シュトヘル
シュトヘルには、実はもう一つ重要なテーマが描かれている。
それはおそらく、「命より大事なものはあるか?」というものだ。
ユルールの兄、ハラバルは言う。「命より大事なものがあるという言葉は病だ。この言葉が蔓延するたびに多くの人間が死ぬ。」
これを返して西夏の学者が言う。「生涯をかけた仕事は命に代わるものとなる。」「縄張りを争って殺しあうだけなら、人は獣と変わらない。」
このハラバルと学者の問答は、実は対等な問答ではない。自らの部族を守るために学者を殺しに来たハラバルを詰問しているのだ。
私はこの問答を読んだとき、ハラバルの意見に賛成した。学者が命と「仕事」を比べたため、ついつい自分の仕事を思い浮かべてしまったためだ。
正直言って仕事が命より大事という発想には違和感がある。軽々に「仕事に命をかけろ」などという人は、命の重みがわかっていない。
この学者の言に説得力があるのは、国家や民族と離れて個人が存在し得なかった時代にあって、この学者の仕事が国家や民族の誇りそのものであったからだ。
もし「命より大事なものがあるか」というテーマを描くなら、某有名OVAのメインキャラのセリフの方が的を得ている。
「人は命より大事なものが存在することを理由として戦争を始め、命より大事なものがないことを理由にして戦争を止める。」「この戦いにかかっているのは、たかだか国家の存亡だ。個人の自由や人権に比べれば、大した価値のあるものじゃない。」
ゆえにこのシーンは、私にとってはシュトヘル唯一の残念なシーンとなった。
以上
