最狂親父列伝~キチガイに花束を~(Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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※私が書いてるのではありませんので悪しからず(^^)/

ひどくご機嫌な日だってある。

人一倍感情の起伏が乏しく、不機嫌なことも上機嫌なこともあまりない僕なのだけど、それでもやはり上機嫌なことはある。なんだか無意味にハッピーで、無意味にココロオドル、そんな感情に身を任せることはそんなに悪いことじゃない。

近所のディスカウントショップに洗剤を買いに行った時のこと。僕はいつも特売品を買おうとして間違えて通常品を買ってしまうので、チラシを手に「アタック」「アタック」と連呼しながら店へと赴いた。特売品と通常品では68円も違うというのだから、大いなる死活問題だ。

ふと、店の軒先をみると、これまた「特売」と銘打って大きな鉢植えに入った一輪の花が飾ってあった。ずらりと並んだ赤い花たちは一種異様で、それだけで物言わぬスピリチュアルメッセージを感じるほどに僕の心を揺さぶった。

しばしボーっとその花たちを眺め、まだ「アタック」「アタック」などと呟いていると、かなり危ない人に見えたのかもしれない、何かがテンパってる人に見えたのかもしれない、そのせいか懇意にしている店員が何かをフォローするかのように話しかけてきた。

「あれね、特売品なんですよ。どうです?いつも贔屓にしてもらってるし、もうちょっと安くしておきますよ」

彼は「米を2合だけ売ってくれ」などという、まるでかぐや姫のような僕の無理難題にいつも付き合わされている店員で、満面の笑みでそう告げた。

特売品よりさらに安いご贔屓価格、この魅惑の響きに「アタック」などどこかに吹き飛んでしまった僕。洗濯物なぞシャンプーで洗えばいいわ!ガハハハ!と無意味に強気になってしまい、「じゃあ、あれください」と鉢植えに突き刺さった花を購入してしまった。花なんて煮ても焼いても食えないのに、とにかく買ってしまった。

たちの悪いアメリカンジョークみたいにどデカイビニール袋に入れられた鉢植えを持ち、家までの坂道を登りながら、その重さに少し後悔したのだけど、僕の心は晴れやかで幸せ、なんともご機嫌だった。

「この花は親父に贈ろう」

僕の親父は再婚で、実の母の死後、よく知らない別の女性と結婚した。僕的には新しいお母さんが出来て、そこで確執なんかがあったりなんかして「あなたのことはお母さんとは呼べない」「そんな、正夫ちゃん・・・」「うぜーんだよ!母親面しやがって!」「おい、正夫、お母さんになんて口をきくんだ」「うるせー、親父も親父だよ!もう・・・母さんのこと・・・わすれちまったのかよ・・・」「正夫・・・」「いいんです・・・私が悪いんです。私が。でもね、正夫ちゃん、お母さんね、諦めない。きっといつかお母さんって呼ばれるように頑張る」「うるせえんだよ!」とかだったら面白かったのでしょうけど、僕も普通に20歳超えてましたしね、別に確執も何もなくて、普通に知らない人がお母さんになって、よく分からないロリ系の妹ができてしまったという日常茶飯事な出来事だったのでした。ってか誰だよ、正夫って。

そんな、親父の再婚に対してつかず離れずという微妙な位置関係を築いてきた僕、言うなれば電車内で歴史的に泥酔した女性がいて、絡まれたら面倒だけどそのうちパンツとか見えるかもしれない、近づきもせず離れもせずにいようって感じの距離感だったのですが、微妙に分かりにくいですね、ごめんなさい。

とにかく、あまり触れてこなかった親父の再婚に対して、何かしたかった。いい加減、何かアクションを起こしたかった。そういえばもう少しで結婚記念日というか再婚記念日じゃないか。よし、ここは一発、記念日に花でも贈ってやろうじゃないか。そう思って購入したのだった。

なんというか、贈り物を買っただけでこんなにも幸せな気分になれるものなか。世にはびこる様々な贈り物習慣なんてクソでウンコでゲスな商売戦略に他ならないと思っていたのだけど、やってみると悪い気はしない。きっと「贈る」って行為は贈った相手が喜ぶからやるんじゃない、贈った自分が嬉しいからみんなやるんだ。

とにかく、親父の再婚記念日に花を、それもかなりゴージャスな花を贈るステータスな自分にいたく満足し、僕はルンルン気分で家路へと着いた。スキップも、鼻歌も、異様にむかつくその笑顔も今日なら許せる。

