映画「プラットフォーム」は、スペイン発のSFスリラーで、食物分配をテーマにした、多層階構造の監獄が舞台となっています。


監督はガルデル・ガステル=ウルティア。この映画は世界的な格差社会をメタファーとして描いており、舞台となる“穴”には上下333層が存在し、各階層で2人が共同生活を強いられます。中央の穴から、上層から下層へ豪華な食事が順々に送られる仕組みで、上層階の住人が好きなだけ食べ散らかした後、その残り物が下層階に降りていきます。


スペイン映画「プラットフォーム(原題:El Hoyo)」は、極限状況下に置かれた人間の行動原理と、社会の根深い構造的問題—とりわけ格差問題—を、監獄という閉じた空間で描写します。システムは1ヶ月ごとに階層がランダムに入れ替えられるため、住人は時に上層で好き放題を経験し、次の月には遥か下層で飢えと暴力に晒されることになります。


誰もが自分の“持ち物”を一つだけ監獄に持ち込むことが許され、主人公ゴレンは「ドン・キホーテ」の本、老人トリマガシはサムライプラスという包丁を持っています。


ここで描かれるのは、“他人を犠牲にしてまで自分だけ満たされたい”という人間の業、そしてシステム(社会)が人々をどう分断し、煽るかという現代への鋭い問いかけです。



感想

プラットフォーム、正直なところ予告編で見たときから「え?食事がテーマで階層式?どういう話?」って疑問しか浮かばなかったんですが、実際に本編を見ると想像より随分グロくて、なおかつ“考えさせられる”タイプの映画でした。


あれは一応サスペンスに分類されるんだと思いますけど、最初の方は完全にデスゲームものの趣き。


それでいて、テレビや漫画でありがちな分かりやすい解決やカタルシスが用意されてるわけじゃないから、観ていてひたすら「うわ~、救いがないな…」ってなるタイプ。


主人公のゴレンが目覚めるシーンからすでに“監獄感”全開。自ら志願して穴に入った理由も知りたかったし、到底自分からやりたくない状況なのに「本」を持ち込むセンスに妙な親近感…(自分なら何を持ち込むだろう?って思わず考えちゃいます)。


一方で同室のトリマガシは、これまたサバイバル爺さんで、彼のバックグラウンドもじっくり描かれるわけじゃないからこそ、何を思って包丁を選んだのか、ただ「生き残るため」なのか…ってとこに物語の哲学がある気がするんですよね。


この作品の一番面白いのは、やっぱり毎月階層シャッフルされるっていうルール。これがあることで、「今の自分は恵まれているのか、それともどん底なのか?」という状況がコロッとひっくり返るわけです。


その度に人の態度が変わる。これって普段の生活でもある気がしますよね。仕事で昇進した途端に周囲がすごく優しくなったり、転職して一気に傍観者になったり…。あの穴で起きることって、結局は“自分さえ良ければいい”と“他人はどうでもいい”の繰り返し。極限状態とはいえ、人間がいかに状況によって態度を変えるか、ものすごく分かりやすく描かれてる。しかもそれが食べ物の取り合いで具現化されるって、ちょっとブラックな笑いも含んでる気がして、妙にリアルでした。


登場人物の中だとミハルの存在も気になります。どの階層にも現れては、謎の行動で目立つ女性。


彼女は子供を探しているそうですが、その行動がどうしても“システムへの抗議”に見える瞬間もあったりして…。食事台に乗って降りていく姿は、実は何か象徴的な意味があるんじゃないか?とか、解釈の幅が広がる演出がちりばめられてる。


全体を通して思うのは、「なぜこうも人間は分かり合えないのか」と「本当に社会は変わらないのか」って部分。誰かが革命を起こそうとしても、あの仕組み自体が変わるわけじゃない。


現実社会でも、何か運動を起こしても根本までは変わらないことが多い。結局、上層の人間は自分の食事を減らしてまで下層に譲らないし、下層に転げ落ちれば恨みしか残らない。


ラストで一応“メッセージ”を伝えようとする主人公たちの行動も、どこまで意味があったのか分からないまま物語が終わる。この「宙ぶらりん感」が、プラットフォームの“余韻”として強烈に記憶に残るんですよね。


ちなみに、映像面もかなり特徴的でした。冷たいコンクリートの質感、くたびれた囚人たち、そして色彩がすごく抑えられてるので、食べ物だけがやたら豪華に輝いて見える。それもまた「最初は豪華でも下に行くほど残飯」というテーマを強調してて、設定と画作りが一体になってる感じ。


ただ、どうしても気になった点としては、暴力描写がかなり多いこと。なのでグロ耐性がない人には絶対おすすめできないタイプ。逆に、社会の縮図とか人間ドラマを考察したいタイプには元ネタ探しも含めてとても刺さる内容でした。


見終わった後に「実際の社会でもこういうことあるな」と、ちょっと寂しい気持ちになるかも。でもそういう映画が好きな人には一度観てみて、と言いたくなります。


それにしても「プラットフォーム」というタイトル、システムそのものを表してるわけですが、意味不明さと現実の分かりにくさがうまく重なっていて、シンプルなのに深い。何度でも観返せる、不思議な中毒性のある作品でした。