『ゾンビ』(原題:Dawn of the Dead)は、1978年にジョージ・A・ロメロ監督によって制作されたホラー映画です。
本作は死者が原因不明のまま蘇生し、生者に襲いかかる「ゾンビ」という存在を本格的に描き、後のホラー映画やサブカルチャーに大きな影響を与えた金字塔ともいえる作品です。
日本では1979年に公開され、一躍ホラー映画ファンの間で語り継がれる作品となりました。
物語は突如として死者が蘇り、生きている人々を襲い始めるパンデミック状態から始まります。
都市が混乱する中、テレビ局員のフランと恋人でヘリコプターパイロットのスティーブンは、友人でSWAT隊員のロジャーとピーターと合流し、ヘリコプターでフィラデルフィアから脱出。
彼らは郊外の巨大ショッピングモールにたどり着き、ゾンビだらけのモールで物資を確保しながら安全地帯を確保しようとします。
しかしモールを襲うゾンビだけでなく、物資を狙う暴走族が乱入、その混乱の中で4人は生き抜くため闘うこととなります。
映画はゾンビとの戦いのみならず、人間同士の摩擦や葛藤、社会風刺にも重きを置き、ただのパニックホラーに終わらない奥深さがあります。
本作は複数バージョンが存在し、オリジナル版のほかにイタリアの巨匠ダリオ・アルジェントが編集した版、日本オリジナル編集版などさまざまなバリエーションが存在。
特殊メイクを担当したトム・サヴィーニによるグロテスクで印象的な描写も見どころのひとつです。
感想
『ゾンビ』は単なるスプラッターやエグいだけの映画じゃなく、社会的なメッセージや人間ドラマも色濃い名作だと感じます。
舞台がショッピングモールというのも絶妙で、ゾンビたちが生前の記憶のままモールに集まってくる様子自体が資本主義や消費社会への風刺になっていて、ただ怖いだけじゃなく、どこか滑稽さや哀愁すら漂っています。
ゾンビといえばもう今や映画やゲームで当たり前の存在ですが、その原点をここまでわかりやすく、且つ刺激的に描いたパワーには驚かされます。
実際、残虐表現や特殊メイクも相当インパクトが強く、今観てもなかなかのグロさです。
ただその残虐シーンに頼りすぎず、サバイバルの緊張感や小さな日常の幸せもしっかり描いている点が心に残りました。
登場人物たちがモールに物資を持ち寄って新しい生活を始めるところなんかは、怖い状況のはずなのにちょっと楽しそうに見える…という不思議な感覚も味わえました。
約2時間という長尺ながらテンポが良く、サバイバルものとしても最後まで全く飽きさせません。
ショッピングモールでのゾンビ狩りやトラックでの封鎖、暴走族との三つ巴のバトルなど、展開に飽きが来ないのも名作たる理由かなと感じます。
そして最後の唐突ともいえるエンディングは、絶望と微かな希望が同居していて、鑑賞後もしばらく余韻が残りました。
今の感覚で観ると多少「古臭く」感じる部分は否めませんが、それも含めてホラーやゾンビというジャンルを一度は原点で味わいたい人には欠かせない映画。
「ゾンビ映画って何が面白いの?」という人こそ一度体験してみる価値があると思います。
40年以上前の作品ですが、時代を超えてなお語り継がれる迫力と、社会への痛烈な皮肉が込められた不滅の作品です。