映画『アンタッチャブル』は、1930年代のアメリカを舞台に、巨悪アル・カポネ率いるギャングに立ち向かう特別捜査官エリオット・ネスと仲間たち「アンタッチャブル」の活躍を描いたクライムドラマです。
『アンタッチャブル』(原題:The Untouchables)は、1987年製作のアメリカ映画です。
監督はブライアン・デ・パルマ、脚本はデヴィッド・マメット。主演はケビン・コスナー(エリオット・ネス役)、ロバート・デ・ニーロ(アル・カポネ役)、ショーン・コネリー(ジム・マローン役)、アンディ・ガルシア(ジョージ・ストーン役)など。
1920年代末から30年代の禁酒法時代、シカゴではアル・カポネが違法酒ビジネスで莫大な富と権力を握り、警察や司法をも買収して町を牛耳っていました。
政府はこの状況を重く見て、財務省から新米捜査官エリオット・ネスをシカゴに派遣します。ネスは誠実で正義感が強いものの、最初の摘発は情報漏洩で失敗に終わり、失意の中でたくましいベテラン警官ジム・マローンと出会います。
マローンの助けを得て、警察学校出身のジョージ・ストーン、会計捜査官オスカー・ウォレスを加えた“アンタッチャブル”チームが誕生します。
度重なる危機、仲間の死、そしてカポネ一味の暴力や買収、さらには家族への脅迫など、過酷な状況の中でネスたちは正義を貫こうとし、ついにカポネの犯罪を帳簿の証拠によって追い詰めます。
本作は、第60回アカデミー賞でショーン・コネリーが助演男優賞を受賞するなど、高い評価を受けています。
感想
『アンタッチャブル』は、映画として非常に完成度が高い作品です。まず、物語が一貫して正義と悪の対決というシンプルなテーマに貫かれており、その中で各キャラクターの個性が存分に描き出されています。
特に主人公のネスが何度も苦悩や挫折を味わいながらも、信念と仲間との絆を胸に立ち上がる姿は誰もが心を打たれるところです。
映画の冒頭、ネスは非常に理想主義的ですが、現実はそれを容易く砕くものばかりです。かといって、絶望の中に沈むことなく、彼はマローンという人生経験豊富な警官と出会ったことで、一歩ずつ大人になっていきます。
マローンの「警官の仕事は無事に帰宅すること」というセリフは、映画全体のリアリズムを象徴していて印象的です。
マローン自身もまた、決して完璧な人物ではありませんが、最後まで正義を貫く姿には深い哀愁と尊敬を覚えます。
ケビン・コスナーはネスという人物の誠実さや情熱、時に弱さまで丁寧に表現しており、観る者に共感を呼びます。
まっすぐな正義感だけでなく、家族への愛やリーダーとしての重圧、仲間への配慮など、さまざまな面をバランスよく伝えていて、ハリウッドスターとしての地位を固めたのも納得できます。
そして何といっても、ショーン・コネリーの存在感は圧倒的です。ベテラン警官マローンとして、飄々としながらも深い洞察力と思いやりを持った人物像を演じきっています。
クールな台詞や、さりげない立ち居振る舞いだけでも、観客の目を釘付けにします。アカデミー賞受賞は伊達ではなく、名優としての凄みを見せつけています。
また、アル・カポネを演じたロバート・デ・ニーロも見逃せません。得体の知れない狂気とカリスマ性、時に恐ろしい暴力性が見事に描かれていて、善悪二元論だけでは割り切れない魅力を放っています。彼が画面に登場するだけで空気が一変し、ネスたちの苦労が伝わってきます。
音楽も素晴らしいです。エンニオ・モリコーネのテーマ曲は、緊張感と壮大さを両立させていて、作品に唯一無二の雰囲気を与えています。イントロから心をつかまれ、アクションシーンやクライマックスの盛り上がりは鳥肌ものです。
映像も、デ・パルマ監督らしい独特のカメラワークや構図、美しい照明効果が随所に見られます。特に有名な駅での銃撃戦シーンは、サイレント映画『戦艦ポチョムキン』のオマージュと言われており、緊張感とダイナミズム、そして映像美が掛け合わさった圧巻のシーンです。
ストーリーはテンポよく進みますが、その裏で描かれる「友情」や「チームワーク」、「正義を守るために何を犠牲にするのか」といった深いテーマがしっかりと観客に残ります。
決して勧善懲悪だけでは終わらず、現実の厳しさや、すべてが報われるわけではない人生の辛さも織り込まれています。
実話を基にした作品ということもあって、ヒーローの孤独や決断の重み、時に訪れるやるせなさもダイレクトに伝わってきます。
現代社会でも通じる公平性の難しさ、誰かが勇気を持って立ち上がることの尊さ、正義と悪の境界のあいまいさなど、様々な思いを呼び起こしてくれる映画でした。
最後に、この映画は単なるアクションやサスペンスを超えて、一つのチームが生まれ、試練に立ち向かい、別れと悲しみを経験しながらも前に進もうとする人間ドラマです。30年以上経った今でも、色あせることのない魅力を持っている名作だと強く感じました。