ルンルン気分で坂道を登り、猫の糞が散乱するゴミ捨て場の横を通り過ぎてアパートの階段を登る。鉢植えが少し重くて大変だけどなんとか登りきるとそこには郵便受けが並んでいて、颯爽と自分の部屋番号の郵便受けを開ける。本当に何の気もなしに、そうするのが当たり前のように、ガゴッと郵便受けを開いた。

そこには、愕然とする郵便物が紛れ込んでいた。もう、落胆し、膝がガクガクと崩れ落ちるほどの不幸の郵便物が紛れ込んでいた。

確かに、灰色の封筒に包まれた「電気止めるぞ!」という電力会社からの脅迫状も怖かった。ガス代を払えって言う手紙も、家賃がどうたらっていうノイズも、全てが怖かった。けれども、それ以上に不幸を呼び寄せる魔がその郵便受けには存在していた。

それが、NTTからの電報と一目で分かる青い封筒だった。

いつもそうだ。いつだってそうだ。アイツは僕が幸せの絶頂にいる時、それを嘲笑うかのように不幸の奈落に突き落としやがる。こうして親父の再婚記念日に花を贈ろうとルンルン気分の僕を突き落とす不幸の電報、中身を見るまでもなく、その差出人もまた親父だった。

ウチの親父は、まるでハンダ付けをし忘れた手作りラジオのように頭が狂っているので、その嫌がらせがいちいち鬱陶しい。電話に出た瞬間に自作の三文ドラマみたいなファンタジーストーリーを2時間くらい聞かせてきたりするので、そういう場合は思いっきり無視している。忙しいのにエルフの谷にフルートを取りに行く話とか聞いてられない。

電話や何かを無視していると、今度は電報攻撃が始まってしまい、「チョウシドウ チチ」とか「チチキトクスグカエレ チチ」だとか、許されるのならば撲殺も辞さないといった電報が舞い込むようになる。

僕はこの電報を受け取るたびにひどくブルーになるし、親殺しってどれくらいの懲役食らうかなとか、魔の乗り換えトリックを使って空白の1時間でアリバイを、などと良からぬことを考えてしまう。その電報が今僕の目の前に存在するのだ。

いつだって、ウチのキチガイ親父は僕の幸せってのを分かっていて、その幸せの絶頂にある時に、絶妙のタイミングで嫌がらせをしてくれる。貴様の再婚記念日を祝ってやろうと幸せ気分夢気分だったのに、その幸せすら一通の電報で潰してくれるとは。いつだってそうなんだ。親父はいつだって、僕の幸せを潰しにきやがるんだ。

そう、あの時もこんな風に幸せな時だった。中学生だった僕は、ちょっと好いてるクラスの女の子にモーションをかけ、たしかウチの猫が子猫を生んだ、うそ、すごい、みたい!みたいな流れでその子が我が家にやってくることになった。

中学生時代の青き少年にとって、自分の家に女の子、それも好いている子が来るってのは爺さんが死ぬより大きな事件で、とても大興奮だった。もう嬉しくて嬉しくて、この喜びを森の動物達にも伝えたい、そんな気分だった。

しかしながら、この魔の家に女の子を召還するにはいささか問題がある。まず、死ぬほど汚いという問題をクリアしなければならなかった。なぜだか知らないけど、当時ウチのクソ親父はカブトムシの飼育に熱中しており、その失敗作というか、死んでしまったカブトムシの死骸が玄関先に無数に転がっていた。玄関にあるのは黒光りするカブトムシの死骸か、黒光りする革靴か、そんな意味不明な状態だった。

あのですね、落ち着いて考えてみてください。うら若き女の子、それも多分、乳首はピンクですよ。そんな子が男の家に遊びに行ってですね、それがどうあれヤリマンでもない限り少しは緊張すると思うんですよ。

で、ドキドキしながら玄関のドアを、「おじゃましまーす」とか開けたら地獄ですよ、地獄、カブトムシ地獄。裏返ったカブトムシが死屍累々と積み重なってる。これはもう、引くとかそういうレベルのお話じゃなくて、トラウマですよ、トラウマ。

おまけに僕の部屋まで行くには、酒瓶が転がっていたり、飾ってある天狗のお面に母さんのパンティエがかぶせてあったりするスラムを通り抜けねばなりません。こんなところを好きな子を引き連れて通るくらいなら自害する道を選びます。

