それも嗜む程度じゃなくて、明らかにヘベレケ。そのうち吐いてくるとか言ってトイレに行って1時間くらい帰ってこないんですよ。そりゃ百年の恋も覚めるわ。夕方4時の段階で潰れるとか終わってる。
とにかく、虫歯ってのはホントに空気読めないヤツですから、とにかくタイミングが悪い。痛んで欲しい時に全然痛んでくれない。で、なんとか努力したんですけど全然痛む様子がないある日、事件は起こったのでした。
その日は、市内の中心地にあるゲームセンターでとある麻雀ゲームに没頭していたのですけど、非常に調子が悪く、ガッツリと負けがこんでいました。最近ではゲームセンターといえども世知辛いものでして、そこには圧倒的勝者と敗者しか存在しません。勝者は人々から勝算を得、敗者はお金を失い消え去るのみ、小泉内閣が進めた圧倒的格差社会がゲームセンターにも存在するのです。
もう負けまくってしまった僕は気分悪いので帰ろうかと思いましてね、その前に小便して帰ろう、腹いせにゲームセンターのトイレを徹底的に汚してやる!などと見当違いに意気込んでトイレに向かったんです。
いやいや、ゲームセンターってとにかく頭がおかしい人多いんですよね。ぶっちゃけるとキチガイしかいない。この間なんてサッカーのゲームを野球のユニフォーム着てやってる人がいましたからね。ツッコミどころが多すぎて何をどうしたらいいか困り果ててしまう場面に多々遭遇するんですよ。
で、トイレ汚してやる!とか意気込んでますから全然紳士的じゃないんですけど「ジェントルマン」とか書かれた男子トイレのドアをくぐります。ここのトイレは少し変わった構造になっていて、入ると正面が洗面台、そこからL字型になった構造で、左に2回曲がらないと小便器に到達しないんですよね。
で、左に1回曲がる、すると少し柱の影に隠れた形で小便器コーナーが見えるんですけど、なにやらそこに先客がいる。だれかが熱烈に小便をしてるんですよね。いやいや、別に先客ぐらいいても何てことないんですけど、とにかくその先客が凄かった。何が凄いかって、何か知らないけど小便しながら両手を高々と上げてるんですよ。
ズボンを半分くらい下ろして下半身丸々小便器に飲み込まれてるんじゃないかって勢いで密着させましてね、で、両手を高々と上げてるんですよ。まるでアラーの神々でも呼び出さん勢いで高々と両の手を上げておるんです。ジュディオングかって勢いで。頭狂ってるとしか思えない。
いやいや、いくらなんでもおかしいんですけど、さすがにその事実だけを切り取って彼のことをキチガイと断罪するのはいかがなものか。もしかしたら彼の脳内では大いなる宇宙の意思を受信していて、その大宇宙からの指令で「頭が痛かったら両手を挙げてください」と歯医者のノリで言われてるのかもしれない。うん、もしそうだとしてもキチガイには変わりない。
とにかく、頭がおかしい人とはあまり関わりたくないんですけど、ここで引き返すのも変なので歩を進めて小便器へと向かいます。するとまあ、狭いトイレでしたからね、間が悪いことに小便器が二個しかないんですよ。どう好意的に解釈しても、あの頭のおかしいアラーの横で小便するしか選択肢がないんですよ。
おそるおそる彼の隣りに陣取りましてね、横目で彼を観察しつつ小便を致します。さっきから小刻みに震えていて恐怖なんですけど、とにかくビクビクしながら用を足す。すると、小便もクライマックスかという最中に彼が動いたんです。
突き上げていた両の手で拳をギュッと握り、まるで大宇宙に何かを伝えるかのように言葉を発したのです。何言ってるか良く分からなかったんですけど、「ニフラム」っぽいこと言ってた。で、一通り儀式が終わると、「どーよ?」と得意気な顔でこちらをチラリと見るんです。やべームチャクチャ意識されてるよ。ムチャクチャこっち意識してやがるよ。
とにかく、脱兎の如く逃げたいのですが、あいにく小便がクライマックスなのでそういうわけにもいきません。しかし、このまま彼と視線を合わせたままでいるのも危険極まりない。危険が危ない。視線を合わせてるうちに彼に取り込まれてしまい、僕も大宇宙の意思を受信してアラーの神を呼び起こそうとしてるかもしれない。
これは視線を逸らすしかない!
