映画『モンスター』(原題:Monster)は、2003年に公開されたアメリカの伝記犯罪ドラマ映画で、実在した女性シリアルキラー、アイリーン・ウォーノスの半生を描いた作品です。


監督・脚本はパティ・ジェンキンス(後に『ワンダーウーマン』で高評価を得る監督)で、主演を務めたのはシャーリーズ・セロン。


彼女はこの作品で実在の人物に肉体的・精神的に迫り、アカデミー賞主演女優賞を始め、数々の映画賞を受賞しました。


物語の舞台はアメリカ、フロリダ州。


1980年代後半から90年代初頭にかけて、実際に起きた事件をベースにしており、売春婦として生きていたアイリーンが、複雑な過去を背負いながら数々の男性を殺害していく経緯が描かれています。


彼女の人生は、単なる「シリアルキラー」として片付けられるものではなく、虐待・貧困・社会の無関心に晒され続けた女性の物語として描かれます。


アイリーン・ウォーノス(シャーリーズ・セロン)は、幼少期から虐待に苦しみ、思春期から身体を売って生計を立ててきた女性。


道ばたで偶然知り合った若い女性セルビー(クリスティナ・リッチ)と出会い、恋に落ちたことをきっかけに「普通の生活」を夢見るようになります。


しかし、社会から見捨てられた彼女にとって、その夢はあまりに遠くて現実味がないものでした。


生活費を稼ぐために再び売春に戻るアイリーン。


ある日、ひどい暴行を加えた男を正当防衛の末に殺害してしまいます。それを機に、彼女の心の中である種の「復讐」の感情が芽生えるのです。

この世の中がどれだけ女性を、特に貧しい、声を持たない女性を痛めつけるかを知っている彼女は、その怒りと絶望を男たちにぶつけていきます。


だが当然ながら、それが「正当化」されるわけではありません。やがて事件は露見し、彼女は逮捕。法廷で孤独に向き合う彼女の姿がラストに描かれます。



感想

シャーリーズ・セロン、怖すぎ。でも、泣きました。

まずシャーリーズ・セロンが凄いとかそういう言葉じゃ言い表せないくらい化けてましたびっくり


演じてるじゃなくて、なってたんですよ、アイリーン本人に。

映画の冒頭から、「えっ?これシャーリーズ・セロンなの!?嘘でしょ!?」ってなる人、絶対多いと思う。

もはや別人。肉付きから、眉毛のない感じの顔つきから、話し方、目つき全部がリアル。それも演技プラス、特殊メイクや体重増加まで合わせてのガチ魂の演技!


この映画、ジャンル的には一応「犯罪ドラマ」って括られるけど、中身は全然違う。


ホラーでもあり、ラブストーリーでもあり、ひどい社会に抗った人間の叫びでもあるし、自己破壊の物語でもある。


つまり、いろんなジャンルが幾重にも重なっています。


特に印象的だったのは、セルビーとの関係性。

ふたりの関係って、恋人というにはちょっと違って、でも家族とか友人でもない。傷を持つ者同士で、寂しさで繋がってる。でも愛してるって感情は確かにあって。

これがねぇ、見ていて胸がぎゅーってなります。


セルビーって最初ちょっと純粋というか、何も知らない無邪気な女の子っぽいけど、どんどん関係性が歪んでいく中で、アイリーンへの依存が増してくるのも怖かった。

でも、そこもすごくリアルでした。


あと、アイリーンが売春から足を洗おうとするけど、誰も手を差し伸べてくれない描写。これがまた辛い。

職安行っても門前払い、カフェの面接でも「お前ができるわけない」みたいな目で見られてしまう。

あのシーン、きつかった。どんなに人を信じようと思っても、社会そのものが「お前なんていらない」って言ってくる。それは絶望もしますよね。


殺人が正しかったのか?っていうと、もちろん違うんですけどね。

それでも、「じゃあ彼女が他にどんな選択肢あったの?」って考えると、映画が伝えようとしてることがぐさっとくる。


人間が極限まで追い詰められた時、正しさなんて霞むんだなって。


そしてやっぱり、ラストシーン。あれはもう…つらい。泣いた。背筋が凍るし、目が離せなくなる。でも感情移入せざるを得なかった。そこにいるのは、


ただ「悪人」でも「犯人」でもなく、人生に負けていったひとりの人間の姿だった。


セロンが最後に見せるあの表情が、ずっと頭に残って離れない。


音楽も良かったです。特別派手なサウンドじゃないんだけど、物語の悲しみをそっと包み込むような楽曲がちゃんと心に響く。


特にラスト近くで流れる曲、鳥肌立った。重苦しい物語の中でも「ちょっとしたやさしさ」とか「希望になりたかった気持ち」とかが、微かに伝わってきました。


『モンスター』は、見る人にとっては「つらすぎる」「気持ち悪い」「重たすぎ」という感想が出るかもしれない。


確かにそう。でも、決してそれだけじゃない。まじでこの映画、ちゃんと向き合って見れば、「人間ってこんなにも強くて、そして弱いんだな」って全身で感じることができる一本。


特に「社会の中で居場所がない」と感じたことがある人、「誰にも理解されない」と思ってしまった経験がある人には、ものすごく刺さると思う。


もちろん犯罪は肯定できないし、悲劇のヒロインに仕立て上げようとは全然思わない。


でも「ただ裁く」だけじゃ済まされない背景があることを、映画はきっちり描いてくれてる。


ハッピーエンドじゃないし、スカッともしない。

むしろ見た後にちょっとズーンとくる。でも、そういう映画こそ、長く心に残るものだと思います。


『モンスター』はまさにそんな作品です。


2025年7月現在

U-NEXT、Huluにて配信中