映画『トレマーズ』(原題:Tremors)は、1990年に公開されたアメリカのモンスター・パニック映画です。


監督はロン・アンダーウッド、脚本はS・S・ウィルソンとブレント・マドック。主演はケヴィン・ベーコン、フレッド・ウォードが務めています。


一見B級の怪獣映画のようでありながら、軽妙なユーモアとテンポの良さで、今なお根強い人気を持つ一作です。


シリーズ化やテレビドラマ化もされ、90年代モンスター映画の代表格ともいえる存在になっています。


物語の舞台は、ネバダ州の辺境の小さな町「パーフェクション」。人口わずか14人という砂漠の集落で、便利屋まがいの仕事をして暮らすバル(ケヴィン・ベーコン)とアール(フレッド・ウォード)のコンビが主人公です。刺激もなく退屈な日々に嫌気がさし、町を出ようとした矢先、奇妙な事件が起こります。


地中から人々が次々に襲われ、正体不明の「何か」に引きずり込まれてしまうのです。ほどなくして、地面の下に潜む巨大な生物、通称「グラボイド」が姿を現します。


この生物は、地中を高速で移動し、地表の振動を感知して獲物に襲いかかるという恐るべき特徴を持っています。銃も爆薬も効きにくく、逃げ場のない砂漠地帯で人々は一丸となって戦うしかありません。


頭脳派の地震学者ロンダ(フィン・カーター)を加え、バルとアールは知恵とユーモアでこの脅威に立ち向かいます。


『トレマーズ』の魅力は、単なるモンスター映画にとどまらず、登場人物の人間味とコメディセンスが絶妙に融合しているところです。


命の危機という緊迫した状況下でも、登場人物たちの会話ややり取りには笑いがあります。特にバルとアールの掛け合いはテンポが良く、まるで西部劇の流れ者のような軽快さ。愚痴を言い合いながらも、いざという時には命を賭して助け合う関係が心地よく描かれています。


また、サバイバルの中で少しずつ見えてくる彼らの成長や絆も、この作品を単なるパニックアクション以上のものにしています。


モンスターの造形も一見コミカルながらインパクトが強烈です。CGではなく、当時の撮影技術を駆使したアニマトロニクス(機械仕掛けの模型)で作られており、動きや質感の“本物感”があります。


グラボイドの姿が完全に現れるまでは地中の動きや振動音で恐怖を煽る演出が続き、ホラー的な緊張感をうまく保っています。B級映画の枠にありながら、作り手の真面目な遊び心が伝わってくる点も見どころです。



感想

この作品は「小さな共同体が未知の脅威に立ち向かう」物語の典型でもあり、のどかな町の人々が一致団結して危機を乗り越える姿は、見ていて不思議と応援したくなります。


火器マニアの夫婦やおしゃべり好きの住人など、キャラが立っているので、グラボイドとの攻防が進むにつれて愛着が増していくのも楽しいところです。


観ていて感じるのは、無理に怖がらせようとしていないところの上手さですね。


グロテスクな表現を控えつつ、想像力で「見えない恐怖」を感じさせる演出が中心。ホラーというよりはアクション・アドベンチャーに近くて、気軽に楽しめるスリルがあります。


バルやアールたちが知恵で勝負する展開も爽快で、「人間って意外としぶといな」と思わせてくれます。怖がりな人でもどこか安心して見られる絶妙なバランスです。 


全体のテンポが本当に良くて、何回見ても飽きません。90分弱でスパッと決着する潔さも心地いいです。


登場人物のセリフがいちいち軽妙で、緊張感と笑いが交互にくる、そのリズムがクセになります。特にケヴィン・ベーコンの若々しさと小気味よい演技が光っていて、彼の中でも印象的な“若手時代の代表作”と言っていいでしょう。


スリルと笑いが同居したあの空気感は、当時のハリウッド娯楽映画ならではの雰囲気を強く感じます。

そして何より、この映画の「恐怖のスケール」がちょうどいいんです。


世界が滅びるとか都市全体が壊滅するような大ごとではなく、たった数人の田舎町で巻き起こるローカルな戦い。だからこそ、観客が身近に感じられるし、登場人物に感情移入できるのだと思います。 


CG全盛の現代作品と比べると派手さはないけれど、その分リアルで、素朴な面白さがある。


最後のシーンまで「どうせモンスター映画でしょ?」と思って見ていた人も、きっとどこかでキャラクターたちを好きになってしまうはずです。恐怖よりも冒険心と仲間意識が残る、そんな後味の良い作品です。