1972年に公開された『ポセイドン・アドベンチャー』(The Poseidon Adventure)は、豪華客船ポセイドン号で繰り広げられる壮絶な脱出劇を描いたパニック映画の金字塔です。


本作はポール・ギャリコの小説を原作とし、ロナルド・ニーム監督、アーウィン・アレン製作によるもの。


主演はジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナイン、ジャック・アルバートソン、シェリー・ウィンタースら、当時の名優が集結したオールスターキャストとなっています。


物語の舞台となるのは、年越しパーティーに賑わう豪華客船ポセイドン号。


ニューヨークからアテネへ向かう最後の航海の途中、大晦日に船は突然の津波に襲われ、完全に転覆してしまいます。


天地が逆になった船内に閉じ込められた乗客と乗組員たちは絶望的な状況の中、スコット牧師(ジーン・ハックマン)を中心に生き延びるための脱出を試みます。


彼らは「安全な場所は船の底=水面に近い場所だ」と判断し、危険を恐れてその場に残ろうとする人々と袂を分け、わずかな生存者とともに転覆した船の最上部を目指します。


脱出の過程で次々と難題がふりかかり、救いも絶望もないサバイバルが展開されるのです。


本作は第45回アカデミー賞で歌曲賞・特別賞(視覚効果)を受賞、全世界で1億2,500万ドル以上の舞台興行収入を記録し、1970年代のパニック映画ブームの先駆けとなりました。



感想

『ポセイドン・アドベンチャー』を改めて観ると、冒頭から大事故までの流れが絶妙にスリリングで、何度も手に汗握ってしまいますね。


老朽化した豪華客船が大西洋上で突然ひっくり返る…という非現実的な状況を、あえてリアルに描ききったところが映画の魅力のひとつだと思います。


まず、パーティーの賑やかなシーンが一転して地獄絵図になる、その静と動のギャップ。


華やかな客船の中で、乗客が思い思いに新年を祝っていた数分後。突如として天地が逆になり、室内は瓦礫と死体に埋め尽くされる――このショックの演出は、今観ても“パニック映画”の王道を感じさせます。


生存者たちもただパニックに陥ったままではありません。中心となるのはスコット牧師のリーダーシップ。彼の「神に祈るな、自分で行動せよ」という型破りで、強烈なキャラクターが、脱出行のドラマを牽引していきます。


一方で、その強引な判断がグループ内の対立を生み、誰が先導となるべきか、どんな道を歩むべきか、濃密な人間関係も本作の見どころです。


登場人物たちの個性も非常に豊かです。ローゼン夫人は年齢も体格もグループ内では異質ですが、潜水能力を発揮してグループを助け、しかし悲劇的な運命を辿る。


若い娘スーザンが牧師に密かに恋心を寄せたり、保安官の妻リンダは夫を思い、決死の覚悟で参加する。どんな状況でも互いに助け合い、裏切りも起こる。ひとりひとりが極限のドラマの中、個性とバックグラウンドをきちんと見せてくれるのはやはり脚本の巧さなんだと思います。


特に印象に残るのは、脱落者が決して派手に死ぬのではなく、あっけなく現実的に命を落としてしまうこと。


その描写にはファンタジー感が薄く、逆に痛みのリアリティを感じさせられます。


ミセス・ローゼンの死は、観る側に深い喪失感をもたらし、物語全体の重厚さに一役買っています。


映像面でも、この時代の特殊効果や巨大セットを駆使した“逆さまの世界”の作り込みは見事。


船内のどこから水が来るのか、どこまでが安全なのか、観客まで自然と脱出ルートを考えてしまう没入感。


パニック映画としての緊張感と、サバイバルドラマとしての深み。1970年代の作品とは思えないほど、現代映画と並んで見ても十分スリリングで、時代を感じさせない傑作です。


テーマとしては「極限状況で人間はいかに生き延びようとするのか」「団結と裏切り」「自分を犠牲にして誰かを救う勇気」など、普遍的な人間ドラマに満ちています。


パニック映画なので派手なアクションシーンが目立ちますが、目を凝らすと登場人物の心理描写や心の揺れがじっくり描かれているのが素晴らしく、本当に何度観ても味わい深いです。 


そして、観終わってからも心に残るのは「誰が生き残るか」だけでなく「どうやって生き残るのか」「どんな決断をしたのか」という部分。


極限下で人間としての強さ、お互いを思いやる気持ち、あらゆる葛藤が詰まっていて、観る人それぞれが“自分だったらどうするだろう”と考えさせられずにはいられません。


個人的には、スリル満点だけど心まで消耗するような濃度のドラマに引き込まれ、ラストの光が見えたときにはクセになるほどの解放感さえ覚えました。やっぱり半世紀以上経っても、名作は色褪せないと感じさせてくれる映画です。


2025年8月現在

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