それも、相手が傷つかないようにそれとなく視線を逸らすのではなく、絶対的にノゥという意思表示を明確にするする必要がある。どんなキチガイにも僕が拒絶してることが分かるよう、首ごと反対を向いて視線を逸らすしかない。今だ、彼とは反対を向いて拒絶の意思表示をするんだ。
グキッ!
いやね、反対を向いて拒絶したのはいいんですけど、あまりに激しく首を回したからでしょうか、思いっきりの首の筋を痛めちゃいましてね、小便しながら首を押さえてぐおおおおとか身悶えてました。
そこにイケメン風というかホスト風の、二言目にはドンペリとしか言わないような男が登場ですよ。彼も小便小便といった感じでせわしなく入ってきたのですが、そこで目に飛び込んでくるのはアラーを呼び出そうとしているキチガイと首を両手で押さえて身悶えてるキチガイですよ。さぞかし怖かったと思います。怖すぎて小便ちびちゃったんじゃないだろうか。
とにかく、大宇宙の意思を受信することなくトイレからは脱出できたのですが、首の筋がジンジン痛みましてね、あー首痛いとか思いながら商店街を歩いていたんです。そしたらアンタ、首に合わせて右側の奥歯がジンジン痛むじゃないですか。
これ幸い!
不思議なんですけど、首の筋と歯って密接な関係があるらしく、首を痛めると歯が痛む、歯が痛むと首が痛む、という持ちつ持たれつの間柄なんですよね。で、キチガイのせいで首を痛めた、そいでもって歯も痛むようになったという理想的な展開が巻き起こったのです。キチガイもなかなか役に立つじゃないか。
さて、これで歯が痛くなるという第一段階は突破。次はカワイイ歯科衛生士さんがいる歯医者を探さねばなりません。しかしまあ、これはさしたる問題ではありません。最近ではインターネットが隆盛を極め、庶民レベルで情報の交換が行われています。おまえに、「良い医者は自分で選ぶ」といった意識が固定されたためか、色々な医院の情報を交換するサイトがかなり活発に活動しています。
早速、歯医者の情報について意見交換がなされている掲示板にアクセスし、地方ごとに検索してどの歯医者が良いのか調べます。
「○○歯科は丁寧な治療で痛みもありませんでした」
「治療前に充分に治療方針を説明してくれるため安心して治療を受けられました」
「夜遅くまで診察してるので社会人も安心」
「歯医者さんって怖いイメージあるけど、○○歯科は優しい先生でした」
よくよく読んでみるんですけど、みんな頭おかしい。治療がどうだとか、治療方針がどうだとか、そういうことばっかり話してるんですよ。歯科衛生士さんがカワイイとか、歯科衛生士さんが巨乳とか、そういったマル特情報が皆無なんですよ。頭おかしい。みんな何を求めて歯医者に行ってるのか、皆目理解できません。
とにかく、情報がないなら自分で得ないといけないので、早速掲示板で質問しましたよ。
「投稿者:pato お邪魔します。かわいい歯科衛生士さんがいる歯医者ってどこですかね?できるなら巨乳であると嬉しいです」
「治療方針が…」「保険適用の治療が…」「なるべく痛みのない…」そんな真面目な話が盛り上がってる中でこの質問ですからね、場違いというか何と言うか、最初に「お邪魔します」とことわってますけど本当にお邪魔ですからね。
いやーホント、インターネットって怖いですね。この僕の真摯な質問に対して「場違いだ消えろ」「死ね」「虫歯が脳にとどいて死ね」と罵詈雑言の雨あられ、本当にインターネット怖い、まんじゅう怖い、パソコンの前でちょっと泣いてしまいました。
しかしながら、どんな地獄でも救いがあるもの、どんなに暴力が支配するマッドシティでも弱者に救いの手を差し伸べる牧師はいるもの、大炎上を展開する僕を助ける書き込みがあったのです。
「そんなに叩くなよ。教えてやるよ、○○歯科にいってみな。歯科衛生士がみんなモデル級だ」
もうね、優しすぎて神かと思った。彼が望むなら僕はアラーの神を呼び出してもいい、そう思った。とにかく感謝感激雨あられ。早速掲示板にお礼を書いて、もう飛び出さんばかりの勢いで指定された歯医者へと向かいました。
いやー、ほんっっっっっっとインターネットって怖いですね。神の情報を元にモデル級の歯科衛生士との濡れ場を妄想しながら、主にこの日記の冒頭みたいなことを夢想して行ったんですけど、見事に騙された。完膚なきまでに騙された。
