今作『終わらない惨劇』は、シリーズの転換点とも言える仕上がりになっている、との評価も多いです。


それまではワンアイデアで突き抜ける“B級スラッシャー”要素が強かったものの、今回は物語そのものの厚みやキャラクターの個性にかなり力が入っています。とくに「アート・ザ・クラウン」という存在は、単なる“怖いピエロ”から脱却しつつあり、彼に憑依する「ペイルガール」などサブキャラクターも登場し、物語に奥行きが広がっています。


主人公のシエナについては、初登場シーンから既に“作品の顔”として鮮烈な印象を残しています。ハロウィン衣装製作と、日常の中に忍び込む不気味さが絶妙にミックスされているため、観客が物語へスムーズに入り込めるのです。


話題となっている残酷描写、いわゆる「ゴア」についても、単なる衝撃映像ではなく“職人芸”が随所にちりばめられています。


武器の選び方(錆びた刃物や器械)、人体の損壊の段取り、血の色味などに驚くほど手が込んでいます。アートの持ち物(袋にいっぱい詰まった道具)は、単なる“ピエロの小道具”ではなく“惨劇のためのアート作品”という一面も持っていて、「芸術のための破壊」これがキャラクターの根底をなす狂気です。


映画館上映作品としては過去最高クラスの“ハードゴア”に挑戦した作品とも言われており、いわゆるホラー上級者以外には非常にハードルが高いという印象は変わりません。


しかし今回は、単純なグロ描写だけではなく「ファンタジー的要素」も強まっています。


姉弟の物語が中心となるぶん感情的に見やすくなっていますが、アートが人間を超越した怪物として描かれ、身体の欠損を他人のパーツで補うなど、現実感がどこかあやふやにぼやけていきます。


そしてアート・ガール(ペイルガール)の登場や、“お化け屋敷”のような舞台装置も加わったことで、一層「現実離れした悪夢体験」に近づいています。


一部の観客からは「ファンタジー強すぎ」「B級のノリが全面に出た」といった声もあり、とくに終盤~エンディングの“首だけの笑い”は怪作として語り草になっています。


アートはなぜここまで無軌道に暴れ、しかも主人公格の姉弟には妙に“甘い”のか? この部分はシリーズ全体の謎であり、今作でも決して明確な答えは示されません。


「殺戮はアートの自己表現」という心理学的解釈もありますが、結局は“ルールなき惨劇”こそが彼の本質なのでしょう。


また「善人も容赦なく惨殺」「気分次第で展開が変わる」など、観客がどこに“安全地帯”を見出して観てよいのかわからなくなる悪質さ(褒め言葉)も特徴です。


「善悪の区分」や「過去の因縁」など、安心できるホラーの枠組みをことごとく壊されるからこそ、“本当に怖い”という体験になるのだと思います。


この作品からさらにシリーズが続くことは確実ですが、「父親の謎」「アートの存在理由」「ペイルガールとの関係」「首から胴体が再生するラストの意味」など、謎はむしろ増えている印象です。


この点について、とくに考察系のファンからは「怖さやグロさを超えて、シリーズ史的に重要なターニングポイント」という見方が強まりつつあります。

一方「ストーリーや畳み方がちょっと雑」「ゴアだけに頼るのは危うい」「期待よりも怖さが薄かった」といった批判もあり、とくにホラー初心者層からは“やりすぎ感”が逆に冷めるポイントになっているようです。



感想

体験として、本作は「耐性が試される」「考察勢なら謎解きの起点になる」「純粋な怖さだけで見たい人には冗長かも」と幅広い視点で消化できます。


個人的には「皮をはがすシーン」「袋の中身を見せつける場面」「人間の頭を器用に“お菓子入れ”に改造するシーン」などは、やりすぎだけど、“痛い”ではなく、気持ち悪さが突き抜けて逆に笑うしかない瞬間もありました。


そして、主要キャラクターの“生命力のしぶとさ”にも驚かされます。


何度も命の危険に晒されながら、結局死なない主人公。「これで終わりだろ」と思ったら再び始まる。「終わらない惨劇」とはつまるところ“観客の期待を絶妙に外し続ける力”だと思います。 


映画としての完成度は決して“万人向け”ではなく、むしろ「偏ったこだわり」や「突き抜けたゴア志向」を愛する人たち向け、その極端な姿勢がこれだけ話題になるのは、逆に昨今のホラーの潮流に物申す系の作品だからなのかもしれません。


ちなみに「全米が吐いた」の煽り文句については、「本当にそこまで…?」という意外と冷静な評価もあります。


期待値を上げすぎて肩透かしになる向きもありますが、“一部のホラーファンの間では伝説化した”という事実が作品の価値だと断言して良いでしょう。


『テリファー 終わらない惨劇』は、シリーズの原点回帰と拡張の両方が成立した一本です。言葉の意味どおり“終わらない”苦しさと、観る側を翻弄し続ける悪夢。そして、衝撃映像の“職人芸”としての側面。観る人によって受け止め方が本当に違う、だからこそ後を引く魅力があるのだと思います。


「安全地帯がない、ルールがない、だからこそ本当に怖い」


この恐ろしさに浸りたい人は、ぜひ覚悟をもって鑑賞してください。


2025年8月現在

プライムビデオ、U-NEXT、DMM TV、Rakuten TV、Lemino、 J:COM stream、Hulu、TSUTAYAディスカスにて配信中