「アルト君。……大丈夫?」
空港から大統領官邸に車で向かう途中、心配してランカが覗き込んでくる。無理もない。グレートネストで倒れこんでから、顔色が優れていないのは自覚症状がある。
原因は頭痛。地球にいった頃からの慢性的な頭痛がひどくなってきている。
「この報告が終わったら、カナリアさんのところに行ってくるさ。だから心配すんなって」
そう精一杯の笑顔を見せてランカの頭をなでる。
うん、と呟く彼女の声は暗い。無理もない。気絶までしたんだから。
言い訳なのは重々承知しているので、カナリア産にメールだけ入れておく。
大統領鑑定ではワイルダー暫定大統領がまっていた。
「戻ってきたな、早乙女少佐にミス・ランカ。早速だが、報告を聞かせてもらおう」
そう告げるワイルダー艦長……もとい、暫定大統領。
あの戦役の後、一番人生を変えられたのは、この人かもしれない。人々の熱狂的な支持の元大統領に推挙されるが本人は軍人だからとかたくなに固辞。しかし、その論拠を崩壊させたのはSMSは軍事組織ではないという建前だった。
しかたなく大統領の椅子を引き受けた艦長は前にもまして民衆からの熱い支持を受けている。
報告より先に気になることがあって、聞いてしまった。
「少佐……ですか?」
「そうだ。二時間ほど前から君はSMSの少佐に昇進している。新しい階級章などはオズマ大佐に預けてあるので、そちらから受け取ってくれ。……で、報告は?」
そう告げるも目は厳しい。その厳しさに襟を正しながら、報告を開始する。
バジュラクイーンの代替わりは無事に終了したということ。
クイーンも会話能力を得たこと。
他にもバジュラに関して、自らの目で見て感じたことを報告した。
ランカはランカで今までのフォールド通信を利用した会話の部分について報告している。
その報告にうなづくとワイルダー暫定大統領は重々しく告げた。
「君たちにも既に報告が届いていると思うが、地表にいる人間と交流するバジュラ。彼らの表現でいえば最親体というものだが……その一部個体の脱皮とともに会話能力を得たことは知っているな? それについて議会と私とでもめていてね。……これは公開すべきことなのか、公開するべきことではないのかと」
だから、降りてくるなといっていたのか。
その内心の呟きを知っているのか知らないのか、ワイルダー暫定大統領は続ける。
「私は、徐々に公開すべきだと思っている。彼らも新しい同胞だ。彼らと急に交わるというのはたしかに難しい。だが、それでも交流をするためのチャンネルを閉ざすべきではない。今ミス・ランカが、そしてブレラ補佐官がしてくれているように。だが、議会の連中は恐怖が先立ってしまってね。民衆が受け入れるはずがないと頑なに信じているのだよ」
そういって俺たちを見る。
「私の考えと議会の考え、どちらが正しくて、どちらが正しくないということはない。ただ、私は我々がバジュラに対して出来ること以上に、バジュラは我々にしてくれているのではないかと思うのだよ」
それに報いることが出来ることは何かな、と言葉を結ぶ。
「それともう一つ。これはまだこの段階では極秘事項だが、新統合軍のギャラクシー掃討作戦に関する協力要請が来ている。私としては乗り気ではないのだが、さすがに妥協せざるをえん。現段階では軍は星系内のことで手一杯なのでSMSを向かわせることになるだろう。詳細はブレラ補佐官に預けてある。隣室に彼が待機しているから聞いてくれ。私からは以上だ。何か質問は?」
こう問われて質問を出せないようでは仕官ではない。当然のように質問をぶつける。
「あります。バジュラの会話能力については国家機密ということでいいのか。ギャラクシー掃討作戦についてはSMSは軍属扱いなのかと兵力についてです」
質問に対して笑みを浮かべて、暫定大統領は応える。
「一つ目の質問については情報公開の関係者には極秘事項だとしておこう。二つ目の質問についての答えはブレラ補佐官が持っている。これでいいかな?」
敬礼で応え、隣室へと移動する。もちろんランカも一緒に。
隣室ではブレラがまっていた。
「単刀直入に言おう。現段階でマクロス級7隻うち5隻が地球支部から。残りはエデンから。それ以外にはグァンタナモ級宇宙空母8隻、ウラガ級護衛宇宙空母2隻、ノーザンプトン級ステルスフリゲート20隻が今のところ編成だ」
「明らかに多すぎるな」
「民間人を乗せたテロリストを想定してのものだろう。人質を取られた状態で作戦行動が可能なように大戦力を用意しているものと推定される、が。確かに多すぎるな」
そして言葉をつなげる。
「他にも可能性としての問題だが、この艦隊は他にも目的を持っている可能性がある。実際補給もままならない方面軍クラスの兵装。短期間で終わらせるにしても、各方面に負担がかかりすぎている。なんらかの政治的事情が絡んでいるのは間違いないだろう」
「政治的事情?」
「たとえば、ギャラクシーの捕獲だ。それならば、この規模で全ての戦力を磨耗させた上での捕獲は可能だろう」
「なるほど、艦長……暫定大統領はなんて?」
「ここでは言えん」
といってデータを投げつけてくる。内容を見て絶句する。
可能性の一つとしてギャラクシーは地球政府と取引をしていると。
目的はフロンティア政府が得たフォールドクォーツの独占的取引を地球側にも得ること。そのためにグレイス・オーコナーが所持するプロトコルを地球政府や他のマクロス船団も必要としているということ。
「……結局人の敵はどこまで言っても人、ということか」
「だろうな。俺のかつてした仕事も半分は人間だった。半分ですんで幸運だということだろうな」
ブレラは無表情のまま告げる。
他にも内容は多岐に渡り、隣のランカはその政治レベルの話に混乱して固まっていたが。
正直それどころじゃなかった。
と、いうことはシェリルは、そんな中に一人でいるのか?
