記憶の記録 15.三年夏
傘はカラフルな方がいい。
オレンジや黄色、緑もあった方が華やぐだろう。
雨はしとりしとりと降っていた。
灰色空から雨粒がぽつりぽつりと落ちてきた。
街中は喧騒、
だけどその音は冷たく響き渡る。
梅雨冷えで、
どこか寂しささえ感じ漂わす。
秋葉原の中央通りは、様々な人々でごった返す。
コスプレする若者もいるし、地味な服のアニメオタクもいる。
アナログの電気機材を買い漁りに来る人もいれば、名店のランチを求めて訪れている人もいるだろう。
このサブカルチャーに包まれた街で、わたしは友人と待ち合わせをしていた。
みずちゃんとは仲がいい。
高校以来の親友だ。
大学生の頃にはいっとき会わなくなったのだけれど、
高校時代の友人たちの集まりで呼ばれて再開した。
マンガやアニメが好きな彼女と決して趣味が合うわけではないのだけれど、
お休みの日にアキバや中野、コミケに付き合わされるのはけっこう刺激的で楽しい。
「あ、お待たせ。待った?」
わたしはみずちゃんの質問に首を横に振る。
彼女はだぶだぶのシャツに、緩いチノパンをはいている。
「今日は、その格好なんだ」
コミケの時にはじゃっかんコスプレの入った制服みたいな格好をすることもある。
「時と場合によるのよ」
そして空を見上げる。
「ああ、天気」
「それもあるのよ」
雨の中を歩く。
水たまりポチャポチャ、
川ゴウゴウ。
アキバ外れの集合施設のカフェでランチ。
水色水玉模様のわたしのシャツに、黄色と赤のオムライスが映える。
メロンソーダも添えて色とりどりの食事にしよう。
銀色スプーンで太陽みたいなオムライスを掬い、
口に運べばいつの間にか皿は空になる。
外の雨はまだ止まない。
雨だからとて歩みは止めない。
みずちゃんはカラフルごった返すメインストリートをせっせと歩いていく。
探していた原画は店舗で直売りしかしていないプレミア一点物。
この街には博物館のように興味のないお宝が溢れている。
わたしはみずちゃんについて行く。
自動ドアを開けた内側にはアニメのテーマソングが高い声で歌われて、
大きなパネルの萌えキャラが迎え入れる。
みずちゃんは一階のポスターやグッズには興味を示さず2階へ上る。
2階にはたくさんのコミックがあるけど、今日はそこを素通り、
3階のフィギュアコーナーも見向きもせずに階段を上っていく。
そして4階の展示コーナーへと入り込む。
なんだかわからない手書きのイラストが展示され並んでいる。
「あの」みずちゃんはお店の店員に声を掛け、何かの雑談をしている。
そしてそのまま奥の方に行ってしまった。わたしはそのあとをついていく。
「だいたいこのあたりがそうなんだけどな」
「あ、わたし、自分で探してもいいですか」
「いいですよ。見つかったら声掛けてください」
みずちゃんはうなずいて嬉しそうに探す。
「しばらく時間かかるから、好きなの見てていいよ」
ふと厳しい表情になって、わたしに声をかける。
「ああ、ありがとう」
そしてわたしは一人。
アニメに溢れた独特の世界を走り下りて、灰色雲から雨滴り落ちる路上へ閉め出される。
いつもこんな感じで、わたしは一人。
みずちゃんとは変な友達関係を続けている。
これでもわたしは仲がいいと言う。きっとそうなくなったら、ここへ来ることもなく、
刺激は失われてしまうだろう。
みずちゃんとはこれからも友達だ。いつでも、遊べる仲であれればいいな。