『冷たい熱帯魚』(英題:Cold Fish)は、2010年に公開された日本のサスペンス・スリラー映画です。監督・脚本は鬼才・園子温。


物語は、1993年に実際に起きた「埼玉愛犬家連続殺人事件」をベースに、極限の人間心理や狂気、そして崩壊していく家族の姿を描いています。


主人公は、冴えない小さな熱帯魚店主・社本信行。


彼の家族は、死別した前妻の娘と今の妻の折り合いが悪く家庭崩壊寸前。万引きした娘をきっかけに、大型熱帯魚店を営む村田と知り合い、社本は彼のビジネスを手伝うことになります。


ところが村田の本性は連続殺人犯で、社本は次第に事件へと巻き込まれていきます。


主演は吹越満。怪演が話題になった村田役のでんでんの存在感が圧倒的で、脇を黒沢あすかなどが固めています。


2011年にはBlu-rayとDVDで発売され、R18+指定となっています。第35回日本アカデミー賞では助演男優賞をはじめ、国内外で高い評価を受けました。



感想

とにかくすごい映画でしたよ、『冷たい熱帯魚』。


まず、普通に観たら家族の物語だと思うでしょ?

でも、見続けてるうちに、家族の冷えた雰囲気が肌で分かってきます。


主人公の社本(吹越満)が、もう本当に頼りないえーその日常からすでに息苦しい。

これが約2時間半も続くの、なかなかの覚悟がいる。

序盤でまず家族の夕食シーン出てくるけど、会話がゼロ!

妻はご飯作っただけで席外して、娘はさっさと電話して外出。

ほとんど「愛情がない」っていうか、「無関心」が蔓延してる家庭なんですよ真顔


そして、娘が万引きしちゃってピンチに。

ここで奇妙に“優しい”村田(でんでん)登場。

この村田がまたヤバい。第一印象は、ちょっとクセが強くて、でも人あたりが良いおじさん。


しかし話が進むうちに、冷た~い笑顔の裏の顔がジワジワとあらわになる。ここから、どんどん社本家は村田の毒気に飲み込まれていく。


正直言うと、社本が「何にも自分で決められない」人間っていうのが根本のテーマなんでしょうね。


村田みたいな、強引で、ズケズケ人に踏み込むやつが現れたら、何もできないまま流される。


現実にもよくいそうで、見ててヒリヒリする。何かヤバそうって分かってるのにNOと言えなくて、ずるずると地獄に引きずり込まれるタイプ。こういう人、多いよな~って思ってしまいました驚き


それにしても、グロテスク描写の連発がハンパない。血がドバドバ出るだの、死体の処理だの、「これは映画館でやっちゃヤバいんじゃ?」ってシーンも多々。


たぶん、耐性ない人はすぐにダウンしてしまいそう。


でも不思議なのが、このえげつない描写が逆にリアリティを増してる気がします。こんなこと人間がやる?って思いそうだけど、現実にこんな事件があったって思い出した瞬間、背筋が凍る。


あと、でんでんの怪演が衝撃。序盤の気さくな雰囲気とのギャップがすごいし、この人、本当にこんな役者さんだったの?って驚いた。


怖いのは、村田がただのサイコパスってだけじゃなく、社本を徹底的に巻き込むことで、普通の人間もどんどん狂わせていく力があるってところ。


ラストの社本の変貌には、さすがにゾッとしましたガーン


その「変異」の瞬間が、人間ってここまで壊れるのかって突き付けてきます。


しかもエログロ要素も強烈。エロシーン必要?って思うんだけど、観終わったあと「これが人間の愚かさとか欲望を描くためなら、まあアリかも」って思いました。


不快になるレベルなんだけど、それが逆に園子温作品のパワーとも言えます。


観客に本気で気分悪いって思わせられる映画って、なかなかないわけで。


黒沢あすか演じる村田の妻もすごかった。愛してくれる男にコロっとなびいて、裏切る。だけど最後は、自分の行動が全部跳ね返ってくる。後味の悪さがズシンと来ますガーン


この映画、約2時間半あるのに、緊張感が全く途切れない。

いわゆる“長尺”とか“だれる”とか言う暇もなく、どんどん悲劇が積み重なっていきます。

それでいて一切の「救い」がない。「希望」なんて単語はこの映画には存在しない。


中途半端な逆転劇なんてあるわけもない。

そして何よりも思うのは、リアルな人間の「弱さ」と「残酷さ」をこれだけむき出しにしてる点。社本にしても村田にしても、極端なだけで人間の中にある「自分で決められない怖さ」とか「欲望」って、案外みんな持ってるでしょ?


そこのギリギリの境界線を行ったり来たりしながら、最終的にはぶっ壊れてしまう。


終わった後に残るのは爽快感じゃなくて、ドロドロとした何とも言えないもの。ここまで心をえぐってくる映画、好き嫌いは分かれると思います。


普通のエンタメ映画が観たい人には勧めないです魂が抜ける

でも、「人間って何?」とか「極限状態の心理」みたいなのに興味があるなら、絶対観てほしい一作!


「観るのに覚悟がいる映画」って、まさにこういうの指すんだなって実感しました。


2025年7月現在

プライムビデオ、U-NEXT、Hulu、DMM TV、TELASA、J:COM stream、Netflix、にて配信中