1988年に公開されたアメリカ映画『バタリアン2(Return of the Living Dead Part II)』は、1985年の大ヒット作『バタリアン』の続編として製作された作品です。
監督はケン・ウィーダーホーン。前作の監督ダン・オバノンとは異なり、ホラーコメディとしての色合いがさらに強くなっています。物語自体はほぼ独立しており、前作の直接的な続きではないものの、同じ設定や小道具、つまり軍が誤って開発した“トライオキシン”という化学物質によってゾンビが蘇生するという基本要素は共通しています。
物語の始まりは、軍の輸送トラックが夜道で事故を起こし、トライオキシンの入ったドラム缶が近郊の墓地へ転がり落ちる場面から。
やがて好奇心旺盛な子どもたちがそのドラム缶を発見し、遊び半分で開けてしまったことで、再び死者が蘇り街を襲うという展開になります。舞台は郊外の住宅地。ゾンビ災害映画としては、前作の不気味で退廃的な雰囲気とは対照的に、どこかポップで明るい印象を持っています。
キャストとして注目すべきは、前作にも出演していたジェームズ・カレンとトム・マシューズの再登場です。
両者は前作とは異なる役柄を演じており、この“入れ替え出演”がファンの間では一種のシャレとして評価されています。彼らのドタバタとしたやりとりや、ゾンビを前にした反応のテンポ感が、この作品特有の軽妙な味わいを作り出しています。
また、少年ジェシー役のマイケル・ケンワーシーが中心人物として奮闘し、ホラーというよりは冒険映画に近い要素も感じられます。
『バタリアン2』の特徴は、グロテスクなホラー要素をあえて笑いに転化している点にあります。ゾンビたちは前作よりもさらにおしゃべりで愛嬌があり、音楽も80年代特有のポップなリズムで構成。
ジャンル的にはホラーコメディの極致と言えるでしょう。物語のテンポも早く、恐怖というよりは“騒々しい悪夢”のような楽しさで一気に見せてくれます。
撮影面では、特撮とアニマトロニクスを駆使したゾンビ造形が際立っています。腐敗した皮膚の質感や、煙のように立ち上るトライオキシンガスなどの視覚効果は、当時としてもかなり力が入っていました。
特に墓地から次々と手が伸びてくるシーンは、前作を彷彿とさせながらも、演出のトーンがよりファンタジック。ホラーよりエンターテインメントを重視した演出が印象的です。
感想
この『バタリアン2』は、真面目なホラーを期待すると肩透かしを食らうかもしれません。
でも、あえて“怖くないゾンビ映画”として見ると、これが案外クセになる面白さがあるんです。とにかく全編がパニック騒動のようで、キャラクターたちが右往左往する様子には、どこか懐かしい80年代的な無邪気さを感じます。
ゾンビが人間を襲うのに、まるでコントのような間合いがあったり、セリフの掛け合いが妙に軽快だったり。純粋に映画的な“ノリ”を楽しむタイプの作品です。
前作『バタリアン』には、死をテーマにした強烈な皮肉や、ホラー映画の文法を破壊する新しさがありましたが、今作はそこまでの革新性よりも、続編としての“お祭り感”を全面に押し出しています。
大人が真剣に怖がるというよりは、ティーンエイジャー向けのSFアドベンチャー寄りのノリ。ゾンビが脅威でありながらも、どこか憎めない存在として描かれているのがポイントでしょう。
ただ、コメディ色に寄せすぎたせいで、前作のブラックな魅力や不気味さを求めるファンには少し物足りなく感じられるかもしれません。
恐怖というより、笑いを中心に構成された演出が、シリーズとしての一貫性を薄めている部分もあります。しかし、それでも当時の特撮技術や、80年代特有のファッション、音楽、照明の色づかいなどを楽しむ意味では、十分に価値のある一本です。
個人的には、“ゾンビ映画というより、ゾンビが出てくるカーニバル映画”のような軽やかさを感じました。作品全体に漂うチープさすら味わいに変えてしまう力があり、B級映画好きにはたまらない世界観です。
特に後半、街全体を覆うトライオキシンガスと、軍の介入によるドタバタの同時進行は、スリルよりもリズムで観客を引っ張るようなテンポ感が心地よい。ほどよく馬鹿馬鹿しく、しかしどこか完成された“茶目っ気のあるホラー”です。
『バタリアン2』は、前作の名を借りつつ、方向性をまったく別の角度に振った作品。怖さよりも楽しさを重視した続編として、今見ると非常にユニークな存在です。ジャンルとして完成された『ゾンビ映画』というよりも、“ゾンビ・コメディ”というニッチなジャンルの代表作として、長く語り継がれています。