なんとか部屋に到達したとことで、僕の部屋にはカンフー映画とボクシングで興奮した親父があけた大穴が壁にポッカリとクレーターみたいに存在します。その穴からは隣の弟の部屋が見えてますからね。あと拾ってきたエロ本とかカオスな状態になってます。とてもじゃないが受け入れ態勢ができているとは言い難い。

とにかく、問題が山積していますが、これらを光の速さで片付けていきます。カブトムシの死骸を片付けて、酒瓶も片付ける。ついでにその存在意義が1ミリも見出せない天狗のお面とパンティエも捨てて、泣く泣くエロ本も捨てます。壁に開いた大穴はジャンボ鶴田のポスターで覆い隠し、なんとか受け入れ態勢を整えます。

そんなこんなで、なんとか環境面だけは最低限の体裁を整えたのですが、最も問題なのがウチの親父というたった一つの存在です。

彼はもう、僕が急に掃除やらなにやら始めたものですから、興味津々といった様子で僕の後ろを歩いてやがるんですよ。ハッキリ言ってウチの親父はキチガイですから、そこに初物の女の子なんて来ようものなら何されるか分かったものじゃありません。オッパイ丸出しでスラム街を歩くようなものです。女の子が来る、親父がいる、大暴れ、この状況だけはなんとか避けなければならないのです。

「そうだ、花を飾ろう!」

考えに考えました。どうやったら親父を制することができるのか。これはもう、下手に隠し立てしてバレたら大騒動ですので、正直に「女の子が遊びに来るから掃除していた」ということをカミングアウト。親父の理解を得る作戦にでます。

そして、掃除はしたものの、ウチには華やかさがない。あるものといったらテレビの上にある、母の日に弟が作ったチンポコみたいな造花だけです。これではいささか寂しいじゃないか、なあ親父、と同意を得るのです。

もう花を買いに行くしかない、このままではウチが味気ない魔窟だと笑われてしまう、花を飾るしか!けれどももう時間がない、彼女が来てしまう、ああ、間に合わない!親父が車でひとっ走り買いに行ってくれれば!と持ちかけるのです。

案の定、親父は何かに発奮したらしく、「我が家に潤いを!そして花を!精一杯の真心を!」とか訳の分からないことをのたまいながら花屋へと出かけていきました。こうなればこっちのもんです。

その間に彼女がやってきて、厳かに部屋へと案内。あとは鍵閉めちまってお楽しみ、もしかしたらエロいことくらいあるかもしれません。そんな期待を胸に、彼女の到来を今や遅し、というか早くしないと親父が帰ってくるから急いでくれと懇願する想いで待っていると

「こんにちはー」

と、絶対乳首ピンクだよ、と言わざるを得ない可憐な声で彼女がやってくるじゃないですか。急いで玄関に行くと、もう、眩しすぎて目が潰れると言わんばかりにカワイイ彼女が、ちょっと短めのスカートで立ってました。掃除し損ねたカブトムシのツノが転がってましたが、見なかったことにして鬼のような素早さで彼女を招き入れます。

半分ボケた爺さんが廊下に出てきたりとか、弟がパンツ姿で歩いていたので後で殺すことを決意したりとか、そういうのをスルーしてなんとか自分の部屋に招き入れ、ガチャリと堅牢な鍵を閉めます。

「よし、これで大丈夫」

ついに最大の難所である親父をスルーして彼女を部屋に招き入れることに成功。ついでに性交まであったりなんかしてムフフと幸せの絶頂にいました。

かねてから準備して部屋に待機させてあった子猫たちをカワイイーとかイチャイチャしつつ、お決まりの小学校の卒業文集を見るコース、あとはプロレスの話などを熱く語ったりなんかした気がします。もうまさに幸せの絶頂で、そろそろオッパイでも揉んだろうかと思い始めたその瞬間、悪魔が破滅の足音をたててやってきたのです。

「おーい、花買って来たぞ」

ドンドンと部屋のドアを叩く無骨な悪魔の声。よく考えたら買いに行かせたのでやってくることは分かりきっていたのですが、この幸せを手放したくない僕は無視を決め込みました。

