映画『デモンズ』は、1985年に公開されたイタリア産のカルト的ホラー作品で、ダリオ・アルジェントが製作・脚本、ランベルト・バーヴァが監督を務めています。
物語は、ある日女子大生のシェリルが地下鉄で謎の仮面男から映画の招待券を受け取ることから始まります。彼女は友人キャシーとともに“メトロポール”という映画館で上映されるホラー作品を観に出かけますが、会場内で不穏な出来事が次々と発生。観客の一人が展示されていた銀の仮面を被り、怪我をするのですが、そこから得体の知れない感染が広がり、観客たちは次々と凶暴な“デモンズ”に変貌し始めます。
外界との連絡も絶たれ、密室となった劇場内で、主人公たちは襲いかかるデモンズから逃れようと必死に戦う羽目に。
劇場からの脱出を試みる中で仲間が一人また一人と倒れていく、緊迫感あふれる展開が続きます。終盤には劇場天井からヘリコプターが墜落するという破天荒なアクションが炸裂し、生き残ったジョージとシェリルはそのヘリのウィンチを使って脱出。
ようやく外に出られたと思った矢先、世界はすでにデモンズたちに侵略され、街が崩壊していることを知るのでした。
感想
この『デモンズ』、一言でいうなら“映画館で映画を観ていたら、本物の地獄が始まった”という、ホラー好きのツボをぐいぐい刺激してくれる作品ですね。
現実と虚構の境界が映画館のスクリーンを通してどんどん曖昧になっていく感覚はかなり独特で、普通なら安心できるはずの場所が最大の恐怖の舞台に変わる、というアイディアが見事です。
劇中劇としてもう一つのホラー映画が上映され、それが現実にリンクしてしまうという構成は、観客側も「もしこんな状況になったら…」と思わず想像せずにいられない。デモンズに変わった観客たちの暴走ぶりはとにかく凄まじく、安易な助けや救いを全く感じさせない“逃げ場のなさ”が、密室ホラーの怖さをしっかり引き出していると思います。
そして床から噴き出す白い体液や、皮膚が裂けて化け物が飛び出すシーンなど、80年代ホラーならではの特殊メイクのバイオレンス描写も本作の大きな魅力。やり過ぎなくらいド派手な演出が、逆にテンポよくて笑えてしまう部分も少しありますね。
登場人物たちはほぼ全員がパニック状態で動き回り、その“なりふり構わぬサバイバル”が極限状況のリアリティにつながっています。
ストーリーについても、典型的な“ホラー映画あるある”の積み重ねながら、そのベタさが妙に愛おしい。途中でいきなりヘリコプターが突っ込んでくるとか、最後はサバイバル一家が現れて救われるか?と思いきや、もう街ごと崩壊している……という思い切ったぶっ壊し方も、カルト映画としてのインパクト大です。
ちなみに映像は80年代イタリア映画らしいケバケバしい色使いで、音楽もゴリゴリのメタル&ロックが鳴り響き、観ていてテンションが上がるタイプのホラー。ゾンビ物とも違う“デモンズ”独自の存在感や、混乱の中で変わっていく人間ドラマも結構しっかり描かれているので、ホラー初心者にはやや刺激が強いかもしれませんが、ジャンル好きにはたまらない一本です。
ちょっと理不尽なくらいの破天荒な展開と、悪夢のような“閉じ込められ感”。「怖いけど、どこか笑える」「ドキドキするけど、ちょっとカッコいい」そんな80年代ホラー・カルトの代表格と言えますね。