いやね、見事にブスばっかりですからね。僕もまあ、人のこととやかく言えるような容姿ではないですけど、それを差っ引いても言わずにはいられない、そんなジュラシックパークみたいな状態になってるんですよ。おやおや、夜は墓場で運動会ですかな?と言わずにはいられない。思いっきり騙された。
あまりに落胆しながら失意のまま診察台に座ったんですけど、僕についた歯科衛生士さんがジャガー横田を女にしたみたいな感じの方でさらに落胆。
「どうされましたー?」
とか言われたんですけど
「歯科衛生士がみんなブスで」
とはさすがに言えず、
「いや、ちょっと奥歯が痛くて」
「あらら、じゃあちょっと見てみますねー」
とか診てくれたんですよ。そうすると人間ってのは不思議なもんですね、かの有名な心理学者であるフロイトによると、口の中を見せるという行為は性行為に等しいものらしいです。本当にそうなんだろうかと思うんですけど、なんか口の中を熱心に見られてるうちにムラムラしてくるというか、ジャガー横田であってもものにしたいというか、そういう邪悪な考えが浮かんでくるんですよ。下手したら少し勃起してたかもしれないってくらいに興奮してきたんです。
ジャガー横田が手とか突っ込んでくるんですけど、不慮の事故を装ってベロリと手を舐めてやろうかと思うくらいに興奮しましてね、こりゃもう、当初の予定通り彼女を落とすしかない、熱烈に歯科衛生士プレイをしたいと切望するまでになってました。
そこからは超色男ですよ。自分の中で考えられる最高の男前スマイルでですね、患部をツンツンとかされると殺してやろうかってくらいに痛いんですけど、そんな弱々しいところは見せずにグッと我慢。
レントゲンを撮ったんですけど、奥歯すぎて上手に撮影できなかったらしく、レントゲン室から一旦診察台に戻ったにも関わらず
「申し訳ありません、上手に撮影できなくて…」
というジャガー横田の申し出にもスーパー男前スマイルで
「いえいえ、難しいですもんね、レントゲン」
と僕が女なら抱かれてもいい!っていう優しさですよ。レントゲンの難しさなんてわかんないけど、そうやって彼女の心に猛烈アピールですよ。
撮りなおしのレントゲンなんて、なんかレントゲンの前で両手を上げてアラーを呼び出すみたいな格好をさせられたけど、そこでも男前スマイル。レントゲンにも写るんじゃねえのってレベルの男前スマイル。
それから、本番の治療になるんですけど、医師が手一杯でなかなか僕の所に来てくれなくてですね、ジャガーが申し訳なさそうに
「すいません、もう少しお待ちください」
とか言うんですけど、
「明日まででも待ちますよ」
と男前。
待ってる間、ジャガーは何か僕の横で作業しててんですけど、僕を気遣って雑談を振ってくれたんですよね。趣味の話になって、「趣味は何ですか」みたいな質問を投げかけられましたね、まさか「ゲハハ!インターネットです!」「グハハ!ゲーセンで麻雀ゲームです!」と答えるわけにもいかず「うーん、ピアノかな」とかなんとも中途半端な嘘ついてました。
「じゃあ待ってる間、歯垢除去しましょうか?」
と彼女が椅子を倒して口の中に手を突っ込んでくるので、キスとかされたらどうしよう!とすごく興奮してました。
治療も終わり、帰る段になって、次回の診察予約とか取るんですけど、こりゃあ完全にジャガーは俺に惚れたなと思いましてね、今回は普通に次回の予約を取っただけですけど、もう数回通えば、
「次回の予約ですけど、いつが空いてますか?あと…デートの予約ですけど、わたし、土曜の夜ならあいてます」
と彼女は頬を赤らめた。って状態なると確信したんですよ。
なんだか妙に嬉しくなっちゃいましてね、俺は勝った!勝ったに違いない!歯科衛生士をモノにしてやったぞ!と勝利を確信。冒頭のような歯科衛生士プレイを夢見つつ、嬉しさのあまり両手を挙げてアラーの神を呼び出さん勢いで凱旋!と歩いていたら、思いっきりズボンのチャックが開いてました。
いやー、診察台で寝転がった時とか思いっきり勃起してましたからね、たぶんちょっとはみ出してたに違いないよ。そりゃ、社会の窓が全開だったら百年の恋も覚めるわ、ホント、アラーは使えねえ神だな、それよりなにより、次回行くの恥ずかしい、と失意のままトボトボと帰る僕は、圧倒的に敗者でした。