アスファルトに打ちつけられる雨の匂いをあなたは覚えているだろうか??


僕は決して忘れない。







唸るような暑さの正午、降水確率を示す内容のテレビをボンヤリ眺めていた。





高校3年の夏休み。進学する気がない僕にとっては退屈なものにすぎなかった。





寝そべってる姿が映る鏡を覗いてノソリと起きあがり、ため息をつきながら身なりを整え自転車で書店へ向かう。






お盆の真っ只中である事も手伝い車通りも少なく、いつもよりも速く着いた気がした。



店に入ると心地よい風が流れてきた。


いつものようにお決まりのコースを通ってコミックのコーナーへ向かう。





暫く探してみるが目当ての物が見つからない。


「仕方がない」



そう、呟いて書店を後にすると30分前には想像し難い勢いの雨が降っていた。






近場にコンビニなどといった気の利いた物もなく、仕方なく自転車で帰路につく。





相変わらず車の通りも少なく、雨が降っているのにやけに静かに感じる。





もうすぐ家に着く。



しかし、その前に心臓破りの坂を登らなければならない。





近づくにつれて気を引き締めて感覚を研ぎ澄ます。









「ニャア」









足が止まってしまった。


その猫の鳴き声には僕を呼び止める何かを感じた。





辺りを探すが居場所など検討もつかない。


それでも尚その猫は鳴き続けている。




ふと、自分の足元に排水溝の蓋があるのを見つけた。



まさか…


と思いつつも蓋を開けてみると、汚水によって元の色も分からないような子猫が溺れかけていた。







綺麗好きでは無いが、その鼻をさすような異臭は耐え難い物があった。



この子猫はその中にずっと居たのかと思うと心が痛くてしょうがなかった。







排水溝に顔をつっこみ子猫を捕まえる。


それと同時に車のブレーキ音がした。




それにつられて顔をあげる僕。




その時ハッキリと見た。




目が合ったにも関わらず何事も無かったかのように去って行く初老の女性を。




その女性の行動は間違ってはいない。


見るからに怪しい事をしているのは確かだ。


それでも子猫を抱えた僕は忘れない。



アスファルトを打つこの雨の匂いとともに。