『ショーン・オブ・ザ・デッド』は2004年にイギリスで制作された、エドガー・ライト監督によるホラーコメディ映画です。


主人公のショーンはロンドンの家電量販店で働きながら、日々無気力で煮え切らない生活を送っており、恋人のリズには愛想を尽かされてしまいます。そんな彼の日常が、一夜にしてゾンビパニックで覆されます。


この映画は、ショーンが親友のエド、母親のバーバラ、そしてリズとその友人たちを守るために奔走する姿を、ブラックユーモアたっぷりに描いています。


ショーンは、いつもの行きつけのパブ「ウィンチェスター」へ皆を避難させようと決意します。しかし、人間関係のもつれや失敗が重なり、仲間たちは次々と危険な目に遭い、激しいサバイバルに巻き込まれていくのです。


映画の冒頭からショーンの日常が細かく描写され、ゾンビ化する伏線が織り込まれています。家電店の同僚やパブの常連、テレビのニュースなどがさりげなく登場し、それぞれが物語の中盤以降にゾンビとして再登場することで、日常と非日常がうまくリンクしています。


キャストはサイモン・ペッグがショーンを演じ、エド役のニック・フロスト、リズ役のケイト・アシュフィールドなど、個性的ながらどこか親しみやすいキャラクターが並びます。


監督のエドガー・ライトは、ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ作品群へのオマージュと敬意を込めて制作しており、随所にゾンビ映画へのリスペクトが散りばめられています。


最終的にショーンは、仲間のため、母への苦渋の決断、親友エドとの別れなど数々の試練を乗り越え、成長していく姿を見せます。


映画は、ゾンビと人間が共存するようになった社会を描き、ブラックユーモアと人間ドラマが見事に融合した作品となっています。



感想

ショーン・オブ・ザ・デッド、最初に観た時の印象は「何このダメ男とニートコンビが主人公のゾンビ映画?しかも本当にコメディなの?」という半信半疑から始まりました。


でも、物語が進むにつれて、ショーンの普通すぎる日常と、急にゾンビ騒動に巻き込まれるギャップが妙にリアルで、じわじわ引き込まれていきました。


「人間って、こういう時はどう動くんだろう?」なんて真面目に考えさせられる部分もあって、ただのギャグじゃ終わらないのがこの映画の面白いところです。

特に良かったのは、ゾンビ映画によくある「ヒステリックな緊張感」よりも、主人公とその仲間たちの間に流れるゆるいノリ。


それが逆にパニックの現実味を出してる気がしたんです。パブに立てこもるという作戦、最初は「何やってんの?」って突っ込みたくなるけど、冷静に考えたら「自分だったらどこに逃げる?」と自然と脳内シミュレーションを始めてしまう。


危機感と間抜けさのバランスが絶妙で、観ているこっちもリアルに同調してしまうんですよ。


それと、ショーンの成長を描く作りもすごく丁寧。最初は恋人に逃げられて、職場でも微妙な立場に甘んじている彼が、このゾンビ騒動を通じてちょっとずつリーダーらしい顔になってくる。


エドとの友情も良かった。幼馴染的なコンビなんだけど、危機的状況でお互いに頼り合いながら、最後はエドが犠牲になる場面なんて、コミカルだった映画が一気に切なさを増してくる。こういうドラマ部分も、本作の魅力だと思っています。


あと、ゾンビ映画ファンなら思わず「ニヤッ」とする小ネタやオマージュが随所に散りばめられているのも嬉しいポイント。ロメロ作品への敬意が随所に感じられるし、BGMや映像の構図もどこか懐かしい。ゾンビに「フリをして近づく」シーンなんて、バカバカしくも伏線としてぴったりハマるし、苦笑しながらも「この状況、意外とアリかも?」と妙に納得してしまう。


イギリス映画らしいユーモアも魅力的でした。ユーモアと皮肉、ちょっとブラックな笑いが融合していて、ゾンビ作品なのに全然怖すぎない。


むしろ、人生のやる気が出ない時に観ると元気もらえるかも。「大切な人を守る」とか「新しい一歩を踏み出す」なんてテーマが、ちゃんとダメ男にも届いている感じがして、観終わった後は変に励まされた気分になりました。


ゾンビパニックものが苦手な人も、不思議と肩の力を抜いて楽しめる、そんなホラーコメディの傑作です。ラストの「ゾンビと共存する世界」の描写にも、笑いながらもちょっと考えさせられる。


社会の大混乱だってどこか日常につながっている気がするし、人間関係や自分の成長についてふと考えるきっかけになる。色々笑って、最後はなんか前向きになれる、そんな不思議な魅力のある作品でした。

ホラー好きもコメディ好きも、ぜひ一度体験してほしい一作です。