メキシコ回想記22.メキシコシティその3.テオティワカン | 小説と未来

メキシコ回想記22.メキシコシティその3.テオティワカン

1月1日の元日、日本では初詣で、神社に行くのが習わしだ。
メキシコでは教会かもしれないが、僕らはピラミッドへと行く。

ピラミッドと言えばエジプトかもしれないが、メキシコのピラミッドも有名だ。メキシコを含む中米にもたくさんのピラミッドがある。大小サイズは様々だ。

メキシコシティから一番近い場所にあるピラミッドがテオティワカンだ。テオティワカンはメキシコの大部分を支配していたアステカ帝国よりも、古い歴史の遺跡だ。アステカ帝国の遺跡はテンプルマヨールのように見る影もないのだが、テオティワカンはほぼ当時のままに残っている。なぜ残されているのかはわからないが、中心地より少し離れていたし、スペイン人が統治する頃にはすでに廃れてしまっていたのが理由なのかもしれない。

メキシコシティから北へ1,2時間、バスで移動すると、そこにテオティワカンがある。すっかり都会から離れたど田舎で、渇いた大地に広大なテオティワカンが現れる。
ピラミッドは主に三つある。ケツアルコアトルの神殿、太陽の神殿、月の神殿、広大な敷地で、左右1キロ以上はあっただろう。

そこには、正月休みで、一人旅で日本時宿に泊まっていた2人の男旅人と一緒にやってきた。一人は新潟のナカさん、もう一人は昔南米を旅したことのあるコバさん。ナカさんはテンションの高い人でガテン系な感じの人だ。全てが豪快な感じで、スペイン語も喋れないのに度胸がいい人であちこちに話し掛けていたイメージがある。コバさんは落ち着いていて、緩やかな人だが、スペイン語の話せる人だったと思う。ナカさんが向かっていって、コバさんがフォローする。そんな両極端ながらにバランスの取れた二人だった。二人とも30代だったと思う。
彼らは本当に旅行者だ。観光を楽しむ目的で来ている。僕は旅行者と旅人に、じゃっかんの違いを感じる。僕は、テオティワカンを目的としていない。旅の途中で、旅行者が行こうとしていて、ついでに立ち寄る感じで来ている。テオティワカンも行こうと思っていたが、目的はもっと別の場所にある。旅は長く、観光地の一つを目的としていないのだ。
僕は旅の途中で、旅行をしている感じで、彼らは旅行に来て、旅行をしている。

さて、あの日僕はどんな旅行をしただろう。狭いバスに揺られ、テオティワカンまでやってきた。立ちっぱなしだったような気もする。途中に小さな町があった。まだ朝早かった気がする。
そこは乾いた大地だった。辺りは何もなかったような気がする。たくさんの観光客がいた。たぶんたくさんの露店があって、物を売り歩く現地の商売人がたくさんいたはずだ。だけどその広大さはたくさんの旅行客を十分に受け入れる広さがあった。

入口を入って、最初に出迎えるのは、ケツアルコアトルの神殿だ。
ケツアルコアトルとは蛇の神であり、コルテスがスペインから来た際、モクテスマが間違えた神だ。この神殿は他のピラミッドに比べて小さいが、入ってきて最初に観る印象は強い。そのケツアルコアトルについて知っていれば興味も増す。
メキシコの古い歴史。アステカ帝国の神話の基とも考えられるテオティワカンの遺跡は何とも広大で、神秘的で強大な印象を与えられる。ケツアルコアトルは、モクテスマがコルテスを神と間違えた神だ。その歴史の何百年も前から神話としてこの地で崇められていた。
神話には魅かれるものがある。ギリシャ神話や日本の古事記などと同等に魅力的だ。

テオティワカンの遺跡はケツアルコアトルの神殿からずっと左へと拡がっている。中央の広大な拓けた幅数十メートルにもなる道の左右にいくつものピラミッドが囲っていて、中央付近に太陽の神殿があり、最奥の正面に月の神殿がある。
僕らはなぜだが中央をずっと歩いてゆかずに、大きなサボテン生える裏道を歩いた。やがて正面に最も高いピラミッド、太陽の神殿が見える。メキシコのピラミッドは多くの場合、上まで上る事ができる。
僕らは高さ50mを超える、その太陽のピラミッドを上ってゆく。
上まで辿り着くと、そこではお祈りを捧げる集団がいた。今も、メキシコの宗教は残っているようだ。全てがキリスト教となってしまったわけではない。日本でも、神道と仏教が共存しているように、メキシコでも古い宗教とキリスト教が共存している。古い宗教は、キリスト教を受け入れる寛大さがあったのだ。これは日本の神道の八百万の神に近い。
メキシコの歴史には何となく親近感を覚える。

見渡せば遥か遠方までの景色が見渡せる。短い木しか生えない乾いた大地と、北方に山々が望める。そこでしばらく上り切った疲れを癒しながら、涼しい風に吹かれて時を送る。それは青空で暑くもなく寒くもなく心地よい一日だった。

その後は、博物館に入り、何を観たか覚えていないくらい慌しく出た。遺跡は広いので歩きまわっていると結構時間がかかるのだ。
せっかく来たので、今度は二番目に高い月のピラミッドにも上る。こっちは太陽のピラミッドより修復されておらず、上りにくかったが上り切った。
また景色を見渡す。今度は遺跡の全貌が真っ直ぐ見渡せる。中央に伸びる道に、太陽のピラミッド、一番奥が今度はケツアルコアトルの神殿になる。これはこれで上ったかいがある。とてもいい眺めだった。

月のピラミッドを下りてきたところで、お土産を買った。ちゃんとしたお土産屋ではなく、その辺りをふらふらしている露天商からだ。一つはナカさんがTシャツを買おうとして、いくつか買ってくれれば安くするという話になったので、僕も合わせ買った。1枚700円くらいだったかな。これは黒字に白いトカゲのプリントがしてある奴だった。おそらくメキシコの古い神話の神様なのだと思う。
それからキーホルダーも別の露天商から買った。これは一つ200円くらいだったと思う。踊るアステカ人が色の付いた石で模様にされた奴だった。

それからどうしたろう。どこかで飯を食べて帰ったのかもしれない。
よくは覚えていない。だけど、僕はそんなふうに二人の旅行者とその旅行を楽しんだ。楽しい旅行だった。
風邪もすっかり治っていたようだ。あの日一日はとても楽しかった。

2005年の始まりだった。あの年の、新しい一年の始まりはそんな楽しい一日だった。