「お父さん?なにか呼んでるよ」

「聞こえない」

とまあ、明らかに不自然に無視を決め込んでました。ドアを開けようものなら全てが終わる。

しかし、親父も引き下がらない、普通の親父なら何か理由があるんだろうと引き下がってくれても良さそうなのに、全くそんな気配なし。ガンガンとドアを叩きながら

「花を買ってきたんだ!開けるように言ってくれ!」

「一緒に子猫とか見よう!」

「ずるい!彼女ばっかり部屋に入れて!ワシも入れろ!贔屓だ贔屓だ!」

と、さすがキチガイ、と唸るしかないことをのたまってました。彼女もあまりの異様さに気がついたらしく、というか気付かない方がおかしいのですが

「ねえ、開けたら?なんか必死で怖いよ」

とか、ヤツの恐ろしさをしらないからそんなこと言えるんだっていうノンキなこと言ってやがりました。

「聞こえない、何も聞こえないよ」

と、僕も頑なに、それこそ出生の秘密を聞かされショックを受けたときの主人公みたいに否定してました。

「女ばっかり入れやがって!贔屓だ!」

と、小学生みたいなことを言ってる親父に、頑なに耳を閉ざす僕、あまりの怒号に子猫もビビッてます。

やっとこさドアの向こうが静かになり、諦めてくれたみたいだと安堵。彼女も「すごいお父さんだね」と少々引きつった感じで言ったその時、予想だにしなかった展開が。

バリバリバリ

部屋の壁に開いた穴にジャンボ鶴田のポスターを貼って誤魔化していたのですが、そのジャンボ鶴田を突き破って親父が突入してくるじゃないですか。浅間山荘かって勢いでムリムリと穴を通って突入。なんか、ベガの必殺技みたいになってた。

「きゃー」

あまりの展開に悲鳴を上げた彼女。しかも穴付近にいたもんですから、親父のヤツ、彼女に覆いかぶさるようになっちゃいましてね。そいでもって

「ほい、花」

と手に持ってるのは綺麗な菊の花ですよ。葬式か。

もうこの瞬間思いましたね。「ああ、この恋終わったな」と。

まあ、結局、部屋に居座った親父が、子猫のチンコで彼女にセクハラしたりと完全に終わった展開になり、おまけに鶴田のポスターは破られるわ、ご丁寧に隠していたエロ本まで携えてきて朗読するわで大変な騒ぎ。見事に終わった展開になったのでした。そう、幸せの絶頂にいた僕は、完全に奈落へと突き落とされたのでした。

郵便受けに舞い込んだ親父からの電報を眺め、そんな記憶が蘇った僕。まるで昨日のことのように「贔屓だ!贔屓だ!」とドアの前で叫ぶあの地獄の光景が思い出されます。

そして、今まさに幸せの絶頂にある僕が、この電報によって奈落に突き落とされるだろう。いつだって親父からの電報を見るとブルーな気分になる。買ってきた鉢を置き、僕はそっと電報に手を伸ばしました。

でもね、よくよく考えるとそうでもないんですよ。いつもは、パチンコに買ったから幸せ、とか買ったエロ本が当たりで幸せとかそういったものが親父の電報によってブルーな気分になるんですが、今日は何が原因で幸せだったのか思い出してみると・・・そう、親父の再婚記念日を祝おうとして幸せだったのです。

だったらね大丈夫ですよ。親父のことを思って幸せな気分になっている僕が、親父の電報を見て不幸せになるはずがない。彼を祝おうとしている僕だから、きっとどんな電報でも大丈夫、笑って許せるはず。そして、笑顔で祝えるはずさ、大丈夫、大丈夫!きっと大丈夫!と言い聞かせて電報を開けると

「リコンシタ チチ」

ええーーー!再婚記念日を祝おうとした矢先に離婚だってーー!ありえねー!

たちの悪いジョークかとも思ったのですが、弟に電話して聞いてみるとどうやらマブだったらしく、しばし唖然としました。

やってくれるぜ親父。やはりどんな幸せでもヤツは確実に壊しに来る。再婚記念日を祝おうと幸せ気分になっていたら離婚か。やるじゃねえか。

とりあえず、行き場も存在価値もなくなってしまったこの花は、僕がいつも贔屓にしている竹富食堂のオバちゃんにあげて、唐揚げ定食をタダで食べたのでした。

花は煮ても焼いても食えない。でも、誰が言ったか知らないけど、花という漢字は「ヒイキ」というカタカナで構成されている。きっと何の役にも立たないけど贔屓されるべき存在が花であるのだろうけど、僕にとって花とは、何も役に立たなくて「贔屓だ!贔屓だ!」とドアの前で連呼する親父の姿でしかなくなったのだ。

幸せはいつかきっと壊れる。それはいつか枯れる散り行く花のように儚いのだ。シャンプーで洗濯したTシャツから花のような香りがした。

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