『X エックス』(原題:X)は、2022年公開のアメリカ製スラッシャー・ホラー映画。


監督はタイ・ウェスト。主演はミア・ゴス、共演にジェナ・オルテガやブリタニー・スノウが名を連ねています。この作品は、ホラーを中心に新世代映画ファンから熱狂的な支持を受けているA24スタジオのプロデュース。その独特な雰囲気、残虐でいてどこか哀しい物語で、公開当時から話題になりました。

1979年、アメリカ・テキサス。女優志望のマキシーン(ミア・ゴス)は、マネージャーのウェインとポルノ映画の撮影のために、仲間と共に田舎の農場を訪問。彼女たちが借りた納屋の主は、見るからに怪しいハワード老人と、その妻パール。6人は「農場の娘たち」というタイトルの低予算映画を撮影しようとしますが、やがて彼らは想像もしなかった恐怖と対峙することに。実はこの家、史上最高齢の殺人夫婦が棲む”呪われた場所”だったのです。

主演のミア・ゴスは、主人公・マキシーンと同時に物語の鍵となる老婆パール役も一人二役で演じ、恐怖と哀愁の両面を表現する見事な演技を披露しています。



感想 

冒頭からして妙に不穏。なんか田舎の農場ってもっとのどかなはずじゃない?でも画面に漂う「何かが起きるぞ」感。あれ、ズルいくらい上手い。

そして、若者6人が和気あいあいと撮影しだすんだけど、そのテンションに、逆に背筋が冷える。


彼らが何も知らずに「農場の娘たち」撮っている裏で、観てる側は、絶対やばいよここ!ってハラハラします。


ミア・ゴス。強烈です。まずマキシーンというキャラクターが良いんですよ。何者かになりたくて、ちょっと刹那的で、でも妙に芯が太い。そして、その彼女が一転、生き残るためにどんどん本性むき出しになってく。


これが序盤中盤終盤で表情がガラッと変わっていくから、見ててすごく「人間怖っ」て思うんです。実はこの人(ミア・ゴス)、老婆パール役もやってるって知った時は、そりゃびっくり。

特殊メイクのせいもあるけど、目の奥がまったく同じ「何かへの執着」みたいなの湛えてるから、観終わってからもう一回顔つきを確認して納得。


それと、普通のスラッシャー映画だと「動機が意味不明」ってこと、けっこうあるじゃないですか。

でもこの映画、登場人物の「いい意味での下世話さ」「人生で成し遂げたいことがある」感じが明白。それが逆に、不幸な展開にも説得力を持たせてる気がします。6人それぞれが立ってて、誰が死ぬかなんとなく予測できそうでできない。


で、映像センスがいい!当時のレトロな空気感、色味、音楽。あのちょっとざらついた70年代末の雰囲気。レコードのノイズ、なぜか鳥肌が立つ。


編集も、そのワンカット・ツーカットの切り替えが「来るぞ!来るぞ!」と思わせて実は来なかったり、一瞬油断したところでドカン!ホラーの“観客を焦らす”演出、ほんとニヤニヤしますよ。


あと、やっぱりパールお婆さん。いや、あんな年老いた女性がなぜ…って、最初はちょっとしたジョークかと思った。


でも、この映画、老いとか欲望とか、人間が人生のどこかで感じる孤独や虚しさに、めちゃくちゃ容赦ない。


ホラーである一方、妙にエモーショナルなんです。パールの一挙一動に、なんか哀しさと恐怖がセットでやってきます。


正直、斧やフォークが飛び出してくるより、彼女の表情や仕草の方が怖い。


血もドバーッと出るし、クライマックスの殺し合いなんか、生き残りゲーム感。


終盤はイッキ見したくなるスピードで展開が畳み掛けてきて、最後の最後、これまた“生への渇望”が何とも言えない余韻に。


監督のタイ・ウェストといえば、ちょっとクセ強なホラー好きにはたまらない作家だけど、この『X エックス』はスラッシャーへの愛とリスペクト、それから新しさへの挑戦が両立できてて、ホラーってまだまだ面白い!って素直に思わせてくれる。


音楽の使い方とかも妙に洒落てて、ホラー好きも映画好きも、ちょっとシニカルに笑いながら観れる部分もある。


ミア・ゴスの存在感にぞわぞわして、物語の“裏側にある人間ドラマ”にすこし胸がぎゅっとなって、気付いたら最後まで見入っちゃう。


エロ・グロ・バイオレンスの全部盛り、なのにどっか気高い。そんな映画でした。


2025年7月現在

プライムビデオ、Hulu、Rakuten TV、WOWOWオンデマンドにて配信中