今しがた、感じの良さそうな中年の男性客が来店した。
その男はビジネスカジュアルに身を包み、清潔感があり、世間で言う所の良いお父さんといった印象だろうか。
しかしながら、平日の終電もとっくに無くなったこの時分にベッドタウンに位置するネットカフェに来店した理由を頭の片隅で考え始めた束の間男が口を開いた。
「いやぁ、終電に間に合ったんだけど乗りそびれちゃって」
印象とは違いくだけた言葉をつかうその男は照れている様子でも無く、何かを話したくて仕方がないといったしょうねんのようなひとみをしている。
「何かトラブルに巻き込まれてしまったんですか?」
無難な返答をする私に男が経緯(いきさつ)を語りだした。
「なんか女性にちょっかい出してる酔っ払いが居たから逮捕したんだよ。そしたら終電に乗り遅れちゃったんだ」
「殊勝ですね。今時そんな事できる方はなかなかいませんよ。」
「現行犯でさ、こう、腕を掴んで捕まえたんだよ」
「現行犯なら民間人でも捕まえられますもんね。」
「そうそう、私もそれを確認して前から一度は言いたかった、23:30容疑者確保!なんて山さん(おそらく太陽にほえろの役名)の真似しちゃたよ」
男はひとしきり話し終わると急に丁寧な口調に変わり私の店舗利用の際の説明に耳をかたむけていた。
多重人格という程ではないが、人間は誰しもいくつかの顔を内包している。
第一印象が8割と言われている世の中だが、また一つ考え方をあらためさせられたような気がする。
完