記憶の記録 1.零年冬
はぁっと息を吹き出せば、
白くモワッとしたものがフワリと現れて、すぐに冷たい空気に包まれ、消えてなくなる。
その年の冬はほぼほぼ雪も降ることなく、寒さのわりには日照りもよいまま終りを迎えようとしていた。
春の始めに雪が降る日もあるからまだわからないけど、この冬を思い返せば雪のない年というのが当てはまる。
そんなふうに季節を観察しながら、葉のない枝を突き出した木々がぬくぬくと生い茂る森林公園を歩いていた。
一年の始まりには目標を立てた。
『今年は少し特別な年にしたい』
そういう明瞭なビジョンもない、気持ちだけが逸る漠然とした目標だった。
そこには少し怖じ気づいた気持ちが現れてしまった。
素直に言えば、結婚願望なのだ。でもまずは彼氏なのだけれど、それもまだ手の届かない遠くの虚構である気がして、
ならば男友達、
まずは恋活と、
徐々に萎み、
花から新芽まで逆回しに縮んだ想いは、
『今年は特別な年にしたい』
という
あやふやな目標にまでに落ち、わたしの気持ちをとどめた。
去年の冬の始まりに紹介された友だちの知り合いは、あっさりわたしに興味がない素振りを見せて、わたしの心に釘を打った。
冬はわたしを外に連れ出してくれない。寒さと共にベットが心身を縛り付ける。
夜の暗がりは早く、仕事終わりは足を帰路へと早めさせる。
クリスマスも終わった新年ではイベントもなく、元旦は実家で餅を頬張らせ、わたしの体を餅のように膨れさせた。
ふっくらした容姿に自信が持てず、より一層、冬はわたしを家にとどめたがる。
そして瞬く間に1月が終わり、2月も終わろうとしている。
梅がつぼみを付けて花が
ちらほらと咲き始めている。そのほのかな赤みが春の始まりを告げている。
さて、少しだけジョギングでもしますか。
少し痩せたら素敵な男性に出会う手はずを取ろう。新しい春には新しい出逢いが待っている。わたしは足を弾ませ、腕を振り、歩くよりは速いペースで動き出す。
まだ冬は終わらないけど、一足先に新しい季節の準備を始める。
体が温まり、樹木の立ち並ぶ
土の路面を走り抜けると
太陽の日差しをいっぱいに浴びる広い広場に出る。
どこかに素敵な男性を探しているのだけれど冬の朝は老人ばかりとすれ違う。
小犬を散歩する八十近い老人と行き違い、
わたしより走るペースが速い贅肉を持たない七十くらいの老人に追い抜かれる。
朝の公園は老人ワールドと化している。
たとえ爽やかな笑みを浮かべてジョギングしている同年代の男性とすれ違ったとしても、そこに恋への発展なんてありもしない幻想だろう。
今は走ろう。白い息を吐きながら、少し苦しくても、今はまだ梅もつぼみばかりの冬の終わりだから、
つくしが顔出し、
タンポポが咲いて、一面野が花で埋め尽くされて鮮やかな多色溢れる頃まで、
わたしは春芽吹く準備をする。
わたしの名前は、山野めぶき。
その名の通り、いつか芽吹く日を待っている。
冬の晴れた空に新たな一年をスタートさせる。