今すぐにでも飛んでいきたいという気持ちが強くなる。
それを見透かしたのかブレラが声を掛けてくる。
「早乙女アルト。SMSが今回派遣されることになったが、他にも選別された志願兵と私もついていく。お前も人の命を預かる身になっているんだ、軽率な真似はするなよ」
息を呑む。行きたくてもいけない思いに歯噛みをする。そうしている間にランカが提案してくる。
「ブレラお兄ちゃん。……志願兵も出るということは、私も参加していいよね」
俺とブレラは驚きのあまり声も出ない。先にブレラがしゃべりだす。
「なっ、ランカ。仕事中はお兄ちゃんではなく補佐官と呼べと……ではなくて! 本気か?」
「うん。本気。多分きっと、利用されているバジュラもいるんでしょ? あい君が言っていた。引き継いだネットワークと予定されているネットワークの間に誤差があるって。それなら、歌で、みんなの目を覚まさないと」
そう告げるランカの目にはいつの日か見たときと同じ瞳の色をしていた。
ブレラはため息をつくと、仕方なさそうにしゃべり始めた。
「ランカ。その提案をしてきたときの回答は決まっている。しかるべき戦力としてミス・ランカを採用すると。いいのか、もしかすると好きなようには歌えないかもしれないんだぞ?」
そう告げるブレラの顔は妹を心配する兄のようで、ブレラという男のもう一つの顔が見えるような気がした。
「うん。でも……アルト君がいてくれるし。それに、シェリルさんも助けないとね。助ける役目は王子様役のアルト君に譲るとしても、その手伝いぐらいはしたいから」
言えば言うほど力が入ってくるのか、どんどんとテンションがあがっていくランカ。
言いたいことは分かるけど、飛躍しすぎだよ。それに……。
それに、の先の言葉は続けたくない。が、王子役の資格を俺がなくしていることは事実。
はしゃぐランカを見ていると、不意にブレラがこちらを見ているのに気が付いた。視線を向けると、ブレラが突然、前置きもなしに、こういうことを言った。
「そういえば、お前とシェリルが別れたという噂がニュースになっていたが真実か? シェリルは新しい相手を見つけて、お前がふられたという形でタブロイドに書かれていたが」
「……っ!!」
「即座に反応できないところと、脈拍と体温の急激な上昇から……本当と推定できる。よかったな、ランカ」
ブレラは優しい微笑をランカに向ける。だが、ランカは固まっていた。そして、ゆっくりと、すごく、ぎこちない笑みをこちらに向けてくる。
多分……昨日の発言を思い出したんだろう。
「あ、いや、ははっ。え~っとアルト君。そのね、お兄ちゃんがごめんなさい」
思いっきり謝られた。何も言えずに固まっていると、ワイルダー暫定大統領が入室してきた。
部屋の中に流れる妙な雰囲気を察したのか、ブレラに向かって語りかける。
「ブレラ補佐官。説明の方はもう終わったのかね? それなら君がSMSに合流するついでに二人を送って欲しいのだが」
「はい、暫定大統領。すでに話は終わっています。では、二人を送った後はSMSでの待機に?」
「そうだ。ブレラ君。オズマ君にもよろしくな」
「わかりました。よろしく伝えておきます」
敬礼するブレラを見ながら、こいつは本当によろしく、とだけ伝えるんだろうな、と思った。
空気読めよ……。
病院に行くのはもう少し後になりそうだな。とりあえずシェリルを救い出さないと。
それとブレラのいってた新しい男というのも調べないとな。
やることはいっぱいあり、色々と大変そうだ。
空を飛ぶのも自由じゃないな。わかっていたとはいえ。
歌舞伎をしていた頃と変わらない、因縁を感じ始めていた。