ネタバレあり


映画『ゲット・アウト』は、表面上は平和な家庭を舞台にしながら、その裏に隠された深い恐怖と人種差別の問題を巧みに描くサスペンス・ホラーです。


主人公は、黒人写真家クリス。彼は恋人ローズに誘われ、初めて彼女の実家を訪ねます。


ローズの家族は高級住宅街に住む知的な一家で、クリスも最初は温かく迎えられます。しかし次第に、家族の言動やパーティーで出会う他の黒人ゲストたちの様子に、違和感を抱くようになり、気持ちの悪い空気がじわじわと広がっていきます。


物語が進むにつれ、クリスは彼らが黒人男性を誘拐し、白人の脳を移植するという狂気の人身売買ビジネスを家族ぐるみで行っていることを知ります。


ローズ一家は、誘拐・催眠・手術と役割分担され、クリスもターゲットとして命を狙われてしまうのです。


クリスは知恵を働かせて危機から脱出しようと奮闘します。家族との壮絶な戦いの末、絶体絶命から親友ロッドに救い出され、かろうじて生き延びる―この終盤の反撃は爽快感も与えつつ、複雑な余韻を残します。


『ゲットアウト』は、単なる恐怖や謎解き、脱出ドラマではありません。アメリカに根深く残る人種差別の現実と、その不気味な空気感、人間の欲望を強烈に体感させる構成で、見る者に大きな衝撃と考えさせるものを与える社会派ホラーです。



感想

この映画は、序盤からじんわりと違和感と不穏さが積み重なります。クリスがローズの実家で感じる微妙な緊張感、例えば、笑顔で迎えられているのに、その眼差しや態度に感じる居心地の悪さや、ただならぬ「線引き」が見え隠れしているのがとてもリアルです。


特に印象的なのは、家族やゲストたちの「表面的な親切さ」と「明るい雰囲気」の裏で徐々に高まる違和感。観客もクリスと同じ立場にたたされて「何か変だ」とソワソワしながら、謎の核心に迫っていく感覚がすごくスリリングです。


使用人の黒人女性ジョージナや、奇妙なパーティーのシーンなど、見逃せない細かな演出も秀逸で、一つひとつが恐怖を増幅させています。「凝固法」という脳移植の方法や、家族の役割分担など、設定も細かく、かなり練り込まれている印象です。


クライマックスでクリスが「野獣のように」反撃していく展開は、ストレートな暴力だけでなく、皮肉も感じられます。


人種間の溝や不信感、そして「結局黒人は黒人同士で支え合うしかない」というメッセージも見え隠れし、最後は複雑な感情が残りました。


ホラー映画と思って見始めましたが、実際はかなり社会的な問題に切り込んだ力作。シンプルな展開ながらも、差別や偽善、表面の笑顔の裏に潜む恐怖というテーマがダイレクトに伝わってきて、とても考えさせられました。


この作品を通じて感じるのは、ただの「怖い映画」ではなく、現実社会にある怖さ、そして他人事ではない問題をしっかりと描ききった監督ジョーダン・ピールの手腕。


観終わった後、しばらく頭から離れない独特の後味と、心に刺さる何かを持